第46話
四人で出掛けようという話を聞いた時、そういえば四人揃って何かをしたことがなかったと、大河は思った。各々に仲の良い友達はいるものの、いつもいるメンバーを聞かれたとき浮かぶのは三人の顔だった。四人で話す場面は多くない。深い話をしたこともない。けれどもなぜか、いつものメンバーとして思い出すのは三人だった。
四人で出掛けたことなどなかったため、どういう意図で誰が提案したのか分からないが、嫌だとは思わなかった。実際、女子二人の買い物に振り回されて疲れたものの、ネガティブなことは思わなかった。
「楽しかったねー!」
にこにこ笑う羽菜の顔を横目に腕時計を見ると、十七時をまわっていた。解散するのにいい時間だ。
他の三人も帰る気でいるようで、足は自然と帰路に向かっていた。
大河は直帰するつもりはなかったため、「俺寄るとこあるから」と言って三人と別れた。
途中まで同じ道を行ってもよかったのだが、なんとなく、一人になりたかった。
羽菜と悠太の仲が良いのは知っているし、そこへ割り込もうという気はない。
さりげなく羽菜をフォローする悠太を見ていると、凄いと思う。細やかな気配りを目の当たりにし、自分にはできないと思った。
自分が羽菜に対して抱いている感情を、悠太も持っているのは知っている。己の感情に気付いた頃には、羽菜の隣に悠太がいた。横取りしてやろうとは思わないし、八つ当たりをする程もう未熟ではない。この感情が消えていくのをゆっくり待つつもりではある。自分が告白をしたところで、玉砕する未来は見えているから。
それでも、羽菜の視界には入っていたい。女々しいことは承知だが、それくらいは自由だろう。
視界に入るためにはまず勉強をしなければならない。直帰せず寄ったところは家から少し離れた場所にある本屋。近所にある小さな本屋だと参考書の種類が少ない。参考書は実際に見ないとどれが自分に合っているか分からないため、ネットで買うより規模の大きい本屋で買うことにしている。
今の授業についていけていない、というわけではない。校内順位も徐々に上がっている。桜中学で上位にいれば高校も難なく好きなところへ行けるだろう。もうすぐ二年生になり、進路も視野に入れていかなければならない。スタートは早い方がいいし、自分の頭が良いとは思っていないため、今から高校受験に向けて準備をしようと、本屋で参考書を漁る。
「あれ、大河?」
なるべく安くて分かりやすい参考書にしようと、時間をかけて選んでいると横から声をかけられた。
「なんだ、寄り道ってここだったの」
少し前に別れたはずの真奈がそこにいた。
「買い物か?」
「まあ、もう少し勉強頑張らないといけないし」
真奈はふと大河が手にしている分厚いそれを見て驚いた。
「もう高校受験のこと考えてるの?」
「まあ、早い方がいいだろ」
「それはそうだけど…」
「公立は一校しか受験できないだろ、落ちたくねえし」
あぁ、また羽菜か。
なんとなく察した真奈は大河の隣に立ち、同じように参考書を開いていく。
高校どこに行くの?なんで今から受験のこと考えてるの?また羽菜と同じとこへ行くの?次から次へ聞きたいことはたくさん出てくるが、どれも言葉にできず呑み込んでいく。
きっとまた、自分は羽菜を追う大河を追って高校へ行くのだろう。他の女を追う大河の後ろをずっと離れずついていくのだろう。虚しい。悔しい。
それでも、諦められないうちは、大河がどれだけ羽菜を追いかけてもそれについていく。勉強だって好きではないが、大河が前へ前へ進むので仕方なく勉強せざるをえない。
羽菜の視界に入るため必死に勉強する大河にすらついていけなくなったら、自分が大河に持っている愛よりも、大河が羽菜に対して持っている愛の方が大きいと認めることになってしまう。
「買うものは決まったのか?」
買うものが二冊決まったので黙って帰るのも気が引け、真奈に話しかける。
「あ、うん。大河はもう買うの?」
「あぁ、これ買って帰るわ」
「じゃああたしも一緒に行く」
「あっそ」
素っ気ないのが通常運転。嫌われてはいない。不愛想なところも好きだけど、彼女になったら優しくしてくれるのかな。「一緒に帰るか?」って、大河の方から言ってくれるのかな。
そんな妄想を時々してしまう。歩幅を合わせてくれて、一緒に帰るのも許してくれて、これが他の女だったらどうだろう。一緒に帰っただろうか。それとも「はぁ?なんで?」と言って突き放すのだろうか。少しは自分も、大河の特別枠に入れてほしいと願う。
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