第18話 押しカップルと気付く恋

 1週間前。私は、杏ちゃんにとあるカフェで恋愛相談に乗ってもらっていた。


 悩みというのは「心愛は恋愛の意味で奏翔のこと好き?」と美月ちゃんから聞かれて、「えっ、わ、私が奏翔くんのことを? 私は奏翔くんをそういう風には見たことないな……」と答えた自分の答えに後から自問自答したこと。


 嘘はついていないはずなのになぜか自分の気持ちではないことを言ってしまったような気がしていた。


 自分が思うことを話すと杏ちゃんはポテトを摘まみ、口を開いた。


「好きじゃないはず……そうだよね?って思ったんでしょ? ならこあこあはかなっちのことが好きなんだよ」

「すっ、好き!?」


 いつもは大きな声は出さないが、驚きのあまり大きな声を出してしまい、恥ずかしく顔が真っ赤になっていくのを感じた。


「好きって私は奏翔くんとは幼馴染みで……」


「こあこあ。かなっちと神楽さんのことを応援してる。だから自分は好きになったらダメなんてないからね? 恋愛は自由だよ」


 摘まんでいたポテトをパクっと食べると杏ちゃんは、汚れた手をウェットティッシュで拭き、メロンソーダを飲む。


「好きっていう気持ちは早く気付かないと遅いからね。のんびりしてたら負けヒロインになっちゃう。漫画とかで幼馴染みは小さい頃から仲良くて中々恋に気付かないパターンが多いのよ」


「……私、奏翔くんに恋してるのかな」


 わからない。小さい頃から一緒にいて、奏翔くんと過ごす時間は嫌いじゃなくて……。


「わからないなら質問です。こあこあは、かなっちのこと好きか嫌いだったら?」


「好きだよ」


「あはは、即答……じゃ、質問2。かなっちと神楽さんが付き合い始めたらどう思う?」


「盛大にお祝いする! 奏翔くんと美月ちゃんが付き合ってほしいっていうのは私の偽りのない気持ちだから」

「そ、そう……」


 メロンソーダをテーブルに置くと杏ちゃんは、手を口元に当ててうーんと悩む。


「こあこあにとってあの2人は押しカップルなのか……。どうしよ、かなっちに好き好きアピール計画をオススメしようかと思ったけど……こあこあはあの2人の恋の邪魔者にはなりたくないんだよね?」


「ん~、できれば……」


 奏翔くんと美月ちゃんの恋を応援している。この気持ちには偽りはない。けど、自分の気持ちは無視してもいいのだろうか。


 もし、本当に私が奏翔くんを異性として好きだったら私は好きという気持ちを無視するのだろうか。


「恋はその相手といるとドキドキするの。それだけは覚えといて。こあこあ、また進展あったら教えてね。いつでも相談のるから」

「ありがとう」


 相談に乗ってもらったその翌日。杏ちゃんが好きと言っていたのを思い出し、奏翔くんと朝会うと緊張していた。


 いつもなら普通に話せるはずなのに緊張している。声のトーン、表情……おかしなところはないかと気にしながら奏翔くんと話していると私は彼に腕を捕まれ、胸へ引き寄せられた。


「赤信号なのに危なすぎるだろ……。心愛、大丈夫?」

「だ、大丈夫……ありがとう、奏翔くん」


 うるさいほどに心臓がドキドキしている。これは車に退かれそうで危なかったからドキドキしているんじゃない。今、この抱きしめられている状態にドキドキしてるんだ。


 杏ちゃんの恋は相手といるとドキドキするという言葉を思い出し、私はもしかしてと思い始める。


(お、応援したいのに好きになってもいいのかな……)


 理想の2人の邪魔者にはなりたくないとこの前、言ったばかりなのに。



***



「奏翔くんのこと好きみたい」


 すぐには理解できなかった。けど、時間が経つにつれてやっと状況がわかった。今、心愛に告白されたことが。


 驚いていると心愛は俺から手を離し、両手を重ねて膝に置く。


「返事はいらないよ。好きっていうことを知って欲しかっただけだから」

「…………わ、わかった」

「うん。じゃあ、歌おっか」


 心愛にマイクを渡され、俺はそれを受け取る。


 告白されて返事は要らないと言われたが、言われたことを無視してはダメだ。ちゃんと彼女の気持ちを受け取り、考えなければならない。


 心愛と歌い、その後、みんなが歌っているところを見た後、気付いたらグラスに飲み物がなくなっていることに気付いた。


(何か入れてこよう……)


 陽菜が歌ってる中、そっーとカラオケルームを出てドリンクバーでメロンソーダを入れる。


 ふぅと息を吐き、カラオケルームに戻ろうとすると後ろから名前を呼ばれた。


「奏翔」

「うおっ!」


 驚き危うくグラスを落としそうになった。後ろをゆっくりと振り向くとそこには美月がいた。そして振り向くと美月はぎゅーと抱きついてきた。


 いつもなら長い時間抱きついているが、人がいつ来るかわからない場所だからかすぐに離れた。


「そうだ。美月、今度の日曜日予定ある?」

「予定? ないけど」

「美月、もうすぐ誕生日だったよね? 誕生日会を開こうと思うんだけど……」

「誕生日会、嬉しい……けど……いいのかな?」


 誕生日会を開くことに嫌というわけではなさそうだが、なぜか彼女は少し遠慮しているように見える。


「陽菜が盛大に祝いたいらしい。俺も祝いたいからさ」

「……ありがとう。けど、どこでするの? 私、誕生日の日は家にお母さんがいて難しいかも。お母さん、うるさいと怒るし」

「じゃあ、俺の家でもいいかな? 来てくれたらお母さんも喜ぶと思うし」

「うん。誕生日会やるなら紗希さんに言わないとだね」


 祝うことの許可をもらったことなので、今日から陽菜と大智と話し合って誕生日当日に何をするか決めていける。


(やるなら記憶に残るぐらい盛大にやろう……)


「誕生日会、楽しみにしてるね」

 

 美月はニコッと俺に笑いかけ手に持っていたグラスにメロンソーダを入れた。


「奏翔が私と2人でいたいならこのまま抜け出しちゃう?」

「そろそろ戻るか」

「む~奏翔のバカ」


 罵倒し、リスのように頬をぷく~と膨らませた彼女は先に歩き始めた俺の後を慌てて追いかけ、隣へ来ると腕を組んできた。


「美月、危ないって」

「甘えたいもの……」

「後でな」

「約束だからね?」

「うん」


(美月に伝わってないよな……)


 心臓のドキドキが彼女に聞こえるのは恥ずかしい。抱きつかれて上がった熱はすぐに冷めそうにないな……。







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