第16話 奏翔と美月の出会い③
美月と出会ってから2ヶ月後。クラスも違い中々会えないので、彼女とは電話で話すこともあった。
勇気を出して連絡先の交換がしたいと言ったところ彼女は交換してくれた。
その日、家に帰っても彼女と連絡先の交換ができて、嬉しかったのでしばらく口が緩みっぱなしだった。
そろそろ寝ようとベッドに寝転び、スマホの電源をつけると連絡先一覧にある美月と書かれたところをタップして何か送ってみようかとメッセージ内容を考える。
「最初はやっぱりよろしくだよな……」
よろしくとクマのスタンプを押してみるとすぐに既読がつき、よろしくと猫のスタンプが返ってきた。
はやっと心の中で突っ込みをいれ、もしかしたら偶然スマホを見ていたからこんなに返信が早かったのだろうと思った。
よろしくの後はどうしようかと考えていると神楽さんからメッセージが来た。
『福原くん、今、大丈夫?』
大丈夫なのですぐに大丈夫だとメッセージを返信するとまたメッセージが送られてきた。
『電話でお話ししたいんだけど……』
(電話……)
寝ようとしていたが、まだ眠たくはないのでいいよと返信すると神楽さんから電話がかかってきた。
すぐに通話ボタンを押すとスマホからガサッと音がした。そして神楽さんの声が聞こえた。
『ふ、福原くん……こんばんは』
「こっ、こんばんは、神楽さん」
あちらが緊張しているとこちらも緊張してしまう。けれど、神楽さんからは緊張とともに少し声が弾んでいた。
『ごめんね、急に。メッセージ送られてきて、福原くんの声聞きたくなって……』
「ううん、いいよ。まだ起きてるつもりだったし」
声が聞きたくなって電話をかけてくれたことが嬉しくてこの嬉しさを声に出したかったが、我慢した。
『今日、福原くんに連絡先交換しよって言われて嬉しかった。学校ではあんまり話せないし……』
「そうだね。クラスが違うから」
あんまり話せないが、俺は彼女とたまに会って話す、この短い時間が特別で好きだ。会えるとその日、嫌なことがあっても忘れることができる。
『福原くんはさっきまで、何してたの?』
「読書してたよ。神楽さんは?」
『私はゴロゴロしながらファッション雑誌を読んでたよ。可愛い服をチェックしてたの』
「神楽さん、可愛いもの好きだもんね」
『うん、ちょー好き』
電話だと相手の顔は見えないが話すことはできる。神楽さんは「今日、福原くんに連絡先交換しよって言われて嬉しかった」と言った。そう言われて連絡先の交換をして良かったなと思えた。
彼女と話し出すと夢中になり時間が経過するのが早いように感じた。
「そうだ。神楽さん、誕生日おめでとう。本当は会ったときに祝えれば良かったんたけど……」
『……誕生日教えたっけ?』
しまった。彼女は誕生日を設定していた。連絡先を交換して、誕生日が書かれていたところを偶然見たことを伝えなければ相手が不思議に思うはずだ。
「た、誕生日設定してたからそれを見て……」
『あっ、そういうこと……ビックリした、教えた覚えなかったから。ありがとう、福原くん。直接じゃなくても祝ってもらえて嬉しい。福原くんは誕生日いつなの? 私も祝いたい』
「9月3日だよ」
『…………』
誕生日を教えると神楽さんは黙り込んでしまい、スマホの調子でも悪くなったのかなと思っていると声が聞こえてきた。
『もう過ぎてる……』
「あーうん。過ぎてるね。まだその時は神楽さんと出会ってなかったっけ?」
『うん……あっ、来年は必ず祝うね!』
「ありがとう」
来年、神楽さんから誕生日を祝ってもらえることだけじゃない。来年もこうして話せる関係でいられると思うと少し嬉しかった。
中学3年生。神楽さんと同じクラスになった。お互いに友達はいたが、彼女と学校で過ごす時間は多かった。
一緒にいると付き合っていると噂されるが、神楽さんといる時間は楽しいし、居心地が良かった。
誕生日。神楽さんは1年前の約束を覚えており、お祝いしてくれた。
「奏翔、お誕生日おめでとう。クッキー作ってきたよ」
「ありがとう。神楽さん」
可愛くラッピングされたクッキーを彼女から受け取った。
お昼休みにそのクッキーを食べてみるととても美味しかった。後から知ったことだが、神楽さんはお菓子作りが得意らしい。
「今日はクッキーありがとう。美味しかったよ」
『ほんと? 良かったぁ』
受験生になり電話をする回数は減ったが、話し出すと気付けば時間が経過していていつも眠たくなった頃に電話を切っていた。
高校受験。お互い偶然同じ高校に進み、受験の日も結果発表の日も一緒に高校へと向かった。
「合格したことだしお祝いに何かしたいね」
「そうだね。この後、心愛とお昼食べに行く予定なんだけど、良ければ神楽さんも来る?」
「いいの?」
「もちろん。心愛も喜ぶよ」
「じゃあ、行く!」
「わかった。心愛に連絡しておくよ」
中学から高校になっても神楽さんとの関わりは変わらず一緒に過ごす時間は多かった。
***
「いい話ね。恋愛漫画みたい」
「もうこの話はやめよう。美月、外ももう暗いし送っていくよ」
「ありがとう。途中までお願いしようかな」
お母さんに話していると気付けば外は暗くなっておりそろそろ帰った方が良いだろうと思った。
ソファから立ち上がると美月はお母さんにペコリと頭を下げた。
「紗希さん、お邪魔しました。この服、大切にしますね」
「いえいえ。奏翔とデートの時にでも着てね」
「お母さん!?」
隣を見ると美月はクスクスと小さく笑い、俺の方を見るとニコッと微笑んだ。
これは出会ったときからずっと変わらないことなのだが、俺は彼女の笑顔に弱い。見るたびにドキッとしてしまう。
「奏翔」
名前を呼ばれ、横を向くとそこには美月がいて、綺麗な瞳を真っ直ぐと向けられた。
「もし良かったらなんだけど明日、奏翔の分もお弁当作ってきてもいいかな……」
「お弁当?」
「うん。明日、お弁当に鶏胸肉のねぎ炒め入れるつもりだから。奏翔にまた食べて欲しくて……」
鶏胸肉のねぎ炒めと聞いてあのときの味を思い出すと夕食を食べた後だがお腹が空いてきた。
「けど、2人分のお弁当って作るの大変だと思うけど……」
「大丈夫。作るの好きだから1つ増えても問題なし」
彼女は両手を腰に当てて、任せてと言いたげな表情をする。
「美月の作った料理好きだからお願いしようかな……けど、無理はしないで」
「うん!」
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