第2話 神楽美月は甘える

 中学時代。神楽さんとは仲が良かったが、お互い他の友達がいたため学校で話すことはほとんどなかった。


 話すとしても偶然会ったら立ち話する程度。そんな彼女と同じ高校に通い始めて数ヶ月。なぜか俺は彼女に懐かれていた。


 彼女とパフェを食べたその翌日の放課後。帰ろうとしていた時、陽菜が駆け寄ってきた。その後ろから大智もやって来る。


「奏翔、聞いて聞いて!」

「惚気なら聞かない」

「酷いっ! って、違うよ。惚気じゃなくて、みーちゃんがまた告白されてるって話!」

「あぁ、そう……」


 神楽さんが男子に呼び出されて告白されるのはこれが始めてではない。入学してから何回かあることなので驚くことではない。


「あぁ、そうって、いいの? 彼氏としてはモヤモヤ───いてっ」


 軽くチョップすると陽菜は頭を優しく自分で撫でていた。


「彼氏じゃないから」

「うう~、奏翔が頭チョップしたぁ~」


 陽菜は頭を擦りながら後ろにいる大智の元へ行き、頭を撫でてもらう。


「奏翔、お触りは彼氏の俺だけだぞ」

「はいはい、わかりました」


 いつから俺は神楽さんの彼氏になったんだ。彼女とは友達であって、そういう関係ではないんだが。


「そういや、昨日、神楽さんと帰ったみたいだけどどうだったんだ?」

「どうとは? 普通に……」


 普通には帰ってないな。パフェ食べに行ったし。このことは別に隠さなくてもいいことだが、一緒にパフェを食べに行ったなんて行ったらまた大智と陽菜に誤解を与える。


「普通に?」

「いや、話して────」

「パフェ食べて帰ったよ。美味しかったね、奏翔くん」


 ん?となり、後ろを振り向くとそこには男子に呼び出されて教室にいなかった神楽さんがいた。言わないつもりだったが、神楽さんが言ってしまったので俺は頷く。


「そうだね」

「また行こう。美味しかったから」


 俺と神楽さんがそう話していると隣でコソコソと陽菜と大智は何やら話していた。


「これで付き合ってないの不思議だよな」

「だよねぇ」



***

 

 

 陽菜と大智は今日も2人で帰るらしく、俺は神楽さんと2人で帰ることになった。


 電車に乗って降りたところで俺はふとあることを思い出した。


「あっ、神楽さん。この前借りた小説、明日返すね」

「…………貸したこと忘れてた。奏翔の家、寄るよ? 持ってくると大変だろうから」

「いやいや、寄ったら遠回りになるよ」

「大丈夫。奏翔と話す時間が増えるから」


 何て嬉しい言葉なんだろう。こう言われて嬉しくない人なんて中々いないだろう。


 結果、神楽さんは俺の家まで来てくれた。外で待たせるわけにも行かず中に入れ、玄関で待ってもらうことに。


 急いで自分の部屋から借りた小説を取りに行き、玄関へ行くとなぜか神楽さんはいなくなっていた。


(えっ、まさか帰った!?)


 すぐに戻るから待っててと言うとうんと頷いていたはずなんだけど……。


 ふと視線を下にして玄関に黒のロファーがあることに気付いた。


(これ、神楽さんの……)


 もしかしてと思い、リビングへ向かうと話し声が聞こえてきた。


 リビングへ行くとソファにはお母さんと神楽さんが座っていた。


「これが奏翔の幼稚園の写真よ」

「ちょ、お母さん!」


 知らないところであまり見られたくないアルバムを神楽さんに見せようとしてるなんてお母さんは何を考えてるんだろうか。


「あっ、奏翔。少し肌寒いのに女の子を玄関に待たせるなんてダメじゃない。私が温かい部屋に案内したわ」


 神楽さんが勝手に家に入ったなんて思っていないが、やはりお母さんがリビングへ連れてきたのか。


「それは確かに俺が……って、そのアルバム勝手に見せないでくれ」


 お母さんからアルバムを奪い取り、元の場所へと戻し、リビングへ戻ってくると神楽さんはムスッとした表情をしていた。


(見たかったのかわからないが、そんな顔しても見せないから)


 中学の頃、学校帰りにたまに家に寄っていたのでお母さんと神楽さんは面識がある。


「美月ちゃん、夕飯食べていかない?」

「夕飯ですか?」

「うん。今日はオムライスなのよ。久しぶりに美月ちゃんとお話ししたいしどうかしら?」

「……じゃあ」

「やった。お母さん、張り切って作るわね」


 これ、アルバム見せようとしたり、夕食に誘ったり、お母さん、神楽さんを帰らす気ないだろ。


「私も手伝います」

「いいのよ。美月ちゃんはゆっくりしてて」


「……ありがとうございます」


 お母さんは嬉しそうにキッチンへ向かい、リビングに俺と神楽さんの2人だけになった。


「ごめんな、お母さんが」

「ううん、紗希さん、優しい人だね」


 神楽さんはそう言うと自分の隣を見てチラッと俺のことを見た。


「奏翔、座らないの? 私の隣空いてるよ?」

「あぁ、うん」


 横をトントンと叩いて隣に座ってほしそうにしていたので、ゆっくりとソファに腰かけると神楽さんは肩に寄りかかってきた。


「あの、神楽さん?」


 名前を呼ぶと彼女は「ん?」と声を漏らして、俺の手を優しく包み込むように握ってきた。


 その瞬間、心臓がうるさいほどドキドキし始めてこの状況を長い間耐えられる気がしなかった。


 今、リビングに2人だけだから甘えてきてるけどお母さんが来たらどうするんだろう。


「甘えるのはいいんだけど、お母さん来たらどうするの?」

「大丈夫……ちゃんと切り替えるから」


 切り替えるとはどうするつもりだろうか。よくわからないが、俺は今、くっつかれてのドキドキとお母さんがここへ来るドキドキがあるせいか落ち着かない。


「学校ではくっつけないから今、充電しなくちゃ。奏翔が足らない……」

「俺が足らないとは……」


 よくわからないが、神楽さんは充電中らしく俺に密着していた。


「奏翔もしてほしいことあったら言ってね。膝枕とか頭なでなでとか、癒されるよ?」

「それ、神楽さんがやってほしいことでは?」

「えへへ、バレた?」

「バレバレです」


 バレた?と言ったときの小悪魔のような笑みがとても可愛らしく頭から中々離れなかった。ということは彼女には内緒だ。





         

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