第14話 奏翔と美月の出会い①

 夕食後。ご飯を食べ、俺が3人分の食器を洗い終えてリビングへ行くと美月が駆け寄ってきた。


 何事かと思ったのもつかの間、美月に抱きつかれた。ふんわりと髪を靡き、甘い匂いがする。


 お母さんが後ろで見てるからと言って離れてもらおうとしたその時、彼女の服装が制服から上はカーキのニットで、下は膝が隠れる長さの黒のスカートに着替えていることに気付いた。


「あれ、服変わった?」

「うん。奏翔、変化にすぐ気付く男の子はモテるらしいよ」

「どこ情報だ……」


 いつもならもっと長く抱きしめられるが美月は俺から離れ、目の前でクルッと回った。


 スカートがふわりと舞い、美月は俺の方をじっと見た。俺はそこまで鈍感ではないのですぐに彼女がこちらを見ている理由を察した。


 美月とは休日には会ったことがないので制服以外の服装を見るのは新鮮だ。休みの日はいつもこういう服装なのかなと妄想を膨らませかけたが、変な奴に思われるので妄想をやめる。


「美月にとても似合ってる。可愛いよ」


 素直な感想を述べると目の前にいる美月は顔を真っ赤にして片手を頬に添える。


「ありがとう。紗希さんに着てほしいって頼まれて着てみたんだけど」


(俺がいない間に何してるんだ、お母さんは……)


 美月を気に入っているのは行動からわかるが、俺が見ていないと暴走しそうだ。


 にこにこと微笑ましくこちらを見ているお母さんに彼女が着ている服のことを聞こう。


「お母さん、この服どうしたんだよ」

「私が昔着ていたお気に入りの服よ。美月ちゃんにピッタリじゃないかと思って着せてみたんだけど、とっても似合ってて驚いてるわ」


 お母さんに無理やり着せられたのなら怒るところだったが、美月が嬉しそうにしていたので特に何も言わなかった。


「美月ちゃん。気に入ってくれたのならその服、もらってくれないかしら? 私はもう着れないからね」

「ですが、この服は紗希さんの……」


 もらってほしいと言われるが、お気に入りの服を私がもらってもいいのかと美月はどうしようかと戸惑う。


「いいのよ。私が持っていても着れないから。もらってくれると嬉しいわ」


 お母さんはそう言って優しく微笑みかけると美月はコクりと頷いた。


「ありがとうございます、紗希さん」

「いいのよ。ところでずっと前から気になっていたのだけれど、奏翔と美月ちゃんはどういう風に仲良くなったのかしら?」


 急すぎる質問だ。別にお母さんに話さなくてもいい話だと思うが、美月は話したいのか楽しそうに語りだした。


「私と奏翔くんの出会いは中学2年生だよね?」

「あぁ、そうだな」


 仲良くなったのは中学2年生。クラスが同じになって仲良くなったという感じではなかった。



***



 中学2年生の秋。男子からモテているという噂で名前は知っていたが、美月とは同じクラスではなかったので話す機会もなかった。


 背が他の人より少し小さく可愛い。その上性格がいいことから人気があった。一度でいいから見てみたいと思っていたが中々会うことはなく。だが、ある日の放課後。噂で聞いていた外見をした女子を見かけた。


 職員室で先生に何かを渡すと先生から積み重なったプリントを受け取っていた。


「これ、お願いね」

「はい」


 近づくとそんな会話が聞こえて、職員室の扉は閉まった。


 1人で運ぶ量じゃないだろと思いつつ見ていると彼女の持っているプリントが落ちそうなことに気付いた。驚かせてしまわないようそっと彼女の後ろに近づくと俺は半分プリントを取った。


「持つの手伝うよ」


 どこへ運ぶのかわからないが、2人で運んだ方がいいと思い、手伝うことを彼女に言うと立ち止まりじっと見られた。


「……誰?」

「あっ、ごめん。知らない奴に手伝われるとか怖いよな」

「ううん、ありがとう。私に好かれたくて近づいてきた人かと思ったけど、あなたが善意で手伝いに来てくれたことは目を見てわかったから」


 目を見てニコッと笑った彼女の笑顔は天使のようで、俺は思わず見とれてしまった。


「えっと自己紹介だったよな。俺は2年3組の福原奏翔」

「じゃあ、同い年だね。私は神楽美月。クラスは4組」


 互いに自己紹介すると、プリントを持って歩き始める。


 どこへ運ぶのか聞くと彼女は4組と答えた。どうやら担任の先生にこのプリントをセットにしてほしいと頼まれたらしい。


「ほんとは早く学校出てチョコレートケーキ食べに行くつもりだったのに……」

 

 ボソッと呟く彼女の言葉に俺は苦笑いし、こうした方が良かったのではないかと案を出す。


「適当な嘘ついても良かったんじゃない?」

「ん……そうしたかったけど、嘘ついてバレたら面倒かなって……。後、私、断れないの。断るの苦手で……」

「ちょっとわかる。俺も断る方がめんどくさいって思ってる」


 このことを友人に言うといつも「引き受ける方がめんどいだろ」と突っ込まれるが、まさか似たような考えを持っている人が自分以外にもいるとは思わなかった。


 学校で人気者と言われていて近寄りがたい人だと勝手に思っていたが、親近感湧き、仲良くなれそうな気がした。


 教室へ着くと彼女はこちらを見て嬉しそうに微笑みかけてきたので俺もニコリと笑う。


「私たち似てるね」

「そうだね」


 ドアを開け、教室の中へ入ると机にプリントをゆっくりと置く。


「で、このプリントを4枚セットにするんだっけ? 俺も手伝うよ」

「……いいの?」

「2人でした方が早く終わると思うし手伝うよ」

「ありがとう。福原くん」


 机をくっつけ、横並びに座ると俺と彼女は4枚セットを作っていく。


 黙々と作っていくと数分で全てのセットが出来上がった。出来上がると2人で職員室へ運び、先生に渡した。


「職員室まで運んでくれてありがとう」

「どういたしまして」


 俺と彼女が会話するのも最後かもしれない。クラスも違えば話す機会はないのだから。そう思っていると彼女は口を開いた。


「お礼がしたいからこれから一緒にカフェに行かない? チョコレートケーキ、奢るから」

「えっ、いやいや、お礼なんていいよ。手伝うって決めたのは俺だし」


 女子に奢らせるなんてできない。罪悪感が残る未来しか見えない。


 お礼を断ったが、目の前にいる彼女は断られて悲しそうな顔をしていた。


(こ、これはどうしたら……)


「私、お礼はちゃんとしたい。チョコレートケーキが嫌なら何かして欲しいことある?」

「何か……」


 神楽さんはお礼はちゃんとしたい人らしくここで俺が何か言わなければ彼女は納得しないだろう。


 どうしようかと考えているとあることを1つ思い付いた。


「じゃあ、お願いしようかな。俺と─────」



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