第20話 幼い頃の記憶と誕生日会
「誕生日おめでとう、美月」
「おめでとう美月」
「……ありがとうお母さん、お父さん!」
誕生日が来る度に思い出す。お母さんとお父さんにおめでとうと祝ってもらったあの日のことを。その日のことを思い出すと幼い頃は3人でよくいろんなところに出掛けていたことも思い出す。
あの頃のようにまた家族でどこかへ行きたい。1人も好きだけど、誰かといる方が好きだから。
けど、そんなわがままは言えない。お母さんもお父さんも家族のために働いてくれているのだから。
「お帰りなさい」
時刻は日にちが変わり深夜1時。もう高校生なのだからこう思うのはおかしいかもしれないが、起きていたらおめでとうと祝ってくれることを期待した。だから夜遅くて眠たかったがお母さんが帰ってくるまで私は起きていた。
「ただいま。まだ起きてたの? 早く寝なさい」
「…………うん」
5歳の時からお母さんは私より仕事優先で、私の誕生日なんて忘れたのか祝ってくれることはなくなった。それはお父さんも同様だ。
多分、私になんて興味がないのだろう。1日のうち会話することもほとんどないのだから。
朝起きると誰もいない、夜寝る前も誰もいない。そんな日々が続いているのだから。
幼稚園から中学にかけて朝から夕方まではお手伝いさんがいたが、夜には1人になり寂しいと思うことはよくあった。けれど、1人の時間になれてくると1人でも平気になった。
(やっぱり私の誕生日なんて覚えてないよね……)
誕生日はあまり好きじゃない。来る度にあの頃のことを思いだし、悲しくなるだけだから。
明日は友達が誕生日会を開いてくれる。誕生日は好きではないが、祝ってもらうことが嫌なわけではないので楽しみ。
(早く寝よう……)
***
美月の誕生日会当日。彼女が家に来る1時間前から俺の家では陽菜と大智と協力して誕生日会の準備をしていた。
陽菜は部屋の飾り付け、俺と大智は食べ物の準備だ。ケーキは彼女の好きなチーズケーキを俺が作り、大智はケーキ以外のものを買いにスーパーへ。
チーズケーキが完成した頃、リビングから陽菜とお母さんの声が聞こえてきた。
「いいわね。誕生日会って感じがするわ」
「紗希さん、お手伝いありがとうございます!」
「うふふ、可愛い美月ちゃんの誕生日会ですもの。私も手伝いたいわ」
どうやら途中からお母さんは陽菜の手伝いをしていたようだ。こちらの視線に気付いたのか陽菜はキッチンへ駆け寄ってきた。
「あっ、奏翔。チーズケーキ完成?」
「うん、できたよ」
ワンホールのチーズケーキを見て、陽菜は美味しそうと呟く。すると、玄関から音がして大智が帰ってきた。
「ポテトとかピザとかみんなで分けられそうなもの買ってきた」
「ありがとう、大智」
「ありがと。じゃあ、皿とかコップ用意しようか」
後10分。お母さん含む4人で協力して何とか準備ができた。その数分後にインターフォンが鳴り、俺は玄関まで急いで行く。
ガチャとドアを開けるとそこにはベレー帽を被り、前にお母さんからもらっていた服を着ていた。
「おはよう奏翔」
「…………見えてる?」
「見えない」
ベレー帽のサイズが合っているのかわからないが、美月は俺の目を見ようと上を向くとベレー帽で目が隠れた。
ベレー帽を脱ぐと美月は何事もなかったようにニコッと天使スマイル。
「おはよう美月。誕生日おめでとう」
会ったらすぐに言うと決めていたのでお祝いの言葉を送ると美月はありがとうと一言。
「今日、とっても楽しみにしてた」
「それは良かった。陽菜と大智、来てるよ」
美月を家へ入れて彼女に前を歩いてリビングへ行ってもらうとクラッカーが鳴った。
「「誕生日おめでとう」」
陽菜と大智、お母さんはクラッカーを鳴らすと声を揃えて彼女に言った。
ビックリするだろうなと思って彼女を見るとクラッカーとみんなのお祝いに美月は涙を流していた。それを見て陽菜は慌てて彼女に駆け寄る。
「えっ、みーちゃん? ごめんね、大きい音だからビックリしたよね?」
「ううん、嬉しくてビックリして……」
泣かせてしまったが、これは嬉し泣きだったみたいだ。良かったとホッとしていると美月はハンカチで涙をぬぐい、みんなの顔を見る。
「みんなありがとう」
「まだ感動するには早いよ、みーちゃん」
陽菜は彼女の肩を持ち、小さく笑うと美月はきょとんとした顔をする。
「早い?」
「うん。ほらほら、主役のみーちゃんはここに座って。で、隣はもちろん奏翔ね」
陽菜は美月をソファへと座らせ、大智と一緒に美月の目の前へと座る。
美月がどこに座るのかは事前に決めていたが、隣に座るとは初耳なんだが。
座るところもないので美月の隣にゆっくりと座ると陽菜がみんな座ったことを確認し、口を開いた。
「じゃあ、食べよっか。みーちゃん、好きなの食べていいからね」
テーブルには大智が選んだものや俺が今朝作ったものが並べられている。
「凄いご馳走。いただきます」
美月は両手を合わせ、お皿に好きなものを乗せていく。その後に俺達も分け皿に乗せていった。
みんなで楽しく食べた後はケーキだ。美月には目を閉じてもらい、その間に俺はろうそくが立っているケーキを片付いたテーブルへと置いた。
電気を消し、ろうそくに火をつけたところで、美月に目を開けていいよと声をかける。
「開けるよ?」
「うん」
美月は目をゆっくりと開けると「わぁ」と声を漏らした。
「綺麗……」
彼女はチーズケーキに刺さったろうそくをうっとりと見つめる。
「みーちゃん、ふーしないと」
「あっ、そうだね」
「じゃあ、ふーする前に……」
みんなで歌い、おめでとうと言うと美月は少し多すぎるかもしれないが年齢分の16本のろうそくの火をふぅと消した。
ケーキはワンホールあったので、みんなで分けて食べることになった。味見をしていないので味が心配だ。
一口食べると美月が明るい声で俺に話しかけてきた。
「んっ、美味しい! 奏翔、もしかしてこれって……」
「うん、俺が作ったんだ」
「凄い。お店に出せる美味しさ」
美月は片手を頬に添えて、とても幸せそうな表情をしていた。心配してたが、チーズケーキはどうやら成功みたいだ。
(ん、確かに美味しい……)
口の中に入れたチーズケーキは甘い香りが広がり、幸せな気持ちになる。
チーズケーキを完食すると美月は、両手を胸に当てて目を閉じた。
「私、今日、とっても幸せ……サプライズに美味しい食べ物……幸せでいっぱい。みんな本当にありがとう」
そう言ってゆっくりと目を開けた彼女の頭を俺はゆっくりと撫でた。
「まだ終わってないよ」
「……まだ?」
「うんうん、まだだよ。今からプレゼントターイム! 心愛ちゃん、準備はいい?」
スマホの画面を美月に見せた陽菜は画面に映る心愛に尋ねる。
『うん、大丈夫だよ』
「……心愛?」
『お誕生日おめでとう。美月ちゃん』
誕生日会はまだ終わらない。サプライズはまだまだこれからだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます