第5話 宇宙戦争勃発

『ビー!!ビー!!ビー!!ビー!!』


 と、その時、突然警告音のようなものが鳴り響く。

「な…なんだぁ!?」

「ああ、母船から通信じゃ。何事かのう?」


 そう言うと偽樹さんは、左の手のひらを右人差し指でポンっと押した。すると、突如目の前に立体映像が映し出される。そこに映ったのは、樹さんに負けず劣らずの美少女だった。


 長い髪で、金のメッシュが入っている。服装も地球人と変わらない。彼女も人間に擬態しているようだ。思わず見とれる。…ハッ!?イカンイカン!!俺は樹さん一筋だ!!


「おう、リーンか。どうした?」

「どうしたじゃないですよ、長老!!アンタ、何したんですか!?」

「第七星群警護班の阿呆を喰った」


 …長老?あー、成程。それでこの口調なのか。リーンと呼ばれた美少女は…(きっと正体は、あの怪物なんだろうな)とにかく慌てふためいている。先ほどの行為が問題だったらしい。


「おかげで我々、第七星群警護班に包囲されてますよ!!何、ケンカ売ってんすか!?早く戻ってください!!」

「いいじゃろう。奴らとの因縁もここで終わりじゃ!!」


 ニヤリと不敵な笑みを浮かべる偽樹さん。そして、再び掌を指で叩くと、そこはあの無機質な素材の部屋に移っていた。多分、こいつらの母船の中だと思われる。…ん?


「あの…ちょっといいか?」

「ん?何じゃ?」

「これはお前らの戦争だよな?…何で、俺までいるんだ?」


 そう、コイツらの戦争に俺たち地球人は関わりのない事。連れてこられるのはお門違いだ。協力するなら相手の第七星群警護班

の方じゃないのか?その質問に、数秒考えてコイツは答える。


「人質じゃ」

「NOォーーーーーーッ!!」

「うるさいうるさい。喰われたくなかったらついて来い」


 襟首掴まれて引きずられていく俺。これが命の危険であるくらい、容易に想像できる。そして、司令塔と思われる間に到着した。そこで、沸き起こった乗組員の言葉は、


「長老、この野郎!!何てことしてんすか!!」

「あいつら、お冠ですよ!!数じゃ、圧倒的に負けてんすから!!」

「あとでフクロにしますからね!!覚悟しといてください!!」


 どうやら偽樹さんは、威厳も信頼も無いらしい。乗組員と思われるエイリアンたちは皆、人間に擬態している。国籍はバラバラなようだが、違和感はない。


「どうも失礼しました、ウチの長老が…ホントに阿呆な真似をして。お怪我はありませんか?」

「あー…い…いえいえ?どうも、ご心配なく…」


 リーンと呼ばれた女性…と、思われる異星人は物腰低く丁寧だった。世の男どもは彼女に合えばきっと、虜になってしまうだろう。偽樹さん、見習え。


「まあよい、リーン。『ライダー』を一機出せ」

「どうするつもりです?」

「潰す」


 そう言うと、俺たちは小型宇宙船が数十機並ぶ、格納庫に通された。地球の軍艦なんぞ比ではない。彼らがその気になれば、地球なんか一瞬で制圧できるだろう。


「さ、行くぞ」

「…ん…?何だこの違和感?」

 その時、自分が毒されていることに気付いていなかった。


 発進する『ライダー』という小型宇宙船。そこに当然のように俺も乗っていた。その事態に気付くのが遅すぎた。ようやく、異変に気付くも時すでに遅し。星空の中に突入していた。


「おいおいおいおい!!何で、俺も乗ってんだ!?」

「ん?決まっておろう。人質じゃ」

「はぁ!?」


『ライダー』を操る偽樹さん。どんどん加速し、敵と思われる軍艦隊に突っ込んでいく。だが、敵軍艦は容赦なく砲撃してくる。おいおい、人質の効果、全くねえじゃねえか!!


「ローレンジウム砲か。古風じゃのう。躱すまでもないわ!!」

「うおおおおおっ!!当たる!!」

「黙っとれ、喰うぞ」


 敵の光線がライダーの目の前で、湾曲して外れていく。科学力で圧倒している話は間違いないようだ。

「ふふん、砲撃の見本を見せてやるぞ。時代遅れども!!」


 そう言ってキーボードのようなものが、偽樹さんの前に設置される。すると物凄いスピードでキーを打つ彼女。…こっちの方が古風なんじゃ…?すると無数の波動が敵船たちを貫く。


 そのまま敵の母艦に文字通り突っ込む。船内に突入した偽樹さんと俺。敵兵を討ち取りながら母船の中を突き進む。敵兵は反撃に出るが、俺を盾にしているため、奴らは手が出せない。


「司令塔は…こっちか。行くぞ」

「うわわわわ!!やーめーろーッ!!死ぬー!!」

「…うるさい盾じゃな。あの位の攻撃で死にはせん。安心せい」


 確かに、敵の砲撃は俺の目の前で反れていく。バリアのようなものがあるようだが、怖え!!めっちゃ怖え!!絶叫アトラクションの比じゃねぇ!!助けてくれえ!!


 そして遂に敵船の司令塔に到達する。しかし司令官は、

「愚か者のエボン星人め。囮であることに気付かなかったな!!後悔するがいい、この船と共に星の塵となれ!!」


 司令官は手元のスイッチをガンッと殴り、乗組員はワープで姿を消す。これは敵の罠だった。この母船を偽樹さんを仕留めるためだけに、犠牲にしたのだ。


「うおーっ!?こ、こここれって、や、やばいんじゃないのか!?」

「うるさいのう、こっちも手を打ってあるわい」

『本艦、自爆まで3…2…1…』


 敵艦は秒読みに入った。うおー!!もう駄目だ、爆発する!!樹さーん!!まだ、17だってのに!!これからが人生の醍醐味だろうがァーッ!!


「どどどどどうするんだよ、流石にお前でも死んじまうだろ!?」

「うるさいオスじゃのー。ほれ、これで文句無かろう」

「はあ!?…え?あれ?ここは…」


 気が付けば俺たちは、地球の三佐公園にいた。そういえば、転送はエボン星人の得意技だ。そして晴天の昼間なのに、強烈な光が上空で破裂する。敵の母艦が爆破したようだ。


 しばらくして、偽樹さんの船から通信が入る。

「リーン。どうじゃ?これで文句なかろう?」

「ええ、敵船は長老を仕留めたと勘違いして、撤退しましたよ」


 得意げに、こちらを見やる偽樹さん。本当に無茶苦茶しやがる。だが…これで、しばらくは落ち着くのだろうか?俺は偽樹さんに確認する。こんな死ぬ思いはこりごりだ。


「…あー、もう大丈夫なんだよな?終わりでいいんだよな?」

「どうかのう?敵対勢力はそれこそ星の数じゃからのう」

「…サヨナラだ、俺の平穏な生活よ…」


 これで、この後も平和な生活からは縁遠い人生が確約された。偽樹さんはいつになく得意気に見える…憎たらしいったらありゃしない。敵船の爆破の残光を見ながら、俺は途方に暮れた。

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