第6話 支配者達

———第二都市・クレイスターレド


「なぁイイだろーババア? 俺の領地が1番頭数必要な戦線なんだぜ。もっと良質な『種』寄越せよー」


 白く長い髪を揺らす隻眼の少女は巨木のように穏やかに佇む最高議長を煽る。人を惹きつける容姿と雰囲気を持ち合わせながら、その言動は王族のトップとは信じ難い程品格から外れている。だが誰もそれを咎めないし、気にも止めてはいない。彼女の力がそうさせている。


——白耀・チノプール王爵。王国時代であれば主権者の彼女は全てを溶かす力を持つ、獰猛なる陽光。


「君1人いれば戦線なんてどうとでもなるでしょ〜。それよりもっと顔のイイ男を増やした方が皆の為だと思うけどな〜」


——翠耀・ペスラウェラ侯爵。側に美男子を侍らせる『変わり者』。あどけなく無気力に目を擦りながら常に浮遊する様は夜の空を跳ね回る月に例えられる。耽溺する水面。


「…お前達を見ていると本当につくづくと王国時代の終焉を喜ばしく思える。そもそも急く戦況でも、戦争でもない。我々人類の勝利は揺るがないのだから」


——金耀・デュランダ聖騎士爵。一度たりとも膝を地についた事の無い真の英傑。凛々しく、美しく、強い。その勇姿に7,523の騎士が胸を打たれた。庇護を司る黄金。


「はぁ…どうしたもんかねぇ」

「何を悩んでいる?」

「んー? 夕餉のメニュー」

「お前もだな…」

「まあまあ〜」


——瑠璃耀・ラクリマ辺境伯。権謀術数や奇策に長ける軍師。柔和で物腰低く、諸侯達の中で最も民に愛される領主。翻って、最も多くの敵を殺戮した冷徹さを持つ。蠢動する暗い光。


(うわあ…王族の人は皆出席してるのに貴族側で来てるのアタシ1人だけじゃん…気まずいのと空気が重いのと目立ちたくないのが混ざって心臓が破裂しそうだよ〜〜。ペスたそのペットの男の子に膝枕とかされて〜〜…とか言ったらデュランダさんにキレられるんだろうな〜〜…あぁ胃が痛えぇ〜〜)


——妖星・ジェナァー大公爵。最年少で市民階級から貴族にまで成り上がった異才。卓越した魔法の精度で独創的な魔法の数々を仕上げた。翻って自己肯定感に欠けるのではと囁かれている。奈落の底の嬰児みどりこ


——謎大きクレイドメフィスト女爵、消息不明につき不在。


——巨人殺しライヒシャフト暗黒騎士爵、闇の世界への遠征の只中にて不在。


——不老不死の魔女アンナマリア侯爵、『気分じゃない』為不在。


「——お待たせ致しましたわ。凡愚の皆様」


 絢爛な会議室の両扉が開け放たれ、デュミデイュ公爵が緋色の長髪を揺らしながら現れた。


「誰も待ってねーよ蜥蜴野郎」

「あら。本日も隻眼の調子が良ろしいようで…下卑た品性同様に捻じ曲がって失明していないようで何よりです〜」

(えぇーー!? 入室早々序列一位の王族と喧嘩!? 勘弁してよ〜)


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