第6話 寺川杏からの頼み
お見舞いに行ってから2日後。神楽さんは、学校へ登校してきた。陽菜と一緒に教室へ入ると自分の席ではなく俺のところへ来た。
「奏翔くん、おはよ」
「おはよ、奏翔」
2日ぶりに会った神楽さんと明るいテンションで挨拶した陽菜。おはようと2人に挨拶を返すと陽菜は手のひらを口に当ててニヤニヤしながらこちらを見ていた。
何のニヤニヤなんだと思いながらじっーと陽菜のことを見ると横から神楽さんに服の裾をちょんちょんと引っ張られた。
そして小さな声で話したいと言って俺は彼女に廊下に連れていかれた。
場所移動すると神楽さんは上目遣いでこちらを見て、口をゆっくりと開いた。
「奏翔くん、この前はお見舞いありがとう……」
「どういたしまして。もう体調の方は大丈夫?」
「うん、大丈夫。ところで、奏翔くん、お見舞いの日のことなんだけど……」
突然、神楽さんはモジモジし始めて耳と顔を真っ赤にする。熱はなさそうだが、様子がおかしい。
お見舞いの日のことを話したいみたいだが、彼女が何を話そうとしているのかはわからない。
「何かあった?」
彼女が中々話さないので優しく聞くと神楽さんは口を開いた。
「私、熱があってあんまり覚えてないんだけど……下着見たよね?」
「…………」
着替えさせてほしいと言ったのは神楽さんだ。だからてっきり下着を見られてもあまり気にしない人だと勝手に思っていたが、あの時はそこまで気にしてなかったが、今、冷静になってみると自分のしたことが恥ずかしくなったらしい。
ここで下着を見てないというのは無理がある。熱があってあまり覚えてなくても着替えさせてもらったことは覚えているだろうから。
「み、見たけど……そんなガッツリは見てない」
「! 素直なのはいいけど……見たんだ……」
「神楽さんが着替えさせてって頼んだから一度も見ないというのはさすがに無理だよ」
じとーとした目で見られたのであの時の状況を彼女に伝える。
「わかってる。着替えさせてくれてありがとう。お見舞いに来てくれたお礼にクッキー作ってきた……どうぞ」
後ろに手を回していたので何か持っているのだろうとは思っていたが、可愛くラッピングされたクッキーを彼女は持っており、それを俺に渡した。
「ありがとう。もしかして手作り?」
「うん、朝から頑張って作った」
朝からとは凄い。もう一度お礼を言い、彼女の頭を優しく撫でると神楽さんの表情はふにゃりと緩んだ。
「そう言えば、心愛と駅前のプリンは食べに行ったの?」
「ううん、行ってないよ。今度、神楽さんがいるときに行こうってなって。俺と心愛は一度食べてたからね」
「そうなんだ。じゃあ、今日行こうかな。体調も良くなったし」
体調が良くなったアピールなのか神楽さんは両方の拳をぎゅっと小さく上げた。
「なら俺も付き合うよ。心愛は今日行けるかな」
「心愛に会ったら聞かないとだね」
「そうだね。そろそろ教室戻ろっか」
「うん」
もう少しで、予鈴がなるため教室へ戻り、自分の席へと行くと大智がこちらへやって来た。
「神楽さん、体調良くなったみたいだな」
「うん、本当に良かったよ。お見舞い行った時はぐったりしててしんどそうだったから」
お見舞いへ行くことは大智と陽菜には話してある。2人も最初、ついてくる予定だったが、あまり大勢で彼女の家に押し掛けても家の人に迷惑だろうということで行かなかった。
「で、お見舞いのお礼にクッキーもらったのか?」
大智は机の上にある神楽さんからもらったクッキーを見る。
「ん? あぁ、うん。お礼にって」
「そっか。そう言えばさっき寺川さんと会ったんだけど、奏翔に話があるから昼休み、教室に来てほしいっていう伝言を預かった」
「寺川さんが?」
そんな彼女から話があると言われるとどんな話を俺としたいのか全く想像がつかない。
「伝言は伝えた。席に戻るよ」
「あぁ……」
***
昼休み。いつもは神楽さんと大智、陽菜と教室で昼食を取るが、寺川さんからの呼び出しがあったためみんなには先に食べてと言ってから俺は隣の教室へ向かった。
教室の中を覗くと隣のクラスも昼食の時間のため友達同士で集まり、楽しそうに昼食を取っていた。寺川さんはどこかと探していると後ろからポンポンと肩を叩かれた。
後ろをゆっくりと振り返るとそこには小さく手を挙げた心愛がいた。
「奏翔くん、おはよう。どうしたの?」
まるで天使のような笑顔で挨拶してきた彼女に俺は少しの間、見とれてしまいフリーズしていた。しばらくするとハッとして意識を戻した。
「寺川さんいる?」
「杏ちゃんなら……」
「かなっち、おっはよ~!」
「うおっ!」
教室から出てきた寺川さんに後ろから抱きつかれ、驚いたので大きな声を出してしまった。周りから視線を浴び、急に後ろから来た寺川さんの頭を軽くちょっぷした。
「心臓に悪いからやめてくれ」
「えぇ~いいじゃん。神楽さんだってよくやってるし。もしかして神楽さんならいいけど、私はダメってわけ?」
「ダメってわけじゃないが、神楽さんと寺川さんは近づき方が違うんだ」
手を口元に当ててニヤニヤするのはふわふわの髪をシュシュでまとめている寺川さん。彼女が俺に話があるといって呼び出した本人だ。
彼女の手首には髪の毛に結んでいるのとはまた違う色のシュシュ。周りより短めのスカート(おそらく折ってる)。カーディガンは着ずに腰に巻いている。見た目からして校則違反な気がするし、先生から注意を受けていそうな服装をしている。
寺川さんはギャルだが、話しやすく、優しい。俺が最初、ギャルに抱いていたイメージは怖い感じだったが、彼女は全く怖くない。
「ふ~ん、なら今度神楽さんからどうしてるか聞いてみよっ」
そう言って寺川さんは教室へ戻っていこうとしていたので、慌てて俺は彼女の手を取った。
「いや、待て。俺は寺川さんに呼び出されて来たんだけど」
「……あっ、忘れてた」
呼び出した本人が忘れてどうする。後ろから驚かすために来たわけじゃないだろ。
「で、話は?」
話が脱線してまた忘れられたら困るので用件を聞くと彼女は小さく笑い、そして口を開いた。
「かなっち、私とデートしてくれない?」
(…………えっ?)
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