第22話 私もお泊まりしたい
(ん……これは……)
仰向けに寝転び、美月に膝枕をしてもらっていたはずだが、首を横にしてみるとベッドの上にいることに気付き、いつの間にか別の場所にいた。
あれ、おかしいな……さっきまでリビングにいて美月に膝枕をしてもらっていたと思うんだが……。
目を開けて意識がだんだんとハッキリするとベッドがぎしっと音がし、目線をしたにやると美月がベッドの上に乗ってきていた。
(んん?)
美月は誕生日会中、ずっとお母さんからもらった服を来ていたはずだが、なぜか露出の高い服装になっていた。
肩紐が落ちてきてるし、四つん這いで近づいてくるので見えてしまっている……。
「甘やかすって決めたからこれからは奏翔を私なしでは生きられない体にしてあげる」
「な、何を言って……」
近づいてくる彼女を止めようと手を伸ばすとその手を握られた。
「誰もいないから好きにしていいよ……」
「好きに……?」
***
「好きに……」
ゆっくりと上へ手を伸ばすと美月の声が聞こえてくる。
「奏翔? 起きたの?」
「…………」
目を開けてぼんやりとしていた意識がハッキリとすると今いるこの場所がリビングであることを知った。
リビング……あれ、さっきはベッドに寝転んで……ん……ヤバい、混乱してきた。
頭の中を整理するために一度起き上がり、ソファへと座る。すると心配で美月は俺の顔を覗き込んできた。
「奏翔、大丈夫?」
「ん……ちょっと聞きたいんだけど、俺は今起きたばかり?」
「うん、私はずっと起きてたけど奏翔はさっき起きた」
「そ、そうか……俺、リビングにいた?」
「……リビング?」
意味のわからない質問をしてしまった自覚はあるので、慌ててやっぱり何でもないとさっきの質問を取り消す。
美月に聞いてわかったことがある。さっきのベッドでの出来事は全て夢ということ。
あんな夢を見たということは俺は美月のああいう姿が見たいのか? それとも美月なしでは生きられない体にしてほしいのか?
「あっ、ごめん。俺が寝てたせいで帰れなかったよね」
「ううん、だいじょーぶ。奏翔の寝顔見れて幸せタイム」
(えっ、それ恥ずかしいやつじゃん……)
口を開けたまま寝てたとか、いびきをかいていたとか、普段ならいつもしていないことをしていたらと思うと……。
寝るのは不味かったなと思っているとキッチンからお母さんがやってきた。
「美月ちゃん。夕飯食べていかない?」
「夕飯……そ、そんな……この前もいただきましたし……」
何度もご馳走になるわけにはいかない、と美月は遠慮していた。今日も夕飯は1人と聞いていたので俺は彼女を誘うことにした。
「美月、一緒にオムライス作らない? 前からふわふわのオムライスを作って見たかったんだけど俺の料理腕前じゃ難しくて」
「オムライス……うん、一緒に作ろっ。紗希さん、夕飯ご一緒させてもらってもよろしいですか?」
美月がそう確認するとお母さんは彼女にぎゅーと抱きついた。
「もちろんよ。なんなら泊まっていく? 私は大歓迎よ」
「お、お泊まりですか?」
「えぇ、奏翔もいいと思わない?」
「いや、決めるのは美月だろ。それに異性の友達の家に泊まるのはどうかと……」
そう、美月は友達だ。友達の中でも1番仲がいいと思っているが俺と彼女は恋人同士ではない。お泊まりはいいものかと思う。
「別におかしくないと思うわよ。美月ちゃんさえ良ければ」
「……あの、親に聞いてみてもいいですか?」
「もちろん」
美月は無理矢理ではなく自分の意思でこの家に泊まりたいと思ったようでスマホで親に連絡していた。
今日は珍しく母親が家にいるようで電話をかけ、話が終わるとなぜか俺のところへ駆け寄ってきた。
「お母さんからいいって許可もらった……後は奏翔の許可が欲しいんだけど、泊まってもいい……かな? 私、今日はずっと奏翔といたいな」
美月さん、上目遣いでその言葉はズルすぎますよ。心臓がうるさいほどドキドキし始め、慣れない気持ちに戸惑う。
一緒にいたいと思うのは美月と同じだ。けれど、夜まで一緒にいたいとはあまり考えていなかった。お泊まりするなんて思ってもいなかったから。
「お、俺も一緒にいたい……」
「! そっ、それってお泊まりオッケーってこと?」
いつもより大きな声を出した美月は俺に近づき、手を取ってきた。
「う、うん……」
「ありがとう」
「ち、近い!」
グイグイと顔を近づけてきたので俺は一歩ずつ後ろへ下がっていく。
「じゃあ、決まりね。寝間着は私の服を貸せば問題なしね」
「ありがとうございます、紗希さん」
誕生日会が終わり、そこから寝ていたので時刻は夕方。夕食のオムライスを作るために俺と美月はスーパーへ出掛けることにした。
昼間にたくさん食べて運動をしていないのでまだお腹は空いていないので歩いてお腹を空かせるにはいい方法だろう。
家を出てスーパーへ向かっていると前から出掛けて帰ってきた様子の心愛が歩いてきた。
こちらが気が付くと俺と美月はほぼ同時に彼女のことに気付いた。
「奏翔くんと美月ちゃん」
「心愛、今帰り?」
「うん。あっ、美月ちゃん、お誕生日おめでとう」
「ありがとう、心愛。サプライズ、ビックリしたし嬉しかった」
いつものように美月は抱きつこうとしていたが心愛の荷物を持っており、抱きつける状況ではななかったので我慢していた。
「そう言えば2人はどこか行くの?」
送って帰るところには見えなかったみたいで心愛は俺と美月に尋ねる。
「スーパーに買い物。夕飯を一緒に作るの」
「夕飯を……一緒に?」
「うん、今日は奏翔くんの家にお泊まり」
お泊まりのことは言わなくてもいいのではないかと思うが美月は心愛に言ってしまった。すると、心愛は俺の方をじっと見た。
「私もお泊まりしたい」
「……えっ?」
一瞬聞き間違いかと思った。けれど、ちゃんと聞こえたので間違いではないだろう。
「小さい頃、泊まりに行くことは何回かあったし、久しぶりにお泊まりしたいなって……。もちろん、迷惑でなければだけど」
女子2人を泊めるなんて今日の予定には一切なかった。だが、美月が泊まることが決まってる今、何人増えてももう細かいことはどうでもよくなっていた。
「お母さんに聞いてみるよ」
「ありがとう、奏翔くん」
俺は電話するため少し離れると美月は心愛に近づき小さな声で彼女に話しかけた。
「お泊まりしたことあるの、羨ましい……」
「家族同士の付き合いがあったからね。美月ちゃんさえ良ければ夜に奏翔くんの小さい頃の話、しようか? 本人にお願いしても見せてくれない写真もあるよ」
「ち、小さい頃……何それ見たい」
お母さんとの電話が終わり、お泊まりいいよと心愛に伝えようと2人のところへ戻ると女子2人は、悪そうな顔をしていた。
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