第23話 友達と幼馴染みとのお泊まり①
心愛もお泊まりすることが決まった。親からの許可をもらい、お泊まりセットを持って後で俺の家に来るらしい。俺と美月はというと心愛と別れると目的のスーパーへと向かった。
オムライスに必要な卵、肉、そして野菜を買い物カゴに入れ、レジへと向かう。この量であれば俺が1人で持てそうだ。
スーパーを出て家へと向かって帰ろうとすると美月はチラチラと何度かこちらを見てくる。何だろうと思っていると彼女は口を開いた。
「奏翔、私も何か持とうか?」
「ううん、大丈夫。そこまで重いわけじゃないから1人で持てるよ」
「ありがと、奏翔。そう言えば私、友達とお泊まりって学校行事以外では初めて。奏翔は心愛と小さい頃にお泊まりしたって聞いたけど、どんな感じだった?」
「どんな……」
小さい頃というのは幼稚園の頃だ。心愛の家族とは週に一度集まりご飯を一緒に食べていて、お泊まりは祝日があり三連休である時によくどちらかの家に泊まっていた。
今ではあり得ないことだが、大きな布団に一緒に寝ていた覚えがある。
「普通のお泊まりだったよ。子供は先に寝てって言われたんだけど、親たちがうるさくて中々寝れなかった記憶がある」
そこから懐かしい話をすると美月は熱心に聞いてくれていた。
「何か楽しそう……。お泊まりと言えば恋バナ、夜は絶対に3人でしようね」
「3人で……まぁ、構わないが」
どんな恋バナになるのか全く想像できない。やるとしたら心愛は俺のことが好きと美月の前で言うのだろうか。
「で、私は奏翔と寝たいから一緒に寝ようね」
「それはマズイよ」
***
家に帰るとお泊まりセットを家から持ってきた心愛はリビングでお母さんと話していた。帰ってきたことに気付いた心愛はソファから立ち上がり駆け寄ってくる。
「お帰り奏翔くん、美月ちゃん」
「ただいま」
「ただいま、心愛。オムライスを作るために必要なもの買ってきた。奏翔、さっそく作る?」
「そうだね、歩いてお腹空いたし」
キッチンへ美月と行くと心愛も気になるのかついてきた。
「私も手伝うよ」
「ありがとう心愛。キッチンに人でいっぱいになるし手伝って欲しいと思ったら呼んでもいい?」
「うん、了解」
心愛はそう言うと料理の邪魔にならない位置に移動し、作っているところを見ることに決めた。
俺は使うものを全て出して、作る準備をしてから美月に軽く頭を下げた。
「じゃあ、美月先生。ふわふわのオムライス作りお願いします」
「うん、任せて……ほっぺ落ちちゃうくらいのオムライス作るから」
気合いが入っているのか美月は腕をまくりぎゅっと両手を小さく拳を挙げていた。すると、見ていた心愛は美月に質問する。
「美月ちゃんはオムライス得意なの?」
「ちょー得意。オムライスを自分で作りたくて小さい頃、お手伝いさんに教えてもらったの」
卵をときながら美月は楽しそうに話す。
美月から小さい頃の話はあまり聞いたことがない。だからお手伝いさんがいたというのは初耳だ。
初耳なのは俺だけではなく心愛もらしく気になったことを美月に尋ねる。
「お手伝いさん?」
「うん。私の家、お母さんとお父さんが仕事で家を空けてる時間が多いから基本夕方までお手伝いさんが家のことはやってくれてたの」
「そうなんだ」
その後、話を聞くとお手伝いさんは今はおらず家事は美月がしているそうだ。料理は幼い頃にお手伝いさんからいろんなものを教えてもらったので基本的なものは作れるようになったらしい。
「あっ、奏翔。ここからふわふわのオムライスを作るじゅーようなところだから見てて」
「うん」
失敗しないよう話すのは一旦ストップし、俺と美月はオムライス作りに集中することにする。
***
美月がいて、久しぶりに心愛もいて、今日の夕食は賑やかだった。俺と美月が作ったオムライスは好評で心愛とお母さんからはまた食べたいと言われた。
美月の教え通りにふわふわのオムライスを作ってみたが、彼女の上手い教えにより卵はふわふわになった。
(今度は1人で作ってみようかな……)
夕食後、ソファに座りテレビを見ていると先にお風呂に入っていた美月が出てきた。心愛は遅れて入ったのでまだ出てきていない。
出てきた美月は俺の隣へ座り、何か話したそうにする。珈琲が入ったコップを手に取り、飲もうとすると彼女は口を開いた。
「奏翔、心愛の凄かった」
「!?」
美月の発言に俺は危うくコップを落としそうになった。何が凄かったのかは知らないが、俺はその何がかは何となく想像がつく。
「へ、へぇ……」
「私も負けてないよね?」
「さっきから主語があやふやなんだが……てか、上の服がだぼだぼなのがさっきから気になる」
だぼだぼと言うと美月は今着ている服を見て、顔を上げた。
「……最近、流行りのファッション」
「流行ってないと思う。俺ので良ければ貸すけどどう─────」
「借りる!」
「お、おう……ちょっと待ってて」
ソファから立ち上がり自室から着れそうなものを探したところ白のティーシャツがあったのでそれを美月の元へ持っていくことに。
服を手渡すと彼女はそれを着てなぜか嬉しそうな笑みを浮かべた。
「うん、さっきよりはマシだな」
「いい感じ。ありがとう奏翔」
「どういたしまして」
お風呂上がりだからか美月からはいい匂いがする。さらさらな髪は洗って少し濡れていて色っぽく見える。
じっと見ていると美月はこちらに気付き、近づいてきた。
「心愛がいないから充電してもいい?」
「聞く前からくっついてますけど……」
「えへへ、我慢できなかった」
お風呂前の俺にあんまりベタベタしない方がいい気がするが、美月は腕にぎゅっとくっついてくる。
「くっつくのは構わないんだけど俺、まだお風呂入ってないから後はダメ?」
「後にしたら心愛に見られる……私、人に甘えてるところ見せたくない」
「じゃあ、二人っきりになれそうな時にメッセージでやり取りして集まる……とか?」
何を言ってるんだろうか俺は……。美月にどうしても甘えられたいのだろうか。
自分で提案して、恋人でもない彼女におかしなことを言ってしまったことに後悔した。キモイ提案と美月に言われないかとドキドキしていると彼女は嬉しそうに頷いた。
「奏翔、いい提案。じゃあ、今は我慢する」
「……そ、そうか」
美月は俺から少し離れるとテレビで可愛い動物の番組をやっていることに気付き、「あっ」と声を漏らす。
「可愛い……」
テレビを真剣に見ながらポツリと呟く美月を見ていた俺は動物よりも可愛いものに目がない彼女の方が可愛いと思ってしまった。
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