第25話 友達と幼馴染みとのお泊まり③
夜11時。美月と心愛はリビングの隣にある和室に布団を敷き、そこで寝ることになった。美月に一緒に寝ようと言われたが、俺はいつも通り自分の部屋で寝ることに。
美月と二人っきりになれそうな時にメッセージでやり取りして集まると約束していたが、俺も彼女もすっかりそれを忘れていた。
(今、思い出したけど二人きりになれそうなタイミングって意外となかったんだよなぁ……)
ベットへ腰掛け、まだ眠くないので読みかけで続きが気になっていた小説を読むことにした。
確かこの前読んだところの最後では友達が走り去って終わったっけ。
しおりを挟んだところを開き、そのページから読み始めるとコンコンとドアをノックする音がした。
お母さんだろうかと思い、ベッドから立ち上がりドアを開けるとそこには先ほどお休みと言って先に寝たはずの美月がいた。
「奏翔、入ってもいい? 寝ようと思ってお布団入ったんだけど中々眠れなくて……」
てっきりあのことを覚えていて甘えに来たかと思ったが、どうやら違ったようだ。
「じゃあ、何か話そうか。そしたら眠くなるかもしれないし」
「うん、奏翔とお話したい!」
「わかった」
読み始めた小説はいつでも読める。また明日にでも読もう。
美月を部屋に入れると彼女はキョロキョロと辺りを見回し、どこに座ればいいのか困っていた。
「ベットの上でも椅子でも座りたいところに座っていいよ」
ベッドへ腰掛け彼女にそう言うと美月は俺の隣を見た。
「座りたいところ……」
どうしようか少し悩んでから美月はゆっくりと俺の隣へ座った。座るなり彼女はそわそわしながら小さく呟いた。
「何か緊張する……」
緊張するとか言われたらこちらまで変に意識して緊張してしまいそうだ。ここは何か話題を見つけ話さなければ。
「そうだ。美月って休日どう過ごしてるの?」
「休日? 休日は友達と遊んだり、家でゴロゴロしたりしてるよ」
「甘いもの食べに行ったりは?」
「してないよ。甘いものは奏翔と食べに行くって決めて……そう言えば私達、休日に遊んだことないね」
「確かに」
中学からの仲なら休日に会って遊んでいてもおかしくはないのだが、美月とは一度も遊びに出掛けたことはない。
今日までどこかへ遊びに行こうと言う話題が一切なかった。
「放課後どこかへ行くことはあっても休日はなかったね……。奏翔と休日デートしてみたい」
「デートって付き合ってないけど」
「男女で出掛ければそれはデートと呼ぶ……。奏翔は私と休日にどこかに行くのはイヤ?」
「っ!」
うるっとした目で聞いてくる彼女に俺はうっとやられてしまう。
嫌なわけがない。俺も美月と休日にどこかへ出かけたい。
「いいよ。どこに行く?」
「私、水族館行きたい! 可愛いお魚さん見て癒されたい」
「疲れてるの?」
「学校と家ではいい子してるから疲れる……だからたまに奏翔にぎゅーするの」
変に意識しないようにしていたが、美月に抱きつかれる。二人っきりの時にと言ったのは俺なので離れてとは言えない。
(平常心で乗りきろう……)
すぅと息を吸って、吐いて落ち着かせ、俺は美月の頭を優しく撫でた。
美月は俺の前だけ素の自分を見せている気がする。そして俺も美月の前だけは自分らしさを出せている。
「じゃあ、水族館に行こっか。俺も久しぶりに行きたいし」
「奏翔とお出かけ、今からワクワクする。どこの水族館にする?」
「そうだな……」
スマホで水族館と調べると美月は一緒に見たいのか近寄ってくる。腕に柔らかいものがぎゅーと当たる。
「あっ、ここちょっと他のところとは違うって陽菜が言ってた」
「へ、へぇ……」
あっ、これわざとだ。いつもより近いし俺に気付いてほしいのかチラチラと見てくる。
「あの美月さん、近いです」
「甘えたいもの」
「しょうがないみたいな感じで言われても……。気になるし、ここの水族館にしよっか」
「うん!」
遊びに行く場所を水族館に決め、ふと杏からの頼みを思い出した。
「そうだ。あっ、寺川杏から一緒に遊びたいって誘いが来てるけど……どう?」
「寺川さん? 何で?」
「仲良くなりたいって」
「やっぱり……私の予感は間違いなかった」
「?」
「いいよ。奏翔もいてくれるんでしょ?」
「まぁ、そのつもりだよ」
(何となくだが、美月と杏を2人にしてはいけない気がする……)
「ならいい。3人でなら」
「わかった。杏には俺から伝えておくよ」
杏にメッセージを送ってから俺はスマホを持ってベッドから立ち上がる。
「ちょっと水飲んでくる」
「うん、待ってるね」
美月はまだ眠たくないようで俺は彼女を置いてキッチンへ水を飲みに行った。
***
奏翔の部屋に1人になり、私はベッドをじっと見る。
(奏翔……好き……)
奏翔は心愛、陽菜とは違う好きがある一緒にいて楽しくて、ぎゅーとすると安心して落ち着く。隣にいてほしい、これからもずっと一緒にいてほしい。
彼といる時間が多くなっていくほど好きになる。この好きの感情は……恋、なのかな……。
胸に手を当てて目をゆっくりと閉じる。すると、眠たくなり小さくあくびをした。
「ふわぁ……ダメなのに寝ちゃう……」
***
キッチンで水を飲み部屋へ戻ると美月は俺のベッドの上で寝ていた。
(睡魔に負けてる……)
起こすのもあれだしここで寝てもらって俺はリビングのソファで寝ようかな。
おやすみと彼女の頭を優しく撫でると腕を優しく掴まれた。
「美月……?」
「一緒寝よ?」
「えっ、いや、俺はソファで寝るよ。美月はそこで寝てくれていいから」
「ダメ。奏翔、一緒にいたいって言ってた。だから今日は寝るときも一緒……」
「うおっ!」
腕を引っ張られ、俺は美月の隣に寝転ばされた。美月が寝た後にソファへ行けばいいかと思い手元にあるリモコンで電気を消し、目を閉じる。
だが、今日はいろんなことがあって疲れていたからか朝まで起きることはなかった。
目が覚めた時にはカーテンから光が差し込み、部屋が明るくなっていた。
頭を横に向けるとすうすうと気持ち良さそうに寝ている美月がいる。
(結局、朝まで一緒に寝てしまった……)
お母さんや心愛に一緒に寝ていたということが気付かれる前に部屋を出よう。
美月を起こさないようにそっーと起き上がり、ドアを開けて部屋を出ると2階へ上がってきた心愛と目が合った。
「おはよ、奏翔くん。朝起きたら美月ちゃんがいなかったんだけど、もしかして一緒に……」
「早く起きて俺の部屋で話してたんだ」
「……そうなんだ。確かに美月ちゃん、いつも早い時間に起きてるって言ってたよ」
心愛はそう言ってニコッと笑い、背を向けて1階へと降りていった。
(あっ、あれはバレてるわ……)
一緒に寝ていたことがバレないよう動揺せずに言ったつもりだったが幼馴染みである心愛には嘘はつけない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます