『短編』正しい地球の侵略の仕方

はた

本編

第1話 あの…い、樹さん…?

 俺の名は藍原拓真(あいはら たくま)どこにでもいる高校二年生男子だ。…すまん。紋切型の出だしで申し訳ない。俺に語彙力を求めるのはナンセンスなんだ。許してほしい。


 別に特別顔が良いわけでもなく、背がスラっと高いわけでもない。成績も中の上。運動も飛び切り出来るわけでもない。友達の数もそこそこ。唯一の特技は料理くらいか。


 …そんな俺だがあの日、見てはいけないものを見てしまった。夏休みのあの日の夜。この日を避けていればきっと、俺の人生は大きく変わっていただろう。それほど深刻な夏の夜だった。


 両親を亡くした俺の家は、俺と姉貴で食堂を切り盛りしている。夜も更けると客もまばらになり、俺は店を姉貴にまかせ、愛犬のチャップスの散歩に出かけた。


 夜の散歩はいつも近所の三佐公園を通ることになっている。そこで、クラスの女子の夏河樹(なつかわ いつき)さんが、不良たちに絡まれているのを見かけた。


 こんな夜更けにどうしたんだろう?予備校の夏期講習か何かの帰りか?まあ、才色兼備の彼女なら、何ら不思議はない。だが今思えば事実、こんな暗がりの公園にいるのは違和感があった。


 ここだけの話、俺は樹さんが大好きだ。ホント、可愛い。肩にかかる程度の短めの黒髪に、非の打ち所がないルックス。成績も良く、運動もできる、完璧を絵に描いた女の子だ。


 正直、俺は腕っぷしに自信はないが、彼女を助けるのにこれ以上の理由は要らない。遠目で見ても勝てる相手ではないが、その隙に彼女が逃げられればそれでいい。


「へへっ、いいだろ、おい?」

「可愛いなぁ、俺たちと遊ぼうぜぇ?」

「なーに、お兄さんたちは優しいからよ?」

『お友達になろうぜぇ~?』


 馴れ馴れしく声かけやがって…。俺だってまともに話したことないのに…!!うらやま…いやいや、けしからん!!拳に息を吐きかけ、ぐるぐる腕を回し、俺は不良たちに向かって足を進める。


「おい、やめろよお前ら…」


 俺が声をかけようとしたその瞬間。


『ギイッヤアァアゥウウウウ!!』


 い、樹さん?の顔が半分に割れ、中から巨大な頭で、口が2メートルは裂けている化け物が出てきた。それは、人間とも動物とも異なる、未知なる生物だった。…本当に生物か?


「う…うわあぁっうぎゃあああ!!」


 そして突然、不良の一人の頭を丸飲みし、頭蓋骨ごとぼりぼりと嚙み砕いて食っていた。人間の頭蓋骨がまるで鳥の軟骨の様だ。そして、そのまま他の不良にじりじりと歩み寄る。


 …ホ、ホラー映画の撮影か?俺はこの愛しの人が、実は化け物でした状況が理解できない。俺の知っている樹さんは、いつもにこやかでおっとり優しい…はずなのだが…。


「か、カズやん…何だ?このバケモン!?」

「に、逃げるぞ、ハマオ!!食い殺され…う、うわっ!?」

「カズやーーーーーんッ!?」


 その言葉を言い切る間も無く、カズやんとやらの頭を噛み砕く。そして、ぼーりぼーりと咀嚼する。果たして人間は美味いのか?脳が勝手に、いらんことを考えてしまう。


「い…嫌だぁァァーーーーっっッッッッ!!死にタク…ぐべ」


 そして、逃げようとしたハマオとやらも、腰が抜けて足が動かないのか。哀れ、無抵抗のまま喰われてしまった。何て丈夫な歯だ。頭は異形、体は女子高生。シュールにも程がある。


 に…逃げないと…。幸い奴は俺に気付いていない。命の危険を察知し、震える足を何とか諫め、足音を立てないように、その場を去ろうとした。が。思いもかけないことが、


「ワン!!ワワン!!ワン!!」

「うおぉぉい!!チャップス!?」


 愛犬チャップスは、化け物めがけて威勢良く吠える。店の番犬としてしていた日頃のしつけが、こんなところで裏目に出るとは!!やめてチャップスさん、お願いだから!!


 すると化け物は当然、こちらに気付いた。その謎の生物は、頭…?で、いいんだよな?をぐりんっとこちらに向け、目…と、思われる部位でジーッと見て、じりじりと近づいてくる。


『ミイィィギギギタタタッタアァッ!!』

「うわあああぁぁっぁあっッツッッ!!」


 逃げなきゃダメだ…。

 逃げなきゃダメだ…!!

 逃げなきゃダメだ…ッ!!


 俺の脚は勝手にどこへともわからず、駆けだしていた。チャップスはどこかへ行ってしまったが、そんなことにかまう暇はない。とにかく、あの不良のように喰われてたまるか!!


 しかし化け物は、人知を超えたスピードで飛び跳ね追ってくる。妖怪?悪魔?それともミュータント?とにかく何でもいい。次第に頭の中は真っ白になっていく。


 樹さんだったその怪物は、口を開け向かってくる。転げまわりながら逃げる俺は、死に対する極限の恐怖を感じてやまない。そしてついに、俺は袋小路に追い込まれてしまった。


「ま…待て!!話をしよう!!お前は…いったい…」

『ギャウウウゥゥゥゥッッッッッッ!!』

「すみませんでしたァァァーーーーーーーッッッ!!」


 当然、頭部の構造が分からないから、表情は分からないのだが、何故か笑みを浮かべているように感じた。そして、一歩一歩、じりじりと歩み寄ってくる。


 …間違いない。死ぬ。姉貴、弟よ。先立つ不孝をどうか許してくれ。こんな形で命を落とすとは予想だにしなかった。神様は残酷だ。こんな死に様を用意するとは。


 そして、その化け物は大きく広げた口?らしきものをこちらに向け、目に写らぬ速さで突進してきた。俺は尻もちをつき、口からは泡を吹き、目は白目。幸い失禁はしていない…幸いか?


「ああ…あああ…アアーーーーーッッッッッッ!?」


 俺の意識はそこで途絶えた。

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