第7話 家へのお誘い
「でぇっ、デートって、杏ちゃん、奏翔くんのこと好きだったの!?」
俺よりも寺川さんからのデートのお誘いに驚いていたのは心愛だった。
「ん~まぁ、かなっちのことは嫌いじゃないよ。って、こあこあ、何か焦ってない? 私は、ここ最近、変な男に付きまとわれてるからかなっちと嘘のデートでもして付きまとうのをやめてもらおうかなって思ってるだけだよ」
なぜデートに誘ったのかを寺川さんが話すと心愛は顔を真っ赤にして下へしゃがみ、ボソッと呟いた。
「うぅ~勘違い、恥ずかしい……」
心愛が何と言ってるのかは聞こえないが、寺川さんは「可愛いなぁ」と言って心愛の頭を優しく撫でた。
「ってことで、彼氏役お願いしていい? 今日、放課後にショッピングモールに付き合ってもらうだけでいいからさ」
今日……か。今日は、神楽さんとプリンを食べに行こうと約束している。さすがに約束は破れない。
「ごめん。今日の放課後は神楽さんとカフェに行く予定で。あっ、この前の駅前のカフェなんだけど、心愛は行けそう?」
下にうずくまった状態の心愛に声をかけると彼女は顔を上げて嬉しそうに頷いた。
「うん、行けるよ」
「わかった。ごめん、寺川さん。今日は……」
「わかった。今日じゃなくてもいいよ。休みの日、頼めない?」
彼氏役か……困っているなら助けてあげたい。偽デートをして解決できる問題かどうかわからないけど。
「いいよ。1日だけでいいんだよね?」
「うん、ありがとう。日程だけどメールで相談ってことでいいかな?」
「わかった」
「じゃ、またね、かなっち」
手をヒラヒラさせて寺川さんは教室へと入っていった。心愛は彼女にはついていかず俺と2人だけになるとツンツンと肩をつついてきた。
「杏ちゃんのために彼氏役引き受けたけど、神楽さんがじぇらちゃうよ?」
「じぇら?」
じぇらの意味もわからないし、なぜここで神楽さんの名前が出てくるのかわからない。
「じゃ、また放課後にね。奏翔くん」
「お、おぅ……」
先ほどの言葉の意味を聞こうとしたが、聞くタイミングを見失った。けど、これは多分、自分で考えなければならないことな気がする。
心愛と別れて、教室へ戻ると3人は先に昼食を食べ始めていて、俺は静かにその輪の中へと入る。
3人は話すのに夢中な様子だったが、神楽さんはすぐに俺のことに気付いた。
「あっ、奏翔くん。どこに行ってたの?」
「隣の教室。寺川さんに呼ばれて」
「寺川さん……同じ中学にいた子だっけ?」
神楽さんは寺川さんとは同じクラスになったことはなく、名前を聞いたことはあるらしい。
「もしかして……告白された?」
「? されてないよ。ちょっと頼み事をされただけ」
「……そう」
少しホッとした様子なのは気になったが、昼休みの時間が後少ししかないことに気付き、お弁当の蓋を開けて食べ始めた。
***
放課後。行こうとして行けなかったが、今日こそ駅前のキャラメルプリンを買いに行くことができる。そう思って駅前のカフェへと行ったのはいいが、まさかまた食べれないとは……。
「すみません。本日は売り切れでして」
店内に入り、ガラスケースにキャラメルプリンがない時点でこれはないのではないのかと思い、店員さんに聞くと「売り切れ」と言われた。
俺と心愛は一度顔を見合わせて、目で会話してから隣にいる神楽さんのことをチラッと見ると彼女は肩を落とし、ガッカリしたような表情をしていた。
キャラメルプリンがないからコンビニのものでも買って食べるなんて神楽さんに言ってもダメだろう。彼女が食べたいのはこのカフェのキャラメルプリンなのだから。
「神楽さん」
「……私、楽しみにしてたの。あの日は用事ができて行けなくなって、明日食べようって思ってたら熱出して……体調が良くなったら必ず食べるつもりでいたの……それなのに……」
キャラメルプリンを食べるチャンスを2回も逃し、今度こそと思って来たがなかったというのは悲しいことだ。
それにしても不思議だ。この前、心愛と来た時は夜でもまだプリンはいくつか残っていたのに今日はないなんて。まだ夕方にもなっていないのに。
「すみません。キャラメルプリンっていつも何時頃なら残ってます?」
次回来たときにまた同じことが起こらないよう店員さんに聞いてみると女性は、そうねと言ってから教えてくれた。
「いつもなら閉店までにいくつか残ってますね。今日はつい数分前にたくさん買ったお客様がいまして」
「なるほど……教えてくださりありがとうございます」
お礼を行ってからお店を出ると心愛は神楽さんの頭を優しく撫でていた。
「お店の人がああ言ってたし来週の放課後にまた行ってみよ。って言っても私はバイトがあって一緒に行けないから奏翔くんと2人で」
「うん。神楽さん、来週の放課後に行こうよ」
「うん。来週の放課後こそは」
キャラメルプリンを食べるのは来週の放課後にして、3人で一緒に電車で帰り、駅へ着くと心愛は寄るところがあると行って別れた。
二人きりになると神楽さんは少しずつ俺の方へ寄ってきた。
「奏翔、キャラメルプリン食べることできなかったから私の家でお茶でもしない?」
「家に?」
「うん。前にも言ったかもしれないけど、両親は仕事で家に帰ってくるの遅くて。1人は寂しいから奏翔が来てくれると嬉しいな」
「……行ってもいいのかな?」
一度彼女の家には行ったことがあるが、それは家に神楽さんのお母さんがいたとき。両親がいない時に行っても良いのかわからずそう聞くと彼女は小さく頷いた。
「お母さんもお父さんも寝るだけのために家に帰ってきてるようなものだから多分大丈夫」
大丈夫なのか全くわからないが、彼女の大丈夫を信じよう。
こうして神楽さんの家に行くことが決まり、俺は再び、彼女のマンションへと向かうことになった。
つい2日前に来たばかりだが、マンションの高さには何度でも「あっ」と言わされる。
「高いところが苦手な人はこのマンションは難しそう」
「上はね。下に住めば大丈夫だと思う」
エレベーターに乗っている間、軽く雑談し、20階で降りた。
「そう言えば、今朝もらったクッキー、休み時間に食べてたんだけど美味しかった」
「ほんと? 良かった。また作るね」
また作ってくれるんだ。また美味しいクッキーを作ってくれるのは凄く嬉しい。神楽さんは作って誰かに食べてもらうのが好きなのかな……。
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