第48話

 教室へ戻ると、人影が見えたので入る前に立ち止まった。

 室内には大河と真奈がおり、二人で勉強しているようだった。

 この中に入ると真奈から睨まれるし、何より普通に気まずい。あの二人は知らぬ間に仲良くなっている。

 悠太が入って行ったところで、どこへ座ればいいかも疑問だ。

 三人で宿題をしたいわけではない。一人で終わらせてさっさと帰ろう、そう思っていただけで、仲良く勉強会をする予定ではなかった。

 かといって二人から遠い席に座るのも、なんだか避けているような形になり良くない。


 図書室でも行こうと思い、その場を去ろうとしたが中から面白そうな会話が聞こえてきたため足を止めた。


「好みのタイプ?」


 どうやら真奈が大河に好みを聞いたようで、大河は眉間にしわを寄せる。


「そう、今日友達とそういう話になってさ。大河はあるの?」


 女友達もタイプを語るような関係の男友達もいないくせに何を言っているんだ、と悠太は笑いを堪えた。


「好きになった奴がタイプってことだろ」

「それはそうだけどさ」

「じゃあお前はそのタイプに当てはまる男なら誰でもいいのか?」

「よ、よくないし!」


 まだそんな会話しかできないのか。いや、これでも成長したのか。

 呆れる悠太の存在に気付かず、真奈はまだ頑張る。


「大河、城山さんに告白されて振ったって噂が出回ってるよ。城山さん、学年でも人気あるみたいだから」

「あっそ」

「あっそ、って...」

「俺関係ねえし。噂したいならすればいいだろ」

「城山さん、先輩にも人気あるから…」

「だから何だよ」

「だ、だから…先輩に絡まれないようにね」


 嫌そうに顔を歪める大河に、真奈は後悔した。話題を間違えた。


 二人から見えないよう、廊下で聞き耳を立てている悠太はため息を吐きたかった。

 聞き方を考えてから口に出したらいいものを、そういったことが苦手な真奈は地雷を踏みまくる。

 もしかして二人が仲良くなったというのは違うのか。ただ二人でいるところをよく見かけるから、仲良く見えていただけか。


 大河は明け透けに恋愛を語るような男ではないし、振った振られたの噂もどう考えたって嫌いだろう。しかも興味津々な顔をして聞かれるのは尚更だ。

 女からそういう話をされるのと、男からそういう話をされるのでは、やはり反応は変わってくる。真奈は相変わらずだった。


 気まずくなったのか、真奈は話すのをやめた。大河も話すことはないので静かな部屋の中でペンの音だけが響く。

 真奈を不憫に思った悠太は助け船を出してやろうと、教室へ入った。


「あれ、二人ともまだ居たんだ」


 たった今来たかのように振る舞い、笑顔を貼り付けて傍まで行く。


「ゆ、悠太」

「珍しいね、二人が教室に残ってるの」


 鞄を二人の前の席に置き、談笑の態勢に入る。

 真奈と大河はペンを止めた。


「大河、城山さんに告白されたんだって?」

「知ってんのか」

「だって有名だよ。でもそっか、城山さんって大河のことが好きだったんだ」

「どうでもいいだろ」


 心底どうでもいい、と顔に書いてある。


「てっきり城山さんは僕のことが好きなのかと思ってたよ。勘違いしてて恥ずかしいな」

「えっ、そうなの?っていうか、自意識過剰ね」

「さすがに鈍感じゃないからさ。もしかしてそうなのかなぁ、って思ってたから、凄い恥ずかしいです」


 照れたように言う悠太に対し、真奈は内心ドン引きしていた。トップレベルの俳優にでもなれる演技力と容姿。


 実際、悠太は本気でそう思っていた。その他大勢の女子と違わない反応を見せていたから。あれが演技というならば自分もまだまだ見る目がないということだ。


「悠太がそう思うなら、そうなんじゃねえの?」

「あはは、雑だね」

「俺は興味ないし。そのなんとかっていう女子が誰を好きだとか、どうでもいい」


 本当に恋愛事に興味がないんだな。

 悠太と真奈は感心した。そんなに興味がないというのも珍しい。


「まあ、今までも悠太に玉砕したから大河に乗り換え、みたいな女子いたから。悠太がそう思ったなら、本当にそうかもね」

「え、ごめん、僕のせいで城山さんの評価下がった?」


 ごめん、だなんて微塵も思っていないが取り繕うのが悠太だ。


「もともと評価なんてしてねえから。どうでもいいやつに点数なんて態々付けねえだろ」


 悠太も大概酷いやつだが、大河も酷いと真奈は思った。

 悠太も大河も好きな女は大切にする、しかしそれ以外に対しての扱いが酷い。

 それ以外の枠に、自分も入っているのだろうか。もし自分が大河に告白したとして「お前が誰を好きだとかどうでもいい」なんて言われた日には壊れてしまうかもしれない。


 未だ談笑する二人を眺め、告白するタイミングだけは間違えないようにしようと拳を握った。

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