第51話
真奈に相談をして、少し軽くなった。
的確な助言を得られたわけではないが、告白は早くした方がよさそうだ。
ただでさえ目を見て話す、という簡単なことすらできていないのに、その上告白なんて難題であった。
「羽菜ちゃん、ミルクティーとお茶どっちがいい?」
「あ、お茶をお願いします」
「かしこまりました」
休日、悠太の部屋へ遊びに来た。
遊びに来たからといって特に何かをするわけではない。お喋りしたり、本を読んだり、ゲームをしたり。だらだらと怠惰に過ごしている。勉強も大事だが、こういう時間も大事だと悠太が言うので、こういった休日をよく過ごすようになった。
高級そうなグラスにお茶を注いでくれる。
以前気になって聞いたが、インテリアや小物などすべて悠太の母親の趣味だ。センスのよさに羽菜はあの母にしてこの息子あり、と密かに思っている。
「あ、のさ、悠太くんってそういえば、好みのタイプとかあるの?」
なんの脈絡もなく唐突に聞いてしまったことを後悔した。
それでも、他に聞き方が分からなかった。どのタイミングで言えばよいか、そこも考えるべきだったのに。言ってしまったものは仕方ないので、悠太の返答を大人しく待つ。
「タイプ?うーん、派手な子かなぁ」
「嘘!?」
「嘘」
「えっ?」
「あはは、気になる?」
「ま、まあ、少し。悠太くん、モテるのに彼女つくらないから」
以前にも好みを聞いたことはあるが、それは小学生の頃の話。今はどうなのか、何も察されないように澄ましてみる。
「好きなタイプって特にあるわけじゃないな。好みじゃないのは赤点をとる子」
馬鹿と醜女は嫌いだ。そうはっきり言えないため、柔らかく表現した。外見については当然心の内に仕舞っておく。
「悠太くんは頭良いもんねぇ」
ずずずとお茶を啜りながら、羽菜は少し冷や汗をかいた。
赤点をとるような女の子は嫌い。羽菜は赤点を今までとったことはないが、高校生になったらとるようになるかもしれない。偏差値の高い高校では自分の立ち位置が分からないため、もしかしたらとネガティブな想像をしてしまう。
何故そんな子が嫌いなのか。優しい言い方をしたが、結局は馬鹿が嫌いなのだ。悠太は頭が良い。良すぎる故に馬鹿の対象範囲も広いだろう。確かに、同意できないこともない。知識量の差があまりにも大きすぎると会話が成り立たないのだ。会話にしようと思うと、どうしても知識の少ない方に合わせなければならない。それは苦痛であることを羽菜は知っている。
こんなことを思うなんて性格が悪い。頭がよくないからと言って、馬鹿にしてはいけない。相手は羽菜が知らない何かを知っているかもしれないし、得意な分野があるかもしれない。
そう言い聞かせているが、いざその場面になるとやはり苦痛の一言だった。
「羽菜ちゃんはどんな人がタイプなの?」
今度は逆に、悠太が質問した。
「タイプ、タイプかぁ」
そんなこと、あまり考えたことがない。
優しい人、怒鳴らない人、頭が良い人、面白い人、運動ができる人、恰好良い人、素直な人、努力家な人。挙げてみるときりがない。
しかし、どれかを選ぶなら。
「私も、赤点とる人は嫌だなぁ」
この答えに行き着く。
付き合って、一緒に時を過ごすならせめて会話が成り立つ人がいい。
賢くなくても良い人はたくさんいる。そんなことは知っている。けれど、最低限のラインは悠太と同じところだった。
「はは、やっぱりそうだよねぇ」
「そうだねぇ」
ずずずとお茶を飲みながら見つめ合う。
羽菜の回答は少し意外なものであった。優しい人、という無難な回答かと思いきや馬鹿が嫌いとオブラートに包んでみせた。
これはなかなか、良い傾向なのでは。
思考回路を全く同じにしようとは思っていない。羽菜は羽菜であればそれでいい。だけど少しくらいは自分と似た思考を持ってほしい。そんな願望があった。
「羽菜ちゃん、ちょっと変わったね」
「そ、それは良い意味かな?」
「もちろん」
変わったと言われ、ぎくりとしたが良い意味と付け加えられ安堵した。
悪い意味で変わったと言われたなら、全力で数年前の記憶を手繰り寄せて退行しただろう。
「羽菜ちゃん、高校も一緒に通えたらいいねぇ」
「私が不合格にならなければね…」
「あはは」
僕が同じ高校を受けるのは前提なんだ。
そう思ったが口にせず、きょとん顔をしている羽菜のコップにお茶を注いだ。
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