第49話

 「悠太くん!城山さんって大河くんに告白したの?」


 翌日、羽菜から興奮気味に聞かれた悠太は驚きながらも肯定した。

 休憩時間、教室に戻る前に同じく教室に戻る途中の羽菜と廊下で会い、人気のない非常階段でコソコソと話す。


「城山さんって他クラスの子だよね?可愛いって有名な」

「羽菜ちゃんの方が可愛いよ」

「えっ、あ、そういうのはいいの!」

「嘘じゃないよ」

「とにかく!私は城山さん悠太くんを好きなんだと思ってたよ」


 真剣な顔をして何を言い出すのかと思えば、鋭いことを言われる。やはり鈍感というわけではないのか。

 悠太と城山の接点はあまりない。クラスが違うと関わりも自然と少ないため、羽菜はどの場面を見てそう言ったのか。悠太は興味があった。


「大河くんと城山さんが話してるところは見たことないんだけどね、悠太くんと話してるところは何回か見かけたことがあるの。そのときの城山さんの顔が、なんだか恋してる女の子みたいな感じだったから」

「じゃあ城山さんは大河のことが好きじゃないのに告白したのかな?」

「そ、そうなんだよね。そうなっちゃうんだよ。でもね、悠太くんに恋してる顔をしてたのはつい最近なんだよ。だからすぐ大河くんのことを好きになることもないような気がして…。でも女の子だもんね、そういうこともあるよね」


 自分に言い聞かせているようにぶつぶつ呟く羽菜。

 その純粋さが良いと思うが、頭のネジ数本飛んでてもいいのになとも思う。


「羽菜ちゃんは純粋だねぇ」

「えっ、急に何の話?」

「城山さんはね、大河のこと好きなわけじゃないと思うよ」


 言おうか迷ったが、言っても自分の好感度が下がることはないだろうという自信があった。しかし念のため、眉を下げておく。


「僕もね、城山さんは僕のこと好きなんだと思ったよ。勘違いかもしれないけどね。僕に脈がなさそうだから、取り敢えず大河に告白してみたって感じかな」

「そ、そう、なの?」

「本当のことは分からないけどね。でも今までそういう子たくさんいたから、驚くことでもないんだよ。僕が駄目なら大河、っていう流れは大河も経験してるし、今回も察してるよ」


 私、何も知らないんだ。


 眉を下げて笑う悠太の言葉に、胸が痛くなった。

 恋愛は綺麗なものばかりではない。友達と同じ人を好きになって友情にヒビが入ったり、そういうものもあると知っていた。けれど、そんな発想はなかった。悠太が駄目なら大河を、なんてそんな不誠実なことをする人が身近にいるなんて。

 悠太がそんな意味のない嘘を吐くとは思えないし、悠太の観察力が間違っているとも思わない。きっと今語ったことが真実なんだろう。それくらい悠太のことは信用している。


「でも、それで大河くんと付き合えることになったとして、嬉しいの?」


 好きなのは悠太だけど悠太とは付き合えなさそう。だから大河にしよう。

 でもその後はどうだろう。


「そもそも僕を好きなわけでもないんだよ、そういう子は。誰でもいいんだ、格好よく見える人なら。付き合えたらラッキーにしか思ってないよ」


 そう言う悠太の表情から感情を読み取ることはできなかった。


 付き合えたらラッキー、誰でもいい、そんなことを思う女に悠太は勿体ない。不釣り合いだ。悠太がそんな女を好きになるとは思えないが、そんな女に渡すくらいなら自分が...と考えて固まった。

 自分が、などとなんと烏滸がましい。自分なら悠太に釣り合うとでも思ったのか。自意識過剰だ。

 勉強だって悠太と並べるわけでもない、性格だって人望だって、何一つ悠太と並び立てないのに何を偉そうなことを思ったのだ。

 恥ずかしい、消えたい。


「羽菜ちゃん?」

「うー」

「どうしたの?」

「なんでもない、なんでもない」


 思わず両手で顔を覆う。変なやつだと思われているかもしれないが、この羞恥心を早く鎮めたい。


「そろそろ時間だから、教室に戻ろうか」


 向かい側の校舎に設置されている時計を見ると、あと数分で授業開始のチャイムが鳴る。

 悠太と羽菜は並んで歩きながら、先程の話をする。


「だから羽菜ちゃんも、あまり協力的にならなくていいよ。たくさんあるでしょ、伝言頼まれたりとか探られたりとか」

「何故それを…」

「羽菜ちゃん分かりやすいよ、自覚ない?」


 嘘は得意ではないので自覚が全くないわけでもない。

 しかしこうもはっきり言われると、少し落ち込む。

 

 すべてに協力していたわけではない。友達を探るようなことはしたくないし、悠太の知らないところで情報を渡すのも気が引ける。以前悠太に相談した際は羽菜の好きにしたらよいというような事を言っていた。そう言われても、できないものはできない。結局曖昧な事を言って追い払っているのが現状だ。

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