第54話
放課後、廊下や教室では数人の生徒が見受けられる。
今日、悠太は羽菜と居残り勉強をするつもりは更々ない。
「悠太くん、どうしたの?」
「え、うーんと、ちょっとね」
教室の窓から下を見たり、廊下から他の校舎を見渡したり、何かを探している悠太の行動が謎でしかないが、目当てのものが見つかったのか羽菜を呼んだ。
「何か探してたの?」
「そう、ちょっと応援にね」
「応援?」
「羽菜ちゃん、誰にも知られず移動するよ」
結局何がしたいのかよく分からなかったが、何やら楽しそうにしているので、何でもいいかと楽観的に捉えた。
誰にも知られずに、の言葉とおり周囲を警戒しながら校舎裏へ行き、更にその奥の古くて大きな倉庫まで歩いた。
静かな中でジャリジャリと砂を踏む音が目立つため、なるべく音をたてないよう慎重に倉庫の壁に背を預け、悠太と同じように倉庫裏を覗く。
そこには、見知った男女が向かい合って立っており、その空気と悠太の「知られずに」の言動が合致した。
告白現場。
この場合、真奈から大河への告白だ。
勝手に覗いてもいいのかな、と罪悪感が徐々に襲ってきたが、悠太を見ると嬉々としていた。羽菜も好奇心が全くないわけではないため、引き返すことなく見守ることにした。
悠太が言っていた応援とは、告白する真奈を応援するということだ。
しかし、悠太の表情を見る限り、応援というよりは野次馬だ。悠太の気持ちが分からないこともなかったので、今にも笑い声が出そうな悠太とは逆に、絶対にバレないようにしなければ、と羽菜は気を引き締めてその場に留まる。
そんな二人を、大河は呆れながら見ていた。
真奈は二人に背を向けており、大河だけが二人に気付いた。
この距離では大河がどこを見ているのか、二人には分からないだろう。
あいつらは何をしてるんだ。
分かっている、この状況を覗き見して楽しんでいるのだろう。
なんてデリカシーのない奴等だ。
真奈に話したいことがあるから場所を移動したい、と言われた時から目的に気付いていたが、その真奈が何も喋らない。
真奈からの好意に気付いていなかったわけではない。むしろあんなに分かりやすく視界に入ってくるのだから、気づかない方がおかしい。
真奈から告白されたとして、何かが変わるわけではない。
親友というわけでもない、友達というには何か足りない。
しっくりくるのは、好きな女の友達。この関係だった。
告白を受け入れるにせよ、断るにせよ、その言葉を言われなければどうすることもできない。喋る気配のない真奈に、困ったと宙を見る。
「真奈ちゃん、動かないね」
既に存在は大河にバレているものの、バレていないと思っている羽菜がコソっと悠太に耳打ちした。
「うーん、怖気づいたのかな」
「そ、そんな…」
「ずっと俯いてるし、何も言わないし、どうしようもないね」
本当にどうしようもない女だ。
距離があって分かりにくいが、大河の顔が面倒くさいと訴えている。ような気がする。
間をとるのも大事だが、こうも黙り込んだままでは悪印象しか与えない。
「緊張しちゃってるのかな」
「大河がイラっとし始めてるね。不味いな」
「そ、そんな…でも確かに、大河くん短気なところがあるから」
真奈を心配する羽菜の空気を、大河は察した。
羽菜が見ている手前、酷いことはできない。
このまま真奈を無視して帰ろうかと思ったが、よくない選択だろう。
羽菜さえ見ていなければ、その選択をした。
失恋をしたが、まだ羽菜を気にしてしまう。
このまま消えていくのを待つだけだが、嫌われることはしたくなかった。
「あ、あの」
漸く口を開いた真奈だが、未だ俯いている。
真奈の出した声に答えることはせず、黙って次の言葉を待つ。
「じ、実は、その、わたし」
ひゅーひゅーと呼吸音が聞こえてくる。
どれだけ緊張しているんだ、と思うが悪い気はしなかった。
「わたし、小学生の時から、大河が…で」
蚊が泣いたような声で告白をされた。いや、された気がする。そのくらい、声が小さすぎて何を言ったのかよく分からなかった。
「…は?」
思ったより低い声が出てしまい、真奈は呼吸音を止めた。
息を止めて固まった真奈に、聞き返すのは酷だと思った。
きっと一世一代の告白をしたのだろう。
よく見えないが首まで赤くなっている。
どこからどう見ても告白の場面で、先程は恐らく告白の言葉を口にした。と思う。
どうしたものか、と真奈の後方で首だけ出して覗いている二人を眺めた。
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