第13話 こっそりしたらバレない

 試験期間が終わりテスト返却期間。一緒に勉強したおかげか俺も美月も数学は何とか赤点を回避した。他の教科は自信があったのでいつも通り80点以上はあった。


 試験が終わると回りは試験から解放され、どこか遊びに行かないかとか、打ち上げをしようと友達同士で話していた。


 俺も試験終わりだから何かパーっとやりたいなと考えていると昼休み、陽菜があることを提案してくれた。


「試験終わったことだしさ明日の放課後、この4人でカラオケ行かない? 今日、行きたいところなんだけど、私、用事があってさ」 


 この4人というのは俺と美月、陽菜、大智だ。いつもお昼を一緒に食べるメンバーであるが、一緒にカラオケには行ったことはない。


「賛成! 久しぶりに歌いたい」


 1番にすぐ反応したのは美月。お弁当の蓋を開けかけていたが、閉じて手を大きく挙げた。


「いいじゃん、俺も行く。奏翔も行くよな?」


 コンビニで買ったサンドイッチを片手に大智は俺に行くかどうか確認してきた。


「あぁ、試験終わったしな。俺も久しぶりに歌いたい」


 カラオケに友達と言ったのはいつが最後だろうか。確か、クラス全員で行くことになって、歌う人は歌って、雑談だけしたい人は全く歌わなかったのを覚えている。


「じゃあ、決まりだね」


 その後、駅前のカラオケに行くことが決まり、話が終わると開きかけていたお弁当を開けて食べ始めた。


 卵焼きを箸で掴み、一口で食べると横から視線を感じたので、そちらを向くと美月と目が合った。


「どうかした?」

「ううん、奏翔のお弁当、いつ見ても美味しそうって思っただけ。そうだ、奏翔に見てもらいたいものがあるんだった……」


 美月は持っていたお弁当を机に置き、カバンからスマホを取り出して画面を下へとスライドさせる。


 何かが見つかると彼女はスマホの画面をこちらに向けた。


「昨日、クマさんのお弁当、作ってみたの。どう? キュートでしょ?」


 スマホの画面に映ったのはご飯をクマの形にしたお弁当で、いわゆるキャラ弁のようなものだった。


 美月の可愛いではなくキュートと言ったところに可愛さを感じる。


「うん、可愛い。子供とか喜びそうなお弁当だね」

「……私、子供っぽい?」


 さっきまで明るかった雰囲気がなくなり、美月は暗い顔をして俺に聞いてきた。


 これはもしかしたら不味いことを言ってしまったのかもしれない。子供という単語は彼女には良くなかった。


「子供っぽいよね、身長でたまに小学生とか中学生に間違われるし……」

「えっ、あっ、いや、身長のことは言ってないよ。子供っぽいっていうのは高校生でもいいと思う。俺もたまに親から子供っぽいって言われるし」


 慌てて言い直すと彼女は微笑みご飯をパクっと食べた。


(子供っぽいというワードはあまり使わないでおこう……)


「そう言えばこの前の鶏胸肉のねぎ炒め、タッパー返してもらったときに美味しかったって言ってくれたからまた奏翔に何か作ろうと思うの。何がいい?」

「またって……あれはあまりものじゃなかったの?」

「あっ……」


 自分が言ったことに気付いた彼女は顔を赤くして、口元に手をやった。


 どうやらあの時、俺のために作ったと言うのが恥ずかしくて余り物のお裾分けと言ったのだろう。


「ごめんね、嘘ついて……この前、美味しそうに食べてくれたから……」

「謝らなくても……ありがとう、美月」


 いつものように頭を撫でてあげようかと思い、手を伸ばしたところで俺はハッとした。


 ここは学校で目の前には友達がいる。見られたらからかわれるのは間違いない。


 伸ばした手を引っ込めると美月が目を閉じて何かを待っているようだった。


(あっ、俺が手を伸ばしたから……)


「み、美月……」


 名前を呼ぶと彼女は目を開けて自分がしていたことにハッとして顔を真っ赤にした。


「恥ずかしい……」

「ごめん。ここはちょっと」

「2人きりだったら撫でてくれたの?」

「…………そのつもりだった」

 

 撫でようとしていたことを彼女に言うと美月は嬉しそうにニコリと微笑み、人差し指を俺の唇にそっと当てた。


「こっそりしたらバレないよ?」


 唇から人差し指を離すと美月は楽しそうに話す大智と陽菜の方へ視線を向けた。


 話に夢中なので確かに見られることはなさそうだが……。


「そう言われるとしにくくなるんだけど……」

「ふふっ、じゃあ、今度してもらおうかな。奏翔に触られるの好きだから」


(なっ、触られるのが好きとか危ない子の発言じゃないか!?)


 心配になる。俺はいいが……いや、よくないが男子に触られるのが好きと言うのは危険な発言だ。


「美月、そういうこと思っていても男に言ったら危険だからね」

「奏翔にしか言わないよ」

「俺にもダメです」

「む~ほんとなのに……」


 ムスッと頬を膨らませていたが、お箸でタコさんウインナーを掴み、食べると幸せそう美月は幸せそうな表情をした。



***



 放課後。美月は俺の家に寄った。特に何かがあるわけではないがいつの間にか連絡先を交換していた俺の母親が一緒にいるなら家にいらっしゃいと美月を誘ったらしい。


(ほんと、いつの間に連絡先を交換したんだよ)


「あら、美月ちゃん。今日も可愛いわ」

「あ、ありがとうございます」

「うちの子になってもいいのよ?」

「ちょっとお母さん!」


 仲良くお喋りしてるかと思いきや凄いことをお母さんは言い出していたので慌てて話に入る。


「ふふふ、冗談よ。美月ちゃんにも家族がいるものね」

「……家族」


 冗談で言って微笑んでいたお母さんだが、ポツリと呟いた美月の声にハッとして、彼女をそっと抱きしめた。


 抱きしめられた美月は、急だったので戸惑っている。


「さ、紗希さん?」

「私は美月ちゃんのこと大好きよ」 

「…………………」

「今日も夕飯食べていくといいわ。奏翔が作ってくれるみたいだから」

「えっ?」


 俺が作るとは一言も言っていないがここで作らないと言える雰囲気ではない。


「うん、作るよ。美月さえ良ければ一緒に夕食食べない?」

「……お、お言葉に甘えて」

「じゃあ、3人分作るよ」


 あんな寂しそうな顔して美月を家に返したくはない。彼女には笑顔が似合うから。


 キッチンへ行くと美月が手伝うよと言ってくれて2人で夕食を作ることにした。

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