第3話 始まる異星人との共同生活
気づけばそこは我が家の食卓。日も明けて昼。うん。紛うことなく俺の家の食卓だ。…さっきまで宇宙船にいたよな?…ええっと…突然すぎて、ついていけない。
「ほら!!拓真、今日の昼ごはんはあなたの当番でしょ!!」
「兄ちゃん、お腹すいたー」
「ど…どうなってんだ?俺はさっきまで…」
「タクマ?」
「うわぁぁっ!?いつき…いや、な…夏河!?」
「どうしたんじゃ?ボーっとしおって?」
な、なんで…うちに樹さんがいるんだ!?この非日常が、徐々に点と点が線になっていくように、記憶が繋がっていくきっかけになっていく。もしや、この子は…。
「お…お前…」
「なんじゃ?申してみよ」
「い、いや。何でも無い」
…間違いない。こいつの喋り口は、昨夜のエイリアンだ。畜生…てことは、昨日のことは夢じゃなかったのか…。夢ならいくら良かったか。今からでも夢にならないか?
でも、なんで皆、ここに他人の樹さんがいるのに平然としてるんだ?弟は異様に懐いており、おもちゃにされている。これじゃまるで、家族の一員じゃないか。
「拓真ー、今日良いクルマエビ入ったから、お昼はエビフライにしてくれる?頼んだわよ」
「か、かなえ姉ちゃん。この子は…?」
「何言ってんの。樹ちゃんはうちに居候して5年になるじゃない。貴方が連れてきたんでしょ?」
ど…どうなってんだ?コイツ、異常なまでにウチに馴染んでやがる。そんな事情も理由もわからないまま、偽樹さんがそっと顔を近づけ、耳元でささやく。
(騒ぐな。よく聞け、小童)
耳元でもわかるほど、にやけながら、
(お前の家族には、記憶がパーになるガスで情報を改ざんさせてもらった。家族だけではない。お前の知り合い全員な)
「何ぃ!?」
(わしはこのまま地球人として擬態して、暗躍させてもらう。昨日の公園のオスたちみたく喰われたくなかったら、せいぜい平静を保つことじゃな、かっかっか)
「ぐっ…!!」
ん?待てよ?
「な、なあ。じゃあ、お前はその姿のまま、ここに居続けるのか?ホームステイ的な、あれか?」
「ほーむすてい?ああ、居候か。まあ、そんなもんじゃ」
「え…えええっ!?」
それって中身はともかく、外見は樹さんのコイツと寝食を共にするのか!?…いかん、理性は保てるのか?樹さんと同居なんて…。嬉しさと嫌悪感が、ない交ぜだ。
そしてやたらニヤニヤしている偽樹さん。このヤロー…、俺の気も知らないで!!だが、逆らうことはすなわち…。俺だけじゃない。俺の家族も…喰われるということだ。
「たーくーまー!!」
気が付けば、とりあえず俺は、調理場でエビフライを揚げていた。頭の中は混乱と歓喜と恐怖でぐちゃぐちゃだ。殻をむき、背ワタを取り、バッター液とパン粉をまぶし、揚げていく。
「いただきます」
とりあえず困ったときはメシを食おう。それで少しは気持ちも落ち着くはずだ。今日のメニューはエビフライ定食。豆腐とネギの味噌汁に新鮮な野菜サラダ。後はヤカンで煮だした麦茶。
メシは地球を救う。…なんてな。阿呆らし。
そんな、偽樹さんが質問してくる。
「…なあ、なんじゃ、この食物は?」
「エビフライだよ。何か文句でも?」
「いや?そういうわけでは。ふむ…ほう…」
記憶を見たんじゃないのか?不思議そうにいろいろな角度から眺め、そっと口に運ぶ偽樹さん。サクッと嚙み切る音が心地いい。タルタルソースも自家製だ。
その瞬間…。
「~~~~!!~~!?う…美味い…!!なんじゃ、これは!?なあなあタクマ、なんじゃこれは!?」
「何ってエビフライだよ。ふつうの」
「す…素晴らしい!!宇宙広しといえど、こんな美味いものは、初めてじゃ!!」
お、おお…なんか、えらく感動しとる。そ、そこまでか?まあ、お気に召したようで何よりだ。それにしても動揺に近いな。感動のあまり偽樹さんは、その場で立ち上がる。
「美味い、美味いぞ!!これは宇宙に発信せねば!!」
「やめてくれ、何か嫌な予感がする」
「樹ちゃん、もう少し静かに食べてね?」
宇宙の飯文化は分からんが、地球のそれはそこまで革新的なのか?そのまま満面の笑顔で一本、二本と平らげる。それを見ているかなえ姉ちゃんも、弟のシンタも変わりない。
ついには偽樹さんの目頭が潤む。…ほー…涙腺があるんだな。
「いつきねーちゃん、おおげさすぎー」
シンタはけらけらと笑っている。
…うん、これなら、しばらくは誤魔化せられるかもしれな…。
「昨日、喰った人間のオスとは大違いじゃな…」
俺は偽樹さんを速攻担ぎ上げて、家を飛び出す。
「…今日の拓真兄ちゃん、へんなのー」
「あの子が普通だったことなんてないでしょー」
ゼーゼーと息を切らし、昨晩、不良たちが餌食になった、三佐公園にコイツを運んでくる。夏場のこの公園は地面の照り返しで、とにかく暑い。ポカンとして事態が分かってない偽樹さん。
「馬鹿か!?馬鹿なのか!?自分から爆弾発言しやがって…」
「んん?何じゃ、慌てて?何も、おかしくない地球人じゃろ?」
「地球人は人間の頭蓋骨を、噛み砕かねえんだよ!!」
こいつに危機感はないのか?…まあ、地球人なんて束になってかかっても、餌にしかならんのだろうが。そんな偽樹さんは、異様なまでに軽かった。それがエイリアンたる証拠か。
「ん~。地球人は不味いのう。先ほどのエビフリャーには到底、敵わんのう。お前すごいの~、タクマや」
「愛知県民か、お前は」
エビフライの味を褒められたことより、ズレた感覚で突っ込んでしまった。…イカン、どんどん毒されてる。俺の日常がどんどん、汚染されていくのが分かる一コマだ。
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