第5話 何でもするよは危険な言葉
翌日。神楽さんは学校を休んでいた。いつも一緒に登校している陽菜によるとどうやら熱を出して今日は休みらしい。
確か彼女の両親は、仕事で忙しく家にいる時間は短い。となると神楽さんはしんどい状態で家に1人でいるのかもしれない。
親が休んで神楽さんの看病をしているのなら心配はないが、1人なら……。
放課後になるとすぐに大丈夫かというメッセージを送った。そしてすぐに返信が返ってきた。
『ダメ……』
(ダメとはどういう意味だろうか……)
これだけでは大丈夫なのかわからないので、ダメの意味が何か聞いてみたが返信は返ってこなかった。
「お見舞いに行ってみよう」
神楽さんの家には一度だけ行ったことがあるので、場所はわかっている。
学校を出て、スポーツドリンク、熱冷ましシート、プリンをコンビニで買ってから家に向かうことにした。
「着いた……」
マンションへ着くと改めて彼女の家の大きさに驚いた。自分の家が一軒家で2階建てだからこそタワーマンションの高さは高い。
扉に近づくとドアが自動で開き、中へと入る。この先にあるドアは神楽さんに開けてもらわなければ入れない。
部屋の番号を入れて呼び出し、しばらくすると目の前のドアが開いた。家に親がいるか開けたのか、神楽さんが開けたのかわからないが、中に入ることができた。
広いエントランスへ行くとエレベーターを見つけそれに乗って20階まで上がる。
乗っている時間が長く感じたエレベーターから降りると廊下を歩き、神楽さんの家へ。
(ここ……だよな)
部屋の前に着き、一度深呼吸してからインターフォンを押した。ドアの前で待つこと数分。ゆっくりとドアは開き、顔を出したのは神楽さんだった。
「かなと……来て……くれて……」
何か言っていたが、彼女はふらふらした状態で俺の胸にポスッと倒れてきた。
「神楽さん!?」
「えへへ……奏翔、冷たくて気持ちいい……」
ぎゅーと抱きしめてくるので引き離すため彼女の腕に触れると体が熱いことに気付いた。
「家の人は?」
「いない……私、1人……」
「……それはごめん。何か困ったことあるなら何でもするよ」
鍵を開けるため玄関に行くのはしんどかっただろう。少し悪いことをしてしまった。
「かなと……ベッドまで連れていって? ふらふらで1人じゃ動けない……」
「うん、わかった」
お邪魔しますと言ってから中に入り、靴を脱いで神楽さんをベッドがある部屋へと背中に背負って連れていくことに。
部屋が多くてどこに行けばいいのかわからないので神楽さんに道案内してもらいなんとか辿り着いた。
ベッドへとゆっくり彼女を背中から降ろし、神楽さんを寝かせる。よく見ると少し暑そうだ。
「着替えたりした?」
「ううん……してない……着替えたいけど……」
言わなくてもわかる。着替えたいけど、しんどくて着替えられないんだ。
「場所教えてくれたら服取るけど」
「ほんと? 服はその引き出しの中……適当に服、取って欲しいな」
「わかった」
簡単にそう返事をしてしまったが、引き出しを開けて服を手に取って気付いた。次、神楽さんに頼まれるとしたら着替えさせて欲しい、じゃないかと。
その予感は的中し、俺は彼女に着替えさせて欲しいと頼まれた。
「いや、男だし着替えさせるのは……」
「む……下着は着たままでいいから大丈夫……上の服だけ脱がして?」
背を向けているなら前は見えないし、大丈夫な気がした俺は「わかった」と言って悪いことをしているようだが、服をゆっくりと彼女の上の服を脱がした。
当たり前のことだが、肌が視界に入り、俺は慌てて目をそらす。
「脱いだ服、ここに置いておくよ……このタオルで1回体拭いたら?」
熱で汗を書いているだろうから近くにあったタオルを彼女の側に置くと神楽さんはそのタオルを取って顔だけをこちらに向けた。
「拭いて欲しいな……」
「えっ、それは……」
手で直接降れる訳じゃないが、タオルで拭くなんて女子になれていない自分が簡単にできるわけない。
「奏翔……何でもしてくれるって言った」
「! そ、それは、熱出してる人を放っておくわけにはいかないから言ったわけで……けど……いや、わかった。俺が言ったことだしな」
拭くことを決意すると神楽さんは持っていたタオルを自分の横に置く。そのタオルを俺は取って一度深呼吸する。
(大丈夫。肌に直接触れるわけじゃない)
「ふ、拭くぞ……」
「うん……」
タオルを背中にそっと当てると彼女は肩をビクッとさせた。
力が入りすぎないように拭くこと数分。拭き終えるとタオルは彼女に言われた場所へと置いた。
「奏翔、ありが────」
「その格好で前向かないで……服を着てからで」
「! わ、忘れてた……」
自分の今の格好を忘れていた神楽さんは慌てて新しい服を着る。ゆっくりだが、服を自分で着ることができた彼女は起き上がっているのがしんどいのかまたパタリとベッドへ寝転がってしまう。
「そうだ。お昼は何か食べた?」
「ううん……お昼はぐったりしてた……だから何も……」
「そうなんだ。お腹空いてない?」
「空いてる……」
「おかゆ作ろうか?」
「……嬉しいけど、奏翔に悪い……」
さっきまでお願いしていたのになぜ食になると急に遠慮をするのだろうか。今日ぐらい甘えていいのに。
「今日ぐらい甘えてくれ……というかいつものように甘えていいからな」
手を伸ばし、神楽さんの頭を優しく撫でると彼女は驚いたような表情をしてほんのり顔を赤くした。
「……奏翔のそーゆうところ好き」
「ありがと。おかゆいる?」
「いる……」
「わかった。キッチン借りるね」
「うん……」
***
パタリとドアが閉まり、キッチンから音がする。奏翔が来るまで1人でも寂しくなかったのになぜか今、寂しいと思ってしまった。
1人はいつものことで。慣れているはずなのに……。
お見舞いに来てくれて、着替えを手伝ってくれて、おかゆを作ってもらって……体調がよくなったら私、奏翔にお礼しないと……。
どうお礼をしようかと悩んでいたが、私は目を閉じ、眠ってしまった。
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