第47話

 中学生になり、二度目の春が来た。二年生になった四人は変わらず同じクラスだった。

 早速春一番の学年テストの順位が発表された。一位は当然の如く悠太、羽菜は二年目にして二位となり、大河は五位、真奈は十二位。

 着々と順位を上げていく真奈と大河に悠太と羽菜は感心していた。


「凄いよねぇ、大河くんと真奈ちゃん」


 いつものように二人で教室に残り、宿題をこなしている。

 貼りだされた順位を思い出し、羽菜は嬉しそうに笑う。


「大河くん、五位だよ五位。凄いね!」

「そうだね、行きたい高校でもあるのかな」

「高校かぁ、私もそろそろ考えないとなぁ」


 揺るぎない順位の悠太は高みの見物をするのみ。大河がどこまで登ってくるのか、真奈がどれだけ大河に追いつくのか。


「羽菜ちゃんは興味ある高校があるの?」

「うーん、実は二つあってね。まだ決めてないんだけど、その二つが今のところ行きたいなって思ってるところなんだ」

「へえ、聞いてもいい?」

「えっとね、東高校と西高校がいいかなって」


 東だとこの辺りでは一番の難関校だ。県内でもずば抜けて偏差値が高い。西だと東よりも劣るがこちらも偏差値は高い。


「羽菜ちゃんならどちらでも行けそうだね」

「そ、そうかな。東高校はちょっと、微妙な気がして」


 東は入れるか微妙だが、西は入れる。そう取れる発言に悠太は笑った。

 当然、羽菜ならば西に入ることは可能だろうが、東に劣るものの県で二番目の高校だ。

 羽菜の自己評価は正しい。普段の性格からして「西に入れるかも微妙だよ」とでも言いそうだが、悠太と一緒にいる時間が長いからか、過小評価をすることが少なくなった。

 良い傾向だと悠太はほくそ笑んだ。


「悠太くんは決めてるの?」

「僕も東と西が今のところ候補かな」

「そうなんだ。東で決まりかと思ってたよ」

「東も良いけどね。まだ時間はあるし、ゆっくり考えようかと思って。実は特に決めてないんだよ」

「へえ、悠太くんならどこの高校でも行けそうだよね」

「あはは、羽菜ちゃんもね」


 頬杖をついて笑う悠太にドキリとしながらシャーペンを動かす。


 最近、なんだか悠太くんが凄くかっこよく見えるような気がする。いつもかっこいいんだけど、最近は特に。


 ちらっと気づかれないように悠太を見るが、丁度悠太も羽菜を見つめていたため視線が絡まる。

 悠太は柔らかく笑い、「どうかした?」と隣で動きを止めた羽菜の顔を覗き込む。


「う、うわあ!」


 思わず声を上げて悠太とは反対側に体を寄せる。

 握っていたシャーペンは反射で手から滑り落ちた。


「びっくりした、大丈夫?」


 心配する振りをし、羽菜の方へ手を伸ばす。


「だだだだ、だっ」


 大丈夫、その一言がなかなか出てこない。

 伸びてくる悠太の手から逃れ、急いで鞄に課題や筆記用具を仕舞う。


「あ、あ、私、用があるんだった!」

「えっ」

「ごめんね!また明日!!」


 急いで教室を出て行った羽菜は、先程落としたシャーペンにすら気づかなかったようで悠太が拾い上げる。

 とても良い方向へ物事が進んでいる。そのことに嬉しく思うが、上手くいかないのが人生というもの。このまま何事もなく羽菜と結ばれたならどれだけいいことか。

 恋敵の顔を浮かべ、羽菜がいなくなった教室を後にした。

 靴を履き替えようと下駄箱まで行くと、女子の集団がそこにいた。

 早く帰ればいいものを、数人で固まって談笑している。


「真奈ちゃんってさ、性格悪いよね」

「分かる!何様って感じ」

「大河くんに媚びてるのウケるんだけど」

「男子と女子で性格変わりすぎだろ」

「やばいよねー、あの性格」


 どこにでも悪口はあるもので、特に真奈はその標的にされやすかった。

 女子の友達がいないようだし、強気な性格と相まって女子には好まれないようだ。

 真奈はどちらかというと男子と仲が良くなるタイプだ。それが他の女子からして、面白くないのだろう。


「悠太くんにも媚びててさー、ウザいんだけど」

「ねー、悠太くんには羽菜ちゃんがいるのに」

「ってかあの二人が友達って嘘なんじゃない?どう考えても真奈と羽菜ちゃんじゃ性格合わないって」

「それな!」


 これもよく聞く。「羽菜ちゃんならいい」の言葉。

 真奈と羽菜は性格も正反対だが、評価も正反対だ。

 羽菜は世渡りが上手い。人当たりが良いし、見た目はふわふわしているが学年二位の成績だ。欠点という欠点は特になく、攻撃するポイントも見当たらない。あるとすれば悠太と仲が良いということだけ。しかしこれも真奈とは違い「お似合い」の言葉で片づけられてしまう。

 真奈を不憫だと思うが、自分が招いていることであるため自業自得とも思う。

 もう少し上手くやる方法はあると思うが、本人にはあれが精一杯なのだろう。


 このまま靴を履き替えに行くと「もしかして聞いてたの?」から始まり、引き留められるのだろう。簡単に帰してもらえるとは思えない。

 仕方ないので教室で宿題の続きでもやっておこう、と引き返した。

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