第3話 弱い

 死んだ時と同じセーラー服だ。白を基調としたそれを飾り立てる赤いリボンのカワイイ。姫桜さんの淡い桜色の髪が際立つから…ってめっちゃ恥ずいな、なんか!


「同じクラスだった…爽くんだよね? 蒼井爽くん!」


 前世?で姫桜さんと会話した事は一度もない。文武両道に才色兼備と謳われているだけあって流石だなあ、と感心した。自分でいうのもどうかと思うが…クラスの中ではかなりぱっとしない方だったし、周りには静かで大人しい奴だと思われていた。話し掛けると意外そうな顔を誰にもされたものだ。


「あぁ。で、君は姫桜澪…でいいんだよね??

 その…あの日、清流橋から飛び降りた…」

「…うん。そうだよ」


 少しだけ空気が重くなって、それを他所へやる様に姫桜さんは努めて明るい調子で話を続ける。


「皆ね、私の事凄い人だって言うんだ。確かに部活とか習い事でいい成績を出せたりもしたんだけれど…何だか過大評価されちゃって」

「…」

「段々と次の目標が勝手に高くなっていっちゃって…最初の内は問題なかったんだけど、段々と私の手に負えないところまで来ちゃって」

「…」

「それでも皆はね。『姫桜澪なら出来る』って眼差しで見てきたんだ。それが、何だか怖くって…」

「…」


目立たない俺とは正反対だ。


「それで…ね? ふらっーと塾を抜け出して歩いてて…で橋の下まで凄い高さじゃない。「ここからなら静かな所に行けるな」って思っちゃって」

「…」

「独りで勝手に溜め込んで、勝手に悩んで。誰にも何も打ち明けないまま消えようとして…アハハ、弱い人間だよね。姫桜澪って」

「あぁ。弱い人間だ」

「うん………!?」

「皆と同じ。普通のさ」


 周囲からのプレッシャーが増長し続けるなんて、きっと姫桜さんの心はとても窮屈だったのだろう。相談出来る相手もなく、かといって期待を裏切れるわけでもない。そんな自分の弱さを独りでに呪い続けた。彼女はとても、優しい人なのだ。


「あ。それでもね」

「?」

「死ぬ最後の直前に爽くんが私を見つけてくれて、抱きしめてくれて。あの時独りじゃないんだって心の底から思えて。嬉しかったよ、凄く」


…抱きしめた?? 俺が?? 不謹慎にも俺の脳内には不意に知り得た姫桜さんの柔らかな感触が突然反芻された。


「なんか爽くん…耳真っ赤だけど大丈夫??あ、もしかして重かった…??」

「いや全然全然!! ほら、姫桜さんって体温高いな〜って思って!!」


何急に言い出してんだよ俺!?


「えぇーそうかなー?」

「そうだよ。ハハハ…」


 その後も背後の感触と温もりから必死に意識を逸らしつつ人里から離れるように歩いていった。

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