第4話 魔法階級社会
暫く姫さく…澪ちゃんと一緒に、遠くに見えた山の麓の辺りまで歩いて来た。
「凄い高いね」
「何千メートルあるんだ…」
垂直に切り立った滑らかな黒い岩肌が高く高く聳えて、雲すら突き抜けているのだ。
「やっぱりここは、日本じゃないんだな」
「うん。さっきの魔法から分かる通り…ここは異世界みたい」
「異世界…」
俺と澪ちゃんがいた世界とは性質がまるで異なるのだと伝えたいんだろう。が、呼吸だって普通に出来ているし人々も俺達と同じような(または極めて近しい)形をしていた。太陽も1つだし…そういえば日照時間が長いな。
「じゃなくて!」
「うわ。爽くんどうしたの急に」
思考が寄り道した時は手を強く叩く癖があるのだが、澪ちゃんを驚かせてしまった。
「ごめん。それで、そろそろ本題に入ろう」
「本題?」
岩肌に小さな洞窟(というよりは隙間と表現した方が適切かもしれない)を見つけ、きょとんとする澪ちゃんを他所に枯れ枝とよく燃えそうな綿状の植物を掻き集めて焚き火を起こした。もう少しで暗くなる気配があるからだ。
「どうして澪ちゃんは追いかけられているの?」
「あぁ! その事ね」
こんな物騒な異世界にやって来て、今のところ唯一出会えた同郷の女の子とは言え、だ。
「爽くん。この世界の事どれくらい知ってる?」
「ええと、魔法とか俺の銃とか知ってる物理法則とは違う超常の力がある…くらい」
「そっか。私よりも後にこの世界に来たんだね…なんで一緒に死んだのに時間差が…」
「えぇと。澪ちゃん?」
「…! ごめんごめん。脱線しちゃったね。取り敢えずその辺の事を知っているなら大丈夫かな。よく聞いてね」
「うん」
澪ちゃんの顔色には妙な緊張感というか、神妙さが浮かんで来た。ここだけを切り取れば、肖像画としてとても映えるに違いない。彼女の言葉を捉えるために注意深く観察している唇が、焚き火の暖かさを反射しているようで俺は凄く変な気持ちになってしまった。
「…この世界の人々は、『魔法がどれくらい使えるか』っていう基準で差別されているの」
「…え」
「魔法が上手に使える人が王族や貴族・官職になって…そうじゃない人達は…その…」
「———奴隷、とか?」
澪ちゃんがぎこちなく頷いた。
そうか、そうなのか。
「魔法なんて凄い力があっても、人間がやる事は一緒なんだな」
「本当に…悲しいよね」
正直な気持ち、その話を聞くまでは柄にもなくとてもワクワクしていた。巨大な掌を模った炎が杖の一振りで自在に動いた瞬間、凄くかっこいいって感動までしてしまっていたのに。
「さらに大事な事なんだけれどね」
「うん」
「私は『あらゆる魔法を消滅させる』力があるんだって」
「…この世界をひっくり返せる力だ」
魔法が人間の価値を決める世界においてそれは、希望にも絶望にもなる。
「うん。だから———私は、この世界の敵なんだ」
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