第10話 弱者の日常

「王爵様直属の近衛隊だ…」「声が大きい…」「こんな田舎に何のご用なんだろう…」「マジで美女しかいないのね〜」

(凄い美人だな…)


 純白のコートに身を包んだ少女達。皆統一された白い洗練された杖を腰に携えていた。時代劇の侍が佩いていた日本刀さながらに濃縮された業を内包しているように感じさせた。彼女達は小学生かどうかと言った背丈の少年を|交互(・・)に蹴り回していた。明らかなリンチだ。少年は専ら無抵抗で、そうある事が当たり前・・・・のように健気に耐え忍んでいる。


「爽くん」

「どうしよう」


 この場で助ける事は確かに出来る。ただ、それは一時凌ぎ…対症療法に過ぎない。ここで助けたからと言って騒ぎを余計に大きくするだけに過ぎない。恐らく彼にとってアレは日常の一部なのだ。今後の事を考えるなら、尚の事彼を助けるのは得策とは言えない。だからと言って、澪ちゃんへの負担を増やしてまで助けたいのかと言われれば、答えはである。


「まだ生命が…っていう状況でもないし、様子を見よう」

「…」


澪ちゃんは唇を噛み締めながら黙って頷いた。きっと、その優しさは武器であり弱点だったに違いない。


「『白痴レイヴ』ごとき卑しい奴婢が我々『律命ハイエスト』の食事にありつこうなどと…烏滸がましいのだよ!!」

「申し訳…ありません…弟が、死んでしまうかもしれないのです…空腹で後は骨と皮ばっかりの枯れ枝のような身体になってしまって…どうか、お恵みを…」

「魔力適正も魔力出力も物理的に低い如きがっ!! あまつさえチノプール陛下のお慈悲で罪ある生命を許されているだけでままならず!! 底辺の底辺たる魔法を扱うことさえ難儀している人非人ごときが!!!」

「申し訳…ありません…弟が…弟が…」


尚も蹴り上げられ続ける少年の腹部は至るところに青痣や生傷が栄養失調必須な少年の心と身体を蝕んでいた。余りにも健気で、高貴なる少年の精神が、知らぬ間に僕の涙腺を激しく押し込んでいた。それは澪ちゃんもだった。

 少女たちは漸く蹴り上げるのをやめ、杖の先を少年へと向けた。やめろ…


「はぁ…話にならないわね〜」

「ヴィオラ。貴女が処分なさい。そろそろ、焔系の魔法の苦手を克服して貰わないと…教育係を任せて下さった陛下に何もかもが立たないわ?」

「えぇ〜…じゃあ、分かりました〜」


 ヴィオラは如何にも自分の手間が増える事を疎ましながら、杖の先に目に見えない力の塊を溜めた。


「人間の急所は〜…えーと、せいちゅーせん? 真ん中の真ん中だったような〜」

「澪ちゃん! 行くよ!!」

「…!! 待って」


 突如異様な空気が出現し、その場にいた誰もが何もないヴィオラの頭上に注意を惹きつけられた。


「あれ〜? 皆どうしちゃったの〜??」


 そして虚空が割れて、その裂け目から突然拳銃リボルバーが現れ、火を吹いてヴィオラの頭を撃ち抜いた———。



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