第30話 本当の私
私は本当の自分がわからない。人によって態度が変わり、どれが本当の私なのか。
学校でよくいるグループは自分を守るため、周りの情報を手に入れるために入っているだけ。グループの人と仲良くしたいなんて一度も思ったことがなかった。
仲良くなれるかもしれない。一度そんなことを考えた。けど、考えているうちにいつもの冷たい私に戻って仲良くなるなんてどうでもいいと思ってしまう。
私はグループ以外にも一緒にいる人が2人いる。それが雪城志帆と羽田涼太。
雪城志帆は高校から一緒で第一印象は何を考えているのか読めない人だった。真面目で目の前にあることをきっちりこなすようなお堅い人だと思った。
けど、違った。彼女といると楽しくて最初は仮面を被っていたけれどいつの間にか彼女の前では素の自分でいた。
羽田涼太も高校から一緒。サッカー部で女子からモテる彼の方から私に声をかけてくれてその日からよく話すようになった。
話しかけてくる男子はいつも私と付き合いたいためだけに近づいてくる人が多かった。けど、男子の中で彼とある1人だけは自分のために近づいてこなかった。
雪城志帆と羽田涼太は大丈夫だ。2人の前なら自分をさらけ出すことができる、仲良くなれるかもしれない。そういつの間にか思うようになっていた。
そして最後に福原奏翔。彼とは中学から一緒で、1年生の頃から少し話す人であった。
私はいつも初対面の人には仮面を被っていい面を全面的に出す。理由は好印象を与えるためだ。最初から悪い印象だと今後に影響するから。
今まで話しかけてくる人は皆、仮面を被った私が好きで近づいてきていた。けど、彼は本当の私の方がいいと言ってくれた。
『何というか……学校での寺川杏は辛そうな感じがして……別にダメというわけじゃないんだけど見ていて不安になるというか……ごめん、変なこと言ってる気がする。聞かなかったことにしていいから』
自分のため偽りの自分でいたがそれを自分で辛いとは思ったことがない。けど、本当は辛いはずなのに我慢していたんじゃないかとあの日からそう思うようになった。
***
お昼はいつもグループで食べることが多い。けれど、今日は大勢で食べる気分ではなく志帆と2人で食べることにした。
落ち着く窓側の志帆の席に座り、お弁当箱を開けると聞き馴染みのある声がした。
「あんしほ、一緒にお昼いい?」
「まとめて言うな~。そっちがそう呼ぶならはーくん呼びするよ」
「それは嫌だな」
隣のクラスからやって来た涼太は、まだ一緒に食べていいとは言っていないが、近くの椅子を借りて杏達の近くへ持ってきてそこへ座った。
「で、何かあったの? 昼食一緒に食べるいつメンは?」
「何かまぁ、今日はいいかなって」
「わかる、私もそういうときあるよ。じゃ、今日は仲良く女子2人と食べるといいよ」
杏がそう言うと涼太はありがとうと一言言ってから購買で買ったサンドイッチを開ける。
「そういやさ、グループでこの前クリスマスはどう過ごすかって話をしてたんだけど2人はどう過ごす予定?」
クリスマスも近く、2人がどう過ごすのか気になった杏は志帆と涼太に尋ねる。
「私は特に何も。ケーキを食べるぐらいでしょうか」
「俺は去年、彼女いないメンバーで集まってクリパした記憶がある」
「それ悲しい集まりだね。そーいや涼太は、彼女作らないの?」
涼太は男子でもかなりモテる方で告白されることはよくあることだが、断られたという噂しか聞かない。
いるから断っているとも言われているが、本当のことは誰も知らない。
「欲しいなとは思うけど別に今すぐにとは思わないかな」
「そかそか。みんなクリスマスは予定ないみたいだしクリスマスパーティーでもしちゃう?」
「それいいですね。私は賛成です」
杏の提案に志帆は手を小さく挙げてすぐに賛成する。
「俺も賛成。カラオケとかでやるか?」
「おっ、いいじゃ~ん。3人だと寂しいし他の友達も誘っていい? かなっちとかさ」
「かなっちってもしかして福原か? 俺は構わないぞ」
「私も構いません。福原くんを誘うなら神楽さんもお誘いしましょう」
話してるうちに参加人数は増えていき、最終的にクリスマスではなくクリスマスイブに8人でクリスマスパーティーをすることに決まった。
***
「美月、水族館、いつ行こうか」
「ん~、もうすぐ試験だからその後?」
昼休み。いつもは4人で食べているが今日は中庭で美月と2人で食べていた。
「クリスマスはどう? 奏翔とクリスマスデートしたい」
「クリスマスか……」
イブはさっき杏達とカラオケに行くことに決まったが、クリスマス当日の予定は空いている。
「うん、俺も予定ないしクリスマスの日にしよう」
「じゃ、予定空けとくね。ふふっ、奏翔との水族館、楽しみ。ご馳走さま」
昼食を食べ終えた美月は両手を合わせて、お弁当箱を片付け始める。そのタイミングで俺も食べ終わり、お弁当箱の蓋を閉めた。
今日のお昼も美月が作ってきてくれたお弁当だ。やっぱり彼女の作る料理は美味しい。
「ご馳走さま。今日も美味しかったよ」
「お粗末様です。そう言ってくれると嬉しい」
そう言って彼女は髪の毛を耳にかけてニコリと微笑んだ。
「昨日……あの後、どうだった?」
昼食中、聞こうか迷っていたことを彼女に聞くことにした。
「みんなで夕食を食べたよ。その後は久しぶりにたくさん話して、今度、お出掛けすることになった」
「それは良かった」
彼女は下を向き、そしてゆっくりと顔を上げるとふんわりとした笑みを浮かべた。
「奏翔には感謝してる。一緒にいてくれたから、側にいてくれたから私は自分の気持ちを両親に伝えられた。本当にありがとう」
話し合うことを勧めたが、それで関係が悪化したらと心配だったが、家族と上手くいってるようでよかった。
「次は私の番。奏翔、困ってることがあるならいつでも相談してね」
彼女の瞳を見て、悩んでることはわかってるよと見透かされているような気がした。美月の観察力は知り合いの中でも高いことは知ってる。心愛と一緒にも美月にも隠し事はできそうにない。
「ありがとう。何かあれば頼らせてもらうよ」
「うん……」
話していると昼休みがそろそろ終わりそうなので俺と美月は教室へと帰ることにする。
お弁当箱を持ち、イスから立ち上がると美月は何かを思い出したのか手のひらを口元に当てた。
「そうだ。今日から商店街のカフェで冬季限定苺のロールケーキが始まるんだった。奏翔、放課後、一緒にどう?」
「うん、いいね。一緒に行こっか」
「ふふっ、やった」
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