ある日を境に懐かれた小悪魔な彼女は俺に猛攻をしかける

柊なのは

1話~10話

第1話 神楽美月は俺の前だけ甘い

 高校受験。今日はその結果が発表される日だ。ネットで確認するという便利な手段があるが、俺、福原奏翔ふくはらかなとは、自分の受験番号を探して、見て、合格したかどうかを確めたかった。


 ある友人も学校に行って合格したか確認したいらしく、一緒に見に行くことになった。中学の制服を着て、春から通うかもしれない高校の門の前で待つこと数分。


「あの子可愛くね」

「ほんとだ。ちっちゃくて可愛い」

「お人形さんみたい」


 周りからそんな声が聞こえてきてスマホから顔を上げると、目の前にはいつの間にか来ていた赤リボンがトレードマークの神楽美月かぐらみつきがいた。


 彼女におはようと挨拶しようとしたが、神楽さんはなぜか頬を膨らませている。


「不機嫌? まだ結果見てないけど」

「……そうじゃない。ちっちゃいって言われたから怒ってるの」  

「……あっ、けど、あの人達は悪い意味で言ってるわけじゃないと思うよ」

「わかってる。けど、私はちっちゃいって言われたくない。悲しくなるから」


 彼女の言いたいことはわかる。誰だって言われたくない言葉を言われたら嫌な気持ちになる。


 リスのようにぷく~と頬を膨らませる彼女の頭を優しく撫でると神楽さんの表情はふにゃりと緩む。


「結果見に行こっか」

「うん」


 正門を抜けて中庭に行くと掲示板があり、そこに合格者の番号が書かれた紙が貼っていた。


(えっーと……あった)


 自分の受験番号を見つけ、合格したことがわかると掲示板から少し離れたところへ移動する。すると、神楽さんが嬉しそうな表情で駆け寄ってきた。


「どうだった?」

「合格したよ。その様子だと神楽さんも合格したんだね」

「うん。高校でもよろしくね」


 神楽さんはそう言って手を差し出したので、握手だろうと思った俺は彼女の手を握った。


「こちらこそよろしく」




───────7ヶ月後




 中学からの仲である神楽さんとは高校に入ってからも関係は変わることなく一緒にいることが多かった。


 一緒にいることが多いからか友人や周りにいる人からはよく付き合ってないのかと聞かれた。だが、返事はいつも同じ。「付き合ってない」だ。


「一緒にいるところ見かけるから噂されてるけど、ほんとに付き合ってないのか?」


 そう尋ねてきたのは小学校の頃、仲が良かった友人、横田大智よこただいち。彼とは高校で偶然再会した。


「付き合ってないよ」

「こう言うけど怪しいんだよなぁ」


 付き合ってないというが、怪しむのは大智の彼女である國見陽菜くにみひな。明るい性格で高校から仲良くなった友人だ。


 彼女は疑っていると隣にいた神楽さんが口を開いた。


「嘘じゃないよ。本当だよ?」

「ん~、まっ、みーちゃんが言うなら噂はデマってことだね」

 

 そう言って陽菜は、わしゃわしゃと神楽さんの頭を撫でた。それを神楽さんは嫌がらず受け入れている。


「じゃ、俺らはもう帰るけど奏翔と神楽さんはどうする?」


 恋人同士である2人はこれから放課後デートをするらしく俺はどこにも寄らず家に帰ろうとしていたが、神楽さんはどうするのか気になり、チラッと彼女のことを見る。すると彼女と目が合った。


「奏翔くん、一緒に帰る?」

「いいよ」


 付き合っているという噂が流れるのもおそらく一緒に帰っているからだろう。デマ情報が回るのは嫌だが、それで神楽さんと一緒に帰らないというのもおかしな話だ。俺は噂は気にしない。


「じゃ、みーちゃんと奏翔、また明日ね」


 陽菜はそう言って俺と神楽さんに向かって手を振るので、俺は軽く手を挙げた。すると、大智が俺の肩にポンッと手を置いた。


「奏翔も奏翔で頑張れ」

「何がだよ」


 意味のわからない言葉を掛けられ、大智は陽菜と一緒に教室を出ていってしまった。


 2人になると神楽さんはすっと椅子から立ち上がりカバンを持った。


「私たちも帰ろっか」

「うん」


 学校でいる時の神楽さんは一言で言えばクールだ。あまり笑うことはなく、何を考えているのかよくわからない。


 けれど、学校を出て、俺と2人っきりになる時だけ彼女はいつもと違う。


 校門を出て、神楽さんは、周りを一度確認すると俺の横にピトッとくっついた。


「奏翔、甘いもの食べに行こ?」


 そう言って神楽さんら天使のような笑みで俺に微笑みかける。


 そう、彼女は俺の前だけ甘々だ。よく笑顔を見せてくれて学校にいる時とは真逆だ。そして彼女は甘々なだけではなくなぜか俺に懐いている。理由は不明。


(後、学校ではくんづけなのに2人になるとくんづけじゃなくなるんだよな……なぜか……)


「か、神楽さん、こっち方面は知り合いに会わなさそうだけどくっついてるところ知り合いに見られたらまた誤解されるよ?」

「誤解? 私は別にいいよ? 嫌じゃないもの」


 いいんだ……。嫌じゃないと言われると誤解しそうだ。好きなんじゃないかと。


「で、どこに行く? 私は、マーメイドっていう店のパフェが食べたいな」

「マーメイド? そんな店あるんだ」


 聞いたことのない店の名前を聞き、ポツリと呟くと神楽さんはキラキラした目で何かのスイッチが入ったのか語りだした。


「一度しか言ったことないんだけどね、このお店はパフェの種類が多いの。特に────」


 彼女は甘いものと可愛いものが好きで好きなもののことになると楽しそうに話す。学校でももっとそういうところをオープンにしてもいいと思うが……。


 パフェについて語り、お店の前に着くと彼女は足を止めた。どうやらここがマーメイドという店みたいで店内へと入った。


 入ると4人席へと案内され、向かい合わせに座るかと思ったが、神楽さんは俺の隣へと座った。


 席に座ると俺と神楽さんはパフェを1つずつ注文することに。


「そうだ、奏翔。この前、陽菜ちゃんに何で私だけ奏翔って呼んで奏翔は私のこと名字なのかって気になってたよ」

「へぇ……」

「…………」


 怒らせるようなことは言っていないはずだが、神楽さんは俺のことをじっーと見てくる。多分、下の名前で呼んでほしいんだろうけど。


「あっ、神楽さんと違う種類のパフェ頼んだんだけど俺のやつちょっと食べる?」

「むむっ、話変えた……奏翔の食べたい」


 そう言って神楽さんは俺の腕にぎゅっと抱きついてきた。


「わかった。けど、他の人がいるからちょっと離れ……」

「やだ」


(ん……どうしよう)


 

 

 

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