時を『超える』銃

第9話 着れない

『澪ちゃん! こっち』

『っ!』


 塀の上から手を伸ばして澪ちゃんを持ち上げる。俺はあれから暫くエゴイスタ純粋な悪意を使って練度を上げ、時間を止めた時に触れている人間一人なら止めないでいられるようになった。お陰で澪ちゃんを物みたいに持ち上げたり身体にベタベタ触れる必要がなくなった。楽になった反面、心のどこかで残念がる自分がいる事にも改めて落胆した。

 指パッチンをして時を再び動かす。これは澪ちゃんに時間の再始動を伝える為にやっている。


「時間停止している間に撃ったらまた1分延長とかはできないんだね」

「それでも1分間も自由な時間が生まれるのは凄い大きいアドバンテージだよ」


 あれから更にわかった事だが、

・エゴイスタ発動後1分間時間停止可能。重ね掛けは不可

・時間再始動後、5秒間のクールタイムがある。

・弾丸がない状態で引き金を引いた場合は時間停止しない

・弾丸は身に付けている衣服の外部から観測できないポケットなどに自動で生成される。

…といった勝手や仕様が存在する。


「それに、魔法が効かない澪ちゃんにも時間停止中に動けるのが分かって本当に良かった」

「ずっと抱えて貰うのも悪いもんねー」

「…」


人手が増える、という利点があると言おうとおもったのだが…。フラッシュバックした柔らかい感触と匂いを振り切り、目の前の屋敷に忍び込んだ。


(広い……本が多いし、家主は学者か研究者か…?)

(爽くん! あっち)


人の気配はないが、音を立てず互いにジェスチャーだけ意思疎通をして不測の事態に備える。書斎らしき部屋を抜け、奥に進んでいくと衣類や織物が堆く積み上げられた部屋を見つけた。更衣室…か? 


「どれもレディースだな…何でこっちの離れたところにあるのはボロボロなんだ?」


雑巾のような用途で使うものだろうか? それにしては随分な量が纏めて整頓されているようだが…。


「澪ちゃん。セーラー服は目立つし、これに着替えた方が良いかも」

「そうだね! じゃあ着替えるからお願いね」

「了解…」


辺りの気配を探るように澪ちゃんに背中を向けると、澪ちゃんは何故だか怒った。


「爽くん! ちゃんと私の事見ててくれないと!」

「え!? それは何故…?」

「音を消す魔法とかがあったら、私に触れるまでもなく攫ったり殺したりする事も出来るでしょ? だからちゃんと私の事を見ててくれないとね」

「でも…その…生着替えをガン見するというのは如何なものかと…」


 それは色々とヤバい。俺の男の子としての部分とかが主に。お辞儀くらい前屈みになってしまうかもしれない。


「安心して。下着とか見えないように着替えるの得意だから」

「はあ…」


 澪ちゃんはワンピースらしい服を被ってしまうと、その下で器用にセーラー服を脱ぎ始めた。何も見えていない筈なのに、逆に衣擦れの音が艶かしく聞こえて来る。


「よし…終わった——」


ピキン、と小さな音が鳴り澪ちゃんを包んでいたワンピースは小さなカケラとなって、砕けた・・・


「服とか身に付けるものも魔法で出来てるんだ」

「…やっぱアッチ向いてて」


 髪と同じで、下着も淡いピンク色だった———

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