21話~30話

第21話 甘やかすつもりが甘やかされている

『ごめんね。本当は会ってお祝いしたかったんだけど予定があって』

「ううん、ありがとう、心愛。とっても嬉しい」


 本当はこの場にいてお祝いしたかった心愛だが、今日は予定があって来れなかった。そこで思い付いたのは電話でのお祝いだ。


『美月ちゃんへのプレゼント、直接渡したいからまた会ったときに渡すね』

「ありがとう」

『じゃあ、またね。陽菜ちゃん、電話繋げてくれてありがとう』

「どういたしまして」


 陽菜は電話を切ると美月の隣に座り、ラッピングされた袋を手渡した。


「私からのプレゼントだよ。改めて、みーちゃん、お誕生日おめでとう」

「ありがとう陽菜。中、見てもいい?」

「いいよん」


 陽菜がどんなプレゼントを用意したのかは知らないので美月の手元を見ていると袋の中からは化粧用品が出てきた。


「わぁ、可愛いリップ」

「みーちゃんに似合うと思って選んだよ」

「ありがとう」


 化粧用品は全く詳しくない俺にはプレゼントできないな。陽菜だからこそ渡せるものだ。


「神楽さん。俺からも誕生日プレゼント。お誕生日おめでとう」

「横田くんも……ありがとう」


 大智は、美月が好きそうなスイーツを買ってきていた。さすがに食べたばかりなので家に帰ってから食べるそうだ。


 2人がプレゼントを渡し、最後に俺の番が回ってきた。美月へのプレゼントは2つあるがこの場では1つだけ渡すことにした。


「美月、誕生日おめでとう」


 みんなより少し、いや、かなり大きいので美月は驚いていた。


「ありがとう、奏翔くん。開けてもいいかな?」


 ラッピングされているのでリボンをほどかなければ中は見えない。俺がコクりと頷くと美月はリボンをほどき、袋から中に入っているものを出した。


「大きなクマさん……」

「美月、ぬいぐるみ好きだし、可愛いもの好きだから……」


 ぬいぐるみなんて子供っぽかったかなと思いつつ彼女を見ると美月はぬいぐるみをぎゅーと抱きしめていた。


「ありがとう、奏翔くん。とっても可愛いぬいぐるみ」


(っ、可愛すぎるだろ……)


 嬉しそうにクマのぬいぐるみを抱きしめる姿に俺は嬉しい半分、不思議な熱が湧いてしばらく冷めそうになかった。



***



 誕生日会が終わると陽菜と大智は先に帰った。美月にはまだ渡したいものがあったので、残ってもらった。


 プレゼントを自室から取りに行き、ソファに座っている彼女の隣に座る。


「美月。実はもう1つ誕生日プレゼントを用意しているんだ」

「もう1つ?」

「うん。何渡したら喜ぶかわからなくて一応もう1つ……」


 1つ目のクマのぬいぐるみは大きかったが、2つ目は小さな箱を彼女に渡す。


 受け取った箱を開けると美月は、口を開けて手で抑えた。


「これって……」

「うん、ブレスレット。美月に似合うのを選んだんだ」


 最初、ブレスレットは重たすぎるのではないかと渡さないことにしていた。けれど、陽菜に相談するといいのではないかと言われた。他の人ならともかく俺が渡すのならブレスレットは重くならないと。


「綺麗……私、可愛いものも好きだけど綺麗なものも好き。つけてほしいな」

「……いいよ」


 箱を開けたまま美月はこちらに向ける。受け取ると箱からブレスレットを取った。


 彼女は手を出して、俺は彼女の手首にブレスレットをつけた。


 美月はつけたブレスレットをうっとり眺めた後、隣にいる俺に微笑みかけた。


「ありがとう奏翔」


 この日のためにいろいろ準備してきたが、彼女に喜んでもらえたのでサプライズは大成功だ。


「私、こんなに盛大な誕生日は初めて。今日の日のことは絶対に忘れないと思う」

 

「……そう言ってくれて準備した側としては嬉しいよ。みんな美月に喜んでもらいたくて誕生日会の準備をしていたから」


「本当にありがとう。幸せで泣いちゃいそう」


 そう言って美月は俺の肩に寄りかかる。最初は友達なのに距離が近いから離れるよう言っていたが、いつの間にか彼女が隣にいてくれることが落ち着くと思うようになっていた。


「今日は誕生日だから好きなだけ甘えていいよ」

「……いいの?」

「うん、好きなだけ」

「好きなだけ……じゃあ、頭撫でて欲しいな。この前の試験、ちょー頑張った」


 手を胸に当てて、どや顔する彼女に俺は思わず小さく笑ってしまった。


(最近、どんな仕草でも可愛いと思ってしまう)


「わかった。いいよ」


 肩にもたれ掛かった状態ではできないので美月には一度離れてもらい、対面になるように座ると手を伸ばして彼女の頭を優しく撫でた。


 すると美月の表情はゆるゆるに緩み、幸せそうな表情をした。


 一度手を離すと美月は手を伸ばし、俺の頭を撫でてきた。


「奏翔も頑張ったからよしよししてあげるね」

「あ、ありがとう……」

「膝枕もするよ? どう?」

「ひ、膝枕は……」


 といいつつ数分後。俺は彼女の膝に頭を置いていた。


「奏翔の頭触り心地よきよき」

「初めて言われたよ……」


 今日が誕生日である美月を甘やかすつもりがこれじゃあ、俺が甘やかされている。


 目を開けると目の前には見てはいけないものがあり、慌てて目を閉じる。


(噂は本当だったか……まっ、まぁ~俺は興味ないが……?)


「奏翔も甘えたいときは言っていいんだからね。私が甘やかしてあげるから」


 そう言って撫でてくれているとだんだん心地よくなっていき、眠たくなってきた。


「頼んだらまた膝枕してくれるのか……?」

「もちろん。してほしかったらいつでも言ってね」


 あれ、俺は何を聞いてるんだろう……いつもならこんなこと聞かないはずなのに……。


 理由を考えているとだんだん眠気が襲ってきて俺は目を閉じた。




***




 彼の頭を撫で、ふと下を向くと奏翔は目を閉じて気持ち良さそうに眠っていた。


「寝ちゃった……ふふっ、もしかして私の膝枕が良すぎて眠くなったのかな」


 私は今、とても幸せだ。甘いものを食べているときももちろん幸せだが、それとはまた違った幸せ。


 ブレスレットを見ると楽しい今日の思い出を思いだし、口元が自然と緩む。


「奏翔、素敵な誕生日をありがとう……。特別な日になったよ」


 今日の日のことは忘れないように後で帰ったら日記に記そう。



 

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