第26話 もう答えは出ている

 12月に入り、俺も周りも服装が生地が分厚いものへと変わっていた。だからと言ってマフラーや手袋はまだ必要ない。


 今日は美月と杏と遊びに行く日。行き先は大型ショッピングモール。大きな目的は映画を見ることだ。


 待ち合わせは現地集合にしたが、一緒に行きたいと美月に誘われたので彼女と一緒にその場へ向かうことになった。


 美月のマンションのロビーで待ち、待ち合わせていた時間となると小走りで彼女はやってきた。


「おはよう奏翔。待った?」

「おはよ美月、待ってないよ。それより見えてる?」

「見えない」


 この前もこのやり取りをしたような気がする。サイズが合ってないのかわからないがベレー帽で目が隠れてしまっている。


 美月は、ベレー帽を一度脱ぎ、もう一度被ると今度はちゃんと目が見えていた。見えてるねと言おうとしたその時、着ている服がお母さんからもらった服だったことに気付いた。


「その服、やっぱり美月に似合ってるし可愛い。気に入ったの?」


 そう聞くと彼女はベレー帽を下にやりまた目が隠れた。気のせいかもしれないが彼女の頬がほんのり赤い。


「うん、気に入った……」

「そっか。お母さん、喜ぶよ」


 しばらくすると美月はベレー帽を上に上げて目が見えるようにし、俺の手を優しく握った。


「こうしてると温かいからショッピングモールに着くまでこうしててもいい?」


 上目遣いでこちらを見る彼女は天使ではなく小悪魔のような笑みを浮かべていた。 


「俺、手冷たいよ?」

「じゃあ、私が温めてあげるよ。人の温もりは温かいから」


 片手で握っていたが、美月は両手で俺の手を包み込むように握る。冷たかったはずの手が温かい。


「ありがとう……ショッピングモールに着くまでなら」

「ふふっ、やったっ。じゃあ、行こっか?」

「うん」


 彼女と手を繋いでいるととても安心して、いつもなら周りの目を気にしてしまうがショッピングモールに入るまで気にならなかった。


 ずっとこうしていたい。けれど、目的地に着いたので離さなければならない。


「着いちゃった……寺川さんとは映画館で待ち合わせだっけ?」

「うん、そうだよ」

「映画楽しみ……」

「だね」


 エスカレーターを上がる前に美月から手を離し、俺達は映画館のある4階へ向かう。


 映画館の前に着くと服から杏だと判断し、近づくと彼女は誰かと一緒にいた。


 セミロングの髪に黒のリボン。紫のセーターを羽織り、黒のロングスカートを履いている彼女は俺は一度だけ見たことがある。


(確か杏の友達だっけ……)


 クラスが違うので名前は当然わからず取り敢えず杏の元へ近づいた。


「おはよ」

「あっ、おはよ~かなっちと神楽ちゃん」

「お、おはようございます……」


 この前、自己紹介したばかりで緊張してるのか美月は同級生だが敬語で話す。チラッと杏のとなりを見ると彼女と目が合うと微笑みかけられた。

 

「そうだ、友達の雪城志帆ゆきしろしほ。実は偶然、志帆も同じ映画に観に来てたみたいでかなっち、神楽ちゃん。志帆も一緒にいいかな?」


 杏に紹介してもらった雪城さんはペコリと軽く頭を下げた後、ふんわりと笑みを浮かべた。


「3人で見る予定だったみたいですし私のことは気にせず」


 雪城さんの言葉に俺と美月は顔を見合わせる。多分、思うことは一緒だ。


「俺は構わないよ」

「私も大丈夫」


「ありがと。じゃ、4人で見よっか」


 初対面の雪城さんと映画を見るなんて予想していなかったことだが、杏といると予想していなかったことだが起きるのはよくあることだ。なので驚きはしない。


 雪城さんとは初対面なため俺と美月も自己紹介しお互いの名前がわかった後にチケットを購入し、上映時間までフードコートで軽いものを食べることに。


 このメンバーだと俺から話題は振りにくく杏に任せることにする。


「かなっちと神楽ちゃんとは同じ中学なんだよ」

「そうなんですね。福原くんと神楽さんは、お付き合いしてると噂で聞いてます」


(えっ、そんな噂で名前が広がってるとは……何だか嫌だな……)


「雪城さん。その噂はデマだから。俺と美月は中学からの友達でよく一緒にいるってだけで」


 俺の言葉に隣に座る美月はコクコクと頷く。


「みんな噂好き」


 中学のときも一時期噂されていたが、噂はすぐに消えた。高校でも1年もすれば消えるだろう。


「けど、私は噂は気にならないよ。奏翔くんと付き合ってるって思われるの嫌じゃないもの」


 こちらをニコッと見て笑う彼女に俺はドキッとする。ほんと俺は彼女の笑顔には弱すぎる。


「ね、志帆。これで付き合ってないの不思議と思わない?」

「ふふっ、そうですね。これで噂されないわけがありません」


 杏と雪城さんはお互い顔を見合わせてクスッと笑い合う。


(杏の表情、いつも友達と話してるときより明るい気がする……俺と話してるときのように)


 雪城さんは多分、杏にとって心許せる相手なんだろう。


 


***



 映画が終わると美月と杏は感想を言い合って、テンションが上がっていた。


「あそこからのあれはキュンキュンしたねぇ」

「わかる……あれは予想してなかった展開」


(キュンキュンって見た映画は推理ものなんだけどなぁ……)


 まっ、けど、嫌な予感がすると最初言っていた美月が杏と仲良くなったみたいで良かった。


 嬉しい気持ちで2人の後ろを歩いていると雪城さんが隣へやって来た。


「盛り上がるべきところがお2人とも違うような気がします」

「だね」

「ところで福原くん。神楽さんのこと好きなんですか?」

「えっ!?」


 急な質問に驚く中、雪城さんは俺の目をじっと見て離さない。これは答えるまで逃げられないやつだ。


「どう……なんだろう。恋がどういうものかわからないから答えが出せてなくて。彼女の側にいたい、これからも隣にいたいとは思うんだけど」


 大智に相談してからずっと考え続けてる答え。美月への好きは恋なのか。     


「恋に正解、不正解はないと思いますよ。彼女の隣にいたい、側にいたいとそう思うのならもう答えは出てます」


 雪城さんはそう言ってニコッと俺に笑いかけた。







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