第2話 樹さんの秘密の答え
…どれくらい、眠っていただろう。
ようやく意識を取り戻し、目を開けると、そこは簡素で綺麗。だが窓は無く、広さはそれほどでもない、無機質な部屋だった。
…殺風景だ…俺は軟禁されたのか?
だが、何故か明らかに、地球上の文化のレベルのそれを、超えている空間ということは分かる。空気は異様に澄んでいる。森林の比ではない。そこが非日常を感じさせる。
「俺は死んだんじゃ…ない…のか?」
俺は現状を確認した。怪我はして…いない。意識も正常だ。ゆっくり先ほどまでの出来事を思い出した。確か、実家の食堂を姉貴に任せて、愛犬と散歩に出て、道中の公園で…。
「そうだ!!樹さん…!!」
「え?何?」
「うわああああっ!!」
あの樹さんの異常事態を、思い出してしまった。夢にしては妙に、生々しかったことも記憶にある。その時、隣に樹さんがいることにようやく気が付いた。
「…いる!!」
「うん、そうだね。いるね」
「…いる!?」
「うん、だからいるね」
突如、声を掛けられ慌てふためく俺。横には人間…に見える樹さんの姿があった。あまりにも唐突だったので、「いる」以外の言葉が出てこない。語彙力皆無なのがここで出た。
「樹さ…いやいや、な…夏河?」
「藍原君!!よかった…生きてたのね…」
「な…夏河。えーと、君は人間…で、いいんだよな?怪物になったり…しない…よね?」
とにかく現状がさっぱりだ。この樹さんと、さっきの樹さんが、同じ人物なのかすらわからない。彼女も現状が説明できないようで、彼女も自信なさ気に、
「うん。私も気が付いたらここにいて…何が何だか…」
やはり樹さんも、あの化け物にここまで連れてこられたようだ。この状況では、これ以上は情報は得られなさそうだ。
「目が覚めたようじゃな」
そう声がすると、壁だったところに空間が現れ、もう一人の樹さんが入ってきた。ものまねはおろか、一卵性双生児と言うレベルではない。本当に樹さんだ。
「わ…私が!!」
「夏河が二人!!」
「ふふん、おどろいておるのう。良きかな良きかな」
一応、驚きはした俺と樹さん。だが漫画やアニメのような展開なので、意外と順応してきたのが、やはり日本人という証拠なのだろうか。…ジャパンカルチャー恐るべし。
そして、もう一人の樹さんが語りだした。どこか得意気でマウントを取ってきそうだ。おっとりタイプの清楚タイプの本物に対して、偽物は、はきはきしてて元気の固まり。活発だ。
「わけがわからんか?よぅし、説明してやろう。まず、我々はエボン星人、お主らから見るとエイリアンということになる」
『エイリアン!?』
意気揚々ともう一人の樹さんがしゃべるのに対し、俺たちは声がハモる。エイリアン…ついに地球に侵略に来たのか!?呆気にとられる俺だったが、樹さんはちょっと反応が違う。
「すごい…お父さんが聞いたら、飛んで喜ぶかも…」
「な…夏河…さん?」
「はっ!?いけない、いけない。今のは忘れてね?藍原君」
「いや、でも今のは…」
「忘れなさい」
「はい」
この状況を、少し喜んでいるようにも見える樹さんだった。好きな人の存外意外な一面を見て、嬉しいやら、恐いやら、悲しいやら…。だが、その真相には触れない方がいいようだ。
「なぁに。はじめは用が済めば、始末しようとも思ったが」
何、コエーことサラリと言ってんだコイツ。
「二人の脳のデータを見た限り、メスの方の親の会社は、面白いことをやっておるのう」
樹さんの稼業。大企業とだけは聞いているが…。
「オーバーサイエンス社。現代科学を超えた宇宙規模の技術開発をしており、公では言えん、国際レベルの産業を担っておるのか…ほー…低レベルな文明の星というわけでもないのか」
「…夏河、お前、すごい家庭環境なんだな」
「…ごめん、何も言わないで。結構苦労してるの。忘れて」
「いや、しかし…」
「忘・れ・な・さ・い」
「はい」
顔を見ると暗い影が。それ以上は聞かないことにした。聞いちゃ駄目なやつだ。それにしても、ここまで一言で圧をかけられる子だったとは。本当に意外だ。
「二人の脳は隅々まで調べさせてもらったぞ?オスはこのメスのことがすきである…」
「わァーーーーッわォーーーーッわゥーーーーッ!!」
「ん?なんじゃ?」
アブねぇ…。コイツ今、好きって言おうとしなかったか?こんなとこでフラれたらどうすんだ!!生きるか死ぬかの瀬戸際だってのに、何てこと暴露しようと…!!
「とにかくメスの方は、親御さんの会社との交渉材料とさせてもらうとしよう。いいビジネスができることを期待しておるぞ」
とりあえず、樹さんは当面、無事か…。あー、良かった。
…あれ?でも俺は?普通の高校生男子だぞ?
…まさか…喰われ…?
「そして、オスの方は…ふふふふふ」
含み笑いを発した偽樹さん。…偽物でも、さん付けしてしまう。その次の瞬間。俺は自宅の食卓に着席していた。時刻は昼。しかし、昨日の記憶は、はっきりしている。
…え?
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