第10話 寺川杏との偽デート②
同時刻。同じくショッピングモールに来ていた美月と陽菜は、パンケーキ専門店で恋愛トークをしていた。
最初は陽菜が大智とはどうなのかという話だったが、美月の話へと変わる。
「で、みーちゃん。奏翔とはどうなの?」
「どう……あっ、昨日、夕食一緒に食べたよ」
「ほほぉ~、やるなぁ。手料理?」
「うん。奏翔くん、美味しいって言ってくれた」
昨日のことを思い出していると美月は、奏翔に抱きしめられたことを思い出し、顔と耳が真っ赤にする。
(またぎゅーされたい……幸せだったから……)
「おーい、みーちゃん、戻ってきて」
「はっ! ごめん……。そうだ、陽菜……昨日、やっと奏翔くんが私の名前呼んでくれたの」
「おっ、やったね! 奏翔、照れて中々呼んでくれなかったもんね」
2人の距離が少し縮まったことに美月の友達として陽菜はとても嬉しい気持ちになっていた。
だが、下の名前で呼んでくれたという報告を嬉しそうにしていた美月が少し暗い顔でどこかを見ていることに気付いた。
「みーちゃん?」
「な、何で……」
「どうしたの?」
「さっき奏翔と隣のクラスの寺川さんが店の前を通ったの……見間違いじゃないと思う……」
美月はなぜ奏翔と寺川さんが一緒にいるのか気になり、モヤモヤし始めた。
「か、奏翔、寺川さんとは少し話す仲らしいし、偶然会って歩きながら話してるだけじゃないかな?」
デートという可能性が高かったが、その言葉を美月の前で言ってしまえばもっと彼女の表情は暗くなると思い、偶然会ったのではないかという予想を陽菜は口をする。
「そう、なのかな……」
***
「ヤバいヤバい、ちょー美味しいんだけど!」
先ほどから目の前でヤバいを連発する杏は、オムライスがとても美味しかったらしくとても幸せそうな表情をしていた。
「良かったね」
「うん、デミグラスで正解。奏翔のケチャップはどう?」
「美味しいよ」
デミグラスやホワイトソースといろいろあるが、個人的にケチャップが1番好きだ。
「私もケチャップ好きだよ。今日はデミの気分だったからこっちだけど。あっ、1口いる?」
1口分スプーンですくった杏は、ニコニコと笑い、恋愛経験ないから食べさせてもらうなんて中々ないよと言いたげな表情でこちらを見てくる。
確かに同級生の女子に食べさせてもらうようなイベントは今まで経験したことはないが、別にしたいとも思ったことがない。
「いや、いいよ」
「遠慮しなくても。カップルならよくやるやつだよ?」
杏の言葉に俺はあることをすっかり忘れており、それを思い出した。
「じゃあ、1口もらおうかな」
「うん。はい、あ~ん」
「あ、ありがとう」
口を開けてオムライスを1口もらい、「美味しい」と感想を口にして、自分のケチャップオムライスを食べると杏は下を向いて笑っていた。
食べさせてもらっているときの俺の顔がそんなに面白かったのだろうか。
しばらくして落ち着いたのか杏は、自分の口元を人差し指でツンツンとつついた。
「ケチャップついてるよ」
「えっ……」
杏に教えてもらいティッシュでケチャップを取る。これは恥ずかしい……。
「可愛いねぇ、奏翔」
「えっ、ナンパされてる? 言い方がチャラい男にしか聞こえないんだが。それとケチャップついてるのが可愛いとか言われても嬉しくない」
「あはは、ごめんごめん。あっ、食後にデザート頼むけど奏翔も頼む?」
オムライスを完食し、メニュー表を取ってデザートを頼もうとする杏。
オムライス、結構量あったはずなんだが、まだ食べれるのか……。
「俺はお腹一杯だからやめておくよ」
「りょ。じゃあ、私は頼むね」
頼むものが決まり、杏はボタンを押して店員さんを呼んだ。すると、すぐに店員さんは来て杏は注文していた。
数分後には頼んだパフェが届き、杏は食べ始めた。
ゆっくりと食べて、オムライスを完食した俺は彼女がデザートを食べている間、メニュー表を見ていた。
(いろんなパフェがあるなぁ……あっ、これ、美月が好きそう)
スイーツを見ていると気付けば美月のことばかり考えていた。おそらくスイーツを食べるとき、美月がいることが多いからだろう。
「あっ、デート中なのに奏翔が他の女の子のこと考えてる」
「! か、考えてないから」
「多分、神楽さんだね」
「!」
「やっぱり。奏翔はわかりやすいね」
なぜわかるんだ。俺はそんなにわかりやすい顔をしていたのだろうか。
***
パフェを食べ終え、店を出ると俺と杏は、服屋に向かった。杏がよく行く服屋さんらしいが、俺も中まで入らなければならないのだろうか。できれば外で待ちたいが、デートなのでそれはダメだろう。
彼女と手を繋ぎその服屋へと向かっていると後ろから足音がし、誰かが杏の肩を持った。
「寺川、その男は誰だよ」
声がしたので後ろを振り返るとそこには同い年ぐらいの男がいた。俺は知らないが、寺川と呼んだので、彼女の知り合いだろう。
(もしかして、この人がストーカーとか……?)
「彼氏だけど?」
「彼氏ってこんな奴のどこがいいんだよ。俺の方が顔もいいし、一緒にいて楽しいって」
男の発言を聞いて杏からは笑顔が消えていた。いつも明るくて笑顔な彼女がここまで暗いとこの後の展開は何となく予想がつく。
隣をチラッと見ると杏は俺から手を離し、腕組みした。
「私は君より奏翔の方がカッコいいと思ってる。一緒にいて楽しいのも奏翔。だから君みたいなストーカーさんとは絶対に付き合えない」
「なっ、何なんだよ! この前、俺と話してたとき、楽しそうに笑ってたの、あれは演技だったのか!?」
「さぁ、どうだろうね。私は、演技してるつもりなかったんだけど。そう見えたのならそうなのかも」
杏がそう言うと相手は舌打ちし、無言でこの場を離れていった。
彼女の返しが相手をヒートアップさせそうで見ていた側としてはそわそわしたのだが、何も起こらなくて良かった。
「ストーカーさんがいなくなったとこだし、彼氏役はもういいよ。ありがとね、かなっち」
「いや、寺川さんの助けになれて良かった。また何か困ったことがあれば言ってくれ」
「うん、それはかなっちもね。何かあれば私、相談乗るから。というか、杏でいいよ。寺川さんって距離感じるし。ね?」
「……うん、わかった」
杏の助けになると思って彼氏役を引き受け、デートしたが、彼女と過ごす時間は楽しかった。緊張もいつの間にか溶けていて、素直に楽しんでいた。
「私は服屋寄って帰るけど、かなっちはどうする?」
「……付き合うよ」
「ありがと、かなっち。デート続行だね」
太陽みたいな眩しい笑顔を見せた彼女は、そう言って背を向け歩き始めた。
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