第19話 告白後と初めまして

 翌日。電車に乗ると偶然心愛と出会った。昨日のことがあったからか出会うと不思議な空気が流れた。


「お、おはよ……」

「うん、おはよ。奏翔くん」


 俺がいつも通りじゃなかったから心愛が困るだけだ。いつも通りの自分でいないと。


「心愛。日曜日、空いてたりする?」

「日曜日?」

「うん。美月の誕生日会をするつもりなんだ。だから心愛も良ければどうかなって……」


 心愛と美月は友達だ。心愛も来てくれれば美月は喜ぶだろう。だが、心愛は両手を合わせて謝った。


「ごめんね。美月ちゃんのお祝いしたいけど、その日はどうしても外せない用があって」

「そっか」

「参加はできないけど、私もお誕生日会のお手伝いしてもいいかな?」

「もちろん。今日の放課後、誕生日会で使うものいろいろ買いに行く予定なんだけど、心愛も来れそう?」

「うん、行けるよ」


 美月の誕生日会に参加はできないが、準備をするメンバーとなったので俺と大智、陽菜の3人の「みーちゃん誕生日委員会」というトークルームに心愛も入った。


「放課後、待ち合わせてショッピングモールに行く予定だからもしこっちのクラスが先に終わったら迎えに行くよ」

「了解です。私のクラスが先に終わった時は奏翔くんの教室に待っていたらいいかな?」

「うん」

「わかった」


 心愛はスマホの画面を見て何か嬉しいことがあったのか小さく笑い、カバンにしまおうとしたその時、電車が揺れて彼女は俺の胸にもたれ掛かった。


「心愛、大丈夫?」


 密着して大丈夫ではない俺だが、今は彼女の方を心配しなくてはならない。


 小さな大丈夫という声がしてすぐに離れると思ったが、心愛は俺の胸にもたれ掛かったまま動かない。


「何かこうしてると落ち着く……小さい頃、泣いてた私を抱きしめてくれた時あったよね?」

「えっ……あ~あったな……って、心愛さん、電車の中ですよ……」


 近くからいろんな人の視線がこちらに向けられており、心愛に知らせると彼女はバッと離れて顔と耳を真っ赤にしてペコペコと謝った。


「ごっ、ごめんね、奏翔くん。お、落ち着くなぁって思ったら離れること忘れちゃって」

「いや、大丈夫なら良かった……」


 また不思議な空気になり、お互い黙り込んでしまう。


 電車が止まり、ドアが開くと人が乗ってきて俺と心愛は開いた方と逆の方へ寄る。すると、聞き覚えのある声がした。


「あ~かなっちじゃん。おっは~」

「おう……おはよう」

「こあこあもおっは~」

「おはよう、杏ちゃん」


 少し気が抜けそうな挨拶をしてきたのは杏だ。その隣にはなぜか同じクラスの羽田涼太はだりょうたがいた。


 羽田とはクラスが一緒だが、あまり話したことはない。だが、羽田は俺を見るとよっと手を小さく挙げて挨拶してきたので俺も手を小さく挙げて挨拶する。


「杏、福原と知り合いだったんだな」

「うん、同じ中学だからね」


 杏と羽田が仲がいいとは初めて知った。けどまぁ、どちらもコミュ力高めでカースト上位にいる2人だからきっかけなんてなくても仲良くなれるのだろう。


「福原、彼女いたんだな」

「えっ、いや、幼馴染み」

「奏翔くんの幼馴染みの水島心愛です」


 初対面なので心愛は自己紹介し、羽田にペコリと頭を下げた。


「これはご丁寧に。福原と同じクラスの羽田涼太です」


 自己紹介し終えると降りる駅に到着し、俺と心愛、杏、羽田は降りる。降りると羽田は何かに気付いた。


「あっ、友達見つけたからここで。福原、また後で」

「あ、あぁ……」


 羽田が離れていくと心愛は「あっ」と声を漏らした。


「私、早く行かないといけない日だった。また放課後にね、奏翔くん」

「うん、また」


 心愛もいなくなり2人きりになると杏は俺の隣に来てピトッとくっついてきた。


「もしかしてこの駅で神楽さんと待ち合わせてる?」

「うん。後、陽菜と大智とも」


 ここ最近まで1人で登校していたが、最近は4人で集まって学校へ登校している。


 改札を抜けても杏は俺の後をくっつき、待ち合わせ場所へと行くと美月が先に来ていた。


「美月、おはよ」


 スマホを見ている彼女に声をかけると美月は顔を上げて俺の顔を見るなりぱぁーと笑顔になったが、後ろにいる杏を見ると警戒してるのか一歩後ろへ下がった。


 後ろへ下がった美月と反対に杏は彼女に近づくため俺より前に出た。


「初めまして、神楽ちゃん。同じクラスになったことないから一応自己紹介するね。寺川杏です」

「……初めまして。神楽美月です」


 緊張してガチガチな美月は自己紹介すると俺の服の袖をなぜかぎゅっと握ってきた。


 人見知りなのに自己紹介、良くできましたと今すぐ頭を撫でたい……。杏がいるからここではしないが。


「可愛いね、神楽ちゃん。天使の神楽ちゃんと呼ぼう」

「そ、それは……神楽ちゃんの方がいい」


(美月は天使より小悪魔って感じがする、行動から……笑顔は天使であるが……)


「じゃあ、神楽ちゃんって呼ぶね。じゃ、私は先に行くね。バイバイ」


 杏は手をヒラヒラさせて学校へ歩いていった。2人になると美月はボソッと小さな声で俺に聞いてきた。


「寺川さんってどんな子?」 

「どんな……コミュ力高めで誰とでも話せる人かな」


 美月も杏と話してみてそう思ったはずだ。だが、美月は杏に対して他にも思うことがあったようだ。


「そうなんだ。私、嫌な予感がするの」

「嫌な予感?」


 何を思って嫌な予感がしたのか聞こうとしたその時、足音がした。


「おっはよ~みーちゃん、奏翔!」


 明るいテンションで現れたのは陽菜だ。後ろから大智がゆっくりとついてきていた。


「おはよ、陽菜」 

「今日も可愛いよ」


 駅前という人が多い場所なのに陽菜はむぎゅーと美月に抱きつく。


「おはよ、奏翔。神楽さん、誕生日会オッケーしてくれて良かったな」


 遅れてやってきた大智は昨日送ったメールの話をする。


「うん。今日の放課後買いたいものは大体決めてきた」

「神楽さんへとプレゼントもか?」

「それがプレゼントは色々悩みすぎてまだなんだ。どういうのを渡したら喜ぶかわからなくて」


 中学2年生、中学3年生と毎年渡していたのは手作りのお菓子だ。今年も何かを作ってそれを渡すつもりではいるが、今年は別に違うものもプレゼントしたい。


「奏翔が選んだものなら神楽さんは喜んでくれると思うぞ」 

「……そうだといいんだけどな」


 美月の誕生日まで後数日。何をプレゼントしようか……。




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