11話~20話
第11話 神楽美月の幸せな時間
2学期中間試験2週間前。今日は、美月の家で勉強会を開くことになり、家に行く前に駅前でずっと美月が食べたかったキャラメルプリンを購入した。
家に着いたらすぐプリンを食べるのではなく、プリンは後にして勉強を始める。
美月はわからないところがあれば聞くと言っていたので質問が来るまで俺は苦手な英語をすることにした。
黙々と集中して勉強すること30分。とさっと肩に美月は寄りかかってきた。勉強を始めてから数分、質問が来なかったが、もしかしてわからないところがあったのだろうか。
「わからないとこあった?」
「ううん、わからないところはないけど、困ったことがあるの」
「困ったこと?」
「うん。頭からプリンが離れなくて集中できない……ピンチ……」
うん、それはピンチだ。これは後じゃなくて今からプリンを食べた方がいいかもしれない。
俺も実は先ほどからプリンが頭にチラチラとちらつき、あの美味しいプリンの味を思い出すと食べたくなっていた。
「じゃあ、食べよっか」
「うん、食べよ。私、紅茶淹れて来るから奏翔は、プリンの用意してくれる?」
「わかった」
紅茶を淹れるため美月はキッチンへ行き、俺は冷蔵庫にあるプリンの箱を取り、2人分のお皿とスプーンと一緒にテーブルへ運んだ。
テーブルへ置くとプリンが入った箱を開けた。2人で食べるのだから箱を開けたら2人分のプリンがあると俺は思っていた。
けど、プリンは4つある。あの店でプリンを買ったのは美月だ。一緒にいたが、美月が買ってくるから待っててと言われて俺は店から少し離れたところで待っていたため実際、彼女がプリンをいくつ買ったのかは知らない。
(これは1人2つなのかな……?)
プリンを1日に2つなんて贅沢に食べたことはない。普通は1日に1つだ。プリンの種類が違うのなら2つ食べるかもしれないが。
代金はまだ払っていない。家に着いたらでいいよと言われたから。プリンの代金は確かに320円だったはず。払っていれば自分の分がいくつかわかったのだが……。
うん、やっぱり1人2つはあり得ないな。1人1つとして後は多分、美月の両親の分だ。
箱からプリンを2つ取り出し、後の2つはそのままにした。プリンの隣にスプーンを置き、先に椅子へと座る。
美月は俺がいるとよく隣に座るので横並びにプリンを置いたが、向い合わせの方が良かったかな。
多分かなりどうでもいいことを考えていると足音がした。
「お待たせ。プリンの準備ありがとう」
「あぁ……ん、いい匂い」
「ハーブティーだよ。プリンに飲み物なんて必要ないと思うかもしれないけど、私は好き」
ハーブティーが入っているティーカップを俺の目の前と隣に置き、彼女は椅子に座った。
隣同士にしたことに何か言われると思ったが、特に何もなく、ほっとしたのもつかの間、美月は、「ん?」と声を漏らした。
「奏翔、全部出してないの?」
「全部? あぁ、残りは家族の分かなと思って箱の中に……」
「家族の分? 私は2人で食べる分しか買ってないよ?」
「やっぱり2つ食べるの?」
「2つ……というか2種類」
美月は箱から残り2つのプリンを取り出し、1つは自分の前に、もう1つを俺の前へと置いた。
「こっちがカボチャ、で、こっちがキャラメルプリン。似てるから同じに見えるよね」
「……あっ、なるほど」
同じ種類を2つ食べるのかと思っていて、色が同じで違う種類であることに気付かなかった。
「あっ、プリン代、320円だっけ? 2つだから……」
「1つ分の代金でいいよ。カボチャは私が奏翔に食べてほしくて買ったから」
「……ありがとう」
「先に食べよ? お金は帰る時でいいから」
美月が早く食べたそうにしていたので、お金を渡すのは後にする。
「「いただきます」」
両手を合わせて言うとスプーンを手に取り、まずはキャラメルプリンを食べることにした。
(ん、うまっ。幸せすぎる……)
まだ一口しか食べていないが、プリンの美味しさに幸せを感じた。隣を見ると美月も幸せそうな表情をしてプリンを味わっている。
「幸せ……私ね、甘いものを食べる時は、一緒に食べる人と食べる時の環境が大切だと思うの。甘いものを奏翔と食べれて今、私は幸せ」
天使のような笑みでニコッと微笑みかける美月に俺も微笑み返した。
「俺も幸せ」
「……寺川さんと食べるときより?」
「……ん?」
恐る恐る横を向くと美月がニコニコ笑顔でじっとこちらを見ていた。
なぜここで杏の名前が出てくるのだろうか。まさか、この前の偽デートで帰る前に入ったカフェに美月もいたのか?
「寺川さんと付き合ってるの?」
「付き合ってないよ」
「ならなんで先週の日曜日、寺川さんとショッピングモールにいたの?」
「……美月も来てたの?」
「うん、陽菜と来てた」
「そうなんだ。ちょっと頼み事があってそれに付き合っていただけだよ」
「……そう、それなら……ううん、何でもない」
ホッとしたような表情をした彼女は聞きたいことはもうないのかプリンを食べるのを再開する。
(もしかして、嫉妬とか……いや、まさかな……)
美月に懐かれていたとしても異性として好かれているかはわからない。もう少しで勘違いしそうで危なかった。
「カボチャも美味しいよ? もしかして、かぼちゃももう食べた?」
「ううん、心愛と行った時はキャラメルプリンを食べたよ。だからかぼちゃは初めて」
1日にプリンを2つ食べるなんて贅沢だ。買ったとしても1つは明日に食べるだろう。
キャラメルプリンを食べ終え、瓶が空っぽになるとカボチャプリンを手につける。
「んん、こっちも美味しい」
「でしょ? 毎年、ハロウィンの時期に食べに行くの」
「へぇ」
甘いものを食べて、美月とお喋りし、ゆったりとした時間を過ごしていたため途中まで試験勉強を忘れてしまいそうだった。
(これじゃあ、プリン食べに来ただけになりつつある)
プリンを食べ終えると閉じていた問題集を開き、勉強を再開した。
「奏翔、ここどうやるの?」
「あっ、そこは……」
(ち、近い……そんなに寄らなくても聞こえるだけど)
横を向くとキスするんじゃないかと思うぐらいの近さに美月がいて、慌てて距離を取った。
「奏翔?」
「近い……です」
「遠いと教えにくいと思う」
「そうだけど、近すぎる」
「そうかな……顔真っ赤だよ、奏翔。もしかしてドキドキしてる?」
小悪魔のような笑みで聞いてくる美月は、俺の手を取って優しく包み込み、さらにドキドキさせるようなことをしてきた。
「しないわけがないよ……女子慣れしているわけじゃないし」
「ふふっ、私もドキドキしてるよ。奏翔の手って安心する。いつも頭撫でてもらってる時も思うけど……」
頭を撫でて欲しそうにしていたので、優しくそっと彼女の頭を撫でると美月の表情がふにゃりと緩んだ。
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