第4話「らぶこめ」の「こくはく」?

「それにしても、お主ら地球人は、普段からあんな美味いものばかり食しておるのか?…羨ましい限りじゃのう…」

「んー?あんなもんで良ければ、毎日作ってやるよ」


「え?」

「ん?」


 どこか羨まし気な目の偽樹さんと、返事をする俺。一瞬、気付かない。先に反応したのは偽樹さんだった。俺は間をおいて、とんでもないことを口走ったことを自覚した。してしまった!!


「…!?あーッーーーッ!!」


 うわうわ、妙な事言っちまった!!これじゃ告白じゃないか!!あー!!何でこいつにこんな事言わにゃならんのだ!!どうせなら本物の樹さんに言いたいのにーッ!!


「ふっふーん、わしは知っておるぞー?今のは「らぶこめ」とかいうヤツの「こくはく」というやつじゃろ?愛い奴よの。かっかっか。愉快愉快、痛快痛快」


「…あのさ、気になってたんだけどさ」

「うむ?」


 急だが、一応気になっていたので聞いておく。


「…なんでお前、口ぶりが年寄りくさいんだ?いいんだけどよ」

「そうか?」


「そこの君たち、ちょっといいかな?」


 なんだこの、突然話しかけてきた二人…。でっけぇー…。2メートル超えてる。日本人じゃないな。二人とも黒いスーツ姿。夏の日本では暑かろうに、汗一つかいていない。もしや…。


「な、なんですか?」

「ああ、君じゃない。そこの彼女だ」


 よく見ると、偽樹さんの目つきが先ほどまでと変わっている。何というか…警戒しているような…。

「すまんの、タクマ。少し席を外すぞい」


 そう言うと、偽樹さんはものすごい速さで逃げ出し、信じられない跳躍力で屋根に飛び乗り、屋根伝いに跳ねていった。…あいつが逃げ出したということは、この二人も…。


「やはり奴はエボン星人…エイリアンか。ケルヒム!!少年を保護しろ。私は奴を追う。周辺に仲間がいるかも知れんから、重々、気を付けろ!!」


 そう言うとスーツの男も、人間離れした跳躍力で偽樹さんを追いかける。…やはり、この二人もエイリアンだ。敵対勢力か、何かか?異星人の間でも、複雑な事情がありそうだ。


「もう安心していいぞ、少年。奴らに乱暴されたろう」

「俺はともかく、他もろもろがその…」


 たとえエイリアンだとしても、地球人が喰われたとは言えない。何がきっかけで、宇宙戦争に発展するやもしれない。言葉選びは気を付けた方がいいな。…おおっ…こわ。


「我々は第七星群警護班と言って、侵略者からこの管轄の惑星を警護している。私の名はケルヒム。先ほど追いかけていったのは、私の上司のモビート主任だ」


 木陰に移り、説明を受ける。非常識なことだらけで頭が追い付かない。この夏の異常気象で、俺は汗だくなんだ…多分。異星人バトルの心配でかいた汗だとは、認めたくない。


「あの…やっぱりあいつらは悪党なんですか?」

「ああ、奴らの星は戦争が絶えなくてな。自分の星を食いつぶしてしまった。今では特級のお尋ね者として追われている」


「じゃあ、奴らの母船は…」

「今頃、我々の艦隊が撃ち落としていることだろう」


 そうか、これで命の心配は無い…ん?…てことは?


「ちょっと待ってください!!その船には多分、地球人が拉致されて、監禁されているんです!!」


 このままだと、もしかして本物の樹さんが危ないのでは…!?

「そうか、奴らは星を潰してしまうほどの強力な兵器を使う。ためらっていては勝機は無い。多少の犠牲は仕方ないのだ」

「そんな!!」


 まさかもう、樹さんが宇宙の藻屑に…?そして、モビート主任という異星人が戻ってきた。その手には、偽樹さんの服の切れ端が握られていた…まさか、あの偽樹さんが…!!


「ケルヒム…」

「モビート主任!!奴は?」

「ああ…」


 狂気の沙汰でにやけるモビート。


 間違いない…。


「こんな具合に喰ってやったわい!!」


 …これはアイツだ!!


「う…うわぁぁぁ!!」


 そう言うと、モビートと呼ばれた男の体は半分に裂け、中からエボン星人が現れた。そして、その大きな口でもう一人の男を食い潰した。それは当然、偽樹さんだ。…返り討ちだったか。


 うわー…これ、近くで見ると、すっげェグロい。


 跡形もなく喰い尽したエイリアンは、樹さんの姿に戻る。服はエボン星人の皮膚でできているらしく、綺麗なものだった。そして、ごくんっと異星人を丸飲みにしてしまった。


「全く…地球人のオスと張り合うくらいの不味い連中じゃ。さっきの美味な、エビフリャーの余韻が台無しじゃのう」


 俺は正直、この状況を歓迎していいのか?

「あ、あんた第七星群警護班ってのに追われてんだろ?いいのかよ?宇宙戦争なんかになったりは…?」


「は。あんな連中、恐れるに足らぬわ。儂らは気に入らん星は、いくつも攻め落としておるからの。こんな下っ端をよこすとは我ら、エボン星人も舐められたものじゃ」


 偽樹さんは、呑み込んだエイリアンの「何かの汁」を拭いながら、俺に警告する。俺は自分の血の気が音を立てて引いていくのが分かる。やはりこいつら、ろくな奴らじゃねえ!!


「…下手に逆らおうと思うなよ?この星を塵にするなど、我々なら朝飯前じゃからな。…とは言うても、儂はこの星が気に入った。特にあのエビフリャーは、どこの星の飯より美味かったわ」


 それよりも彼女(?)らの母船にいる、本物の樹さんの安否が気になってしょうがない。もしかしたらこの間にも宇宙の屑になっているやも…。恐る恐る、俺は尋ねた。


「なあ、お前さんらの母船。まさか撃ち落とされてたりはしないよな?い、樹さんの安否は…!?」


「は。あのような雑魚に落とされとるわけなかろう、今頃木っ端微塵じゃ。あの娘もきっと無事じゃ。安心せい」


 それを聞いて安心…できるかぁッ!!バッチリ、宇宙戦争勃発してるじゃねえか!!どっちの話を聞いて、どっちの味方をして、どっちを信じればいいか…わからんっ!!


 これは地球も、厄介な奴らをしょい込んでしまった。子供、孫の代では、地球はどうなってしまうのだろう?それまで地球は、その原形を留めていられるのだろうか…。

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