第43話

 中学生になり半年以上が経過し、もうすぐ二年目に突入する。

 真奈と大河、羽菜と悠太が一緒にいる場面はもう珍しくなかった。最初こそ「真奈と大河が付き合っているのでは」や「羽菜と悠太がお似合いだ」と囁かれていたが半年以上も経過するとその姿が定着した。

 また、四人揃う場面はないに等しかった。真奈と羽菜が二人で会話するのはお昼休憩のみになり、会話の内容も授業のことや進路のこと、主に学校についてだった。未だ羽菜は真奈と大河がどうなっているのか知らないままだ。


 羽菜と悠太が隣の席になり、真奈と大河が隣の席になり、休憩時間や放課後はそれぞれ二人で過ごしていた。

 真奈との友情が薄れてきている、と思わないこともなかったが真奈を応援しているため寂しくはあるが引き留めるようなことはしなかった。


「寂しいなぁ」


 ぽつり口から出てしまったその言葉を悠太が聞き逃すはずもなく、「何が?」と首を傾げた。


「真奈ちゃんと全然遊べてないなぁ、と思って」


 鞄から出したポッキーを一つ咥え、抱えているクッションを眺める。

 悠太と羽菜は互いの家に遊びに行く程、仲良くなった。

 今日は悠太の部屋へ遊びに来ていた。


「あぁ、黒木か」

「うん、来年はクラス替えがあるし、また同じクラスになれるとは限らないから」

「そうだね。でもうちは二年目と三年目は成績でクラスを分けるみたいだから、そこまで心配しなくてもいいんじゃないかな」

「それ本当?」

「先生も言ってたから、本当だと思うよ」

「そっかぁ、なら安心だね」


 悠太は学年一位、羽菜は三位、大河は十位、真奈は十五位と、それぞれ上位に食い込んでいる。

 真奈と大河は猛勉強をし、着々と順位を上げた。


「凄いよね、あの二人。たくさん勉強したんだろうね」

「真奈ちゃん凄いんだよ。この前の小テスト満点だったもん」


 悠太は羽菜をじっと見つめ、視線に気づいた羽菜はお菓子を口に入れず止まった。


「羽菜ちゃんも、ちょっと性格変わったよね」

「そ、そうかな?どんな風に?」

「うーん、僕の色に染まりつつある」

「え、本当!?悠太くんに似てるなら嬉しいな!」


 顔よし性格よし、勉強もできて運動もできる。欠点なんて見当たらない悠太の色に染まりつつあると言われ、思わず口角が上がってしまう。


 そんな羽菜を見て満たされる悠太。

 先程の発言。真奈が小テストで満点をとって凄いと言っていたが、羽菜は毎回満点だ。更に言えば先日小テストで赤点を取る生徒がいると聞き、不思議そうにしていた。小テスト如きで満点を取れない人がいることに対し、心底理解不能そうだった。小テストなんて日々復習さえしていれば取れるものだ。それなのに態々赤点になってしまうというのは、どういうことだろうか。羽菜はそう思っていた。羽菜にとっては小テストで満点意外有り得ない、なのに満点をとった真奈に対しては「凄い」と言う。つまり、真奈を同等には見ていないということだ。

 少し前から悠太は思っていたことだが、羽菜にはそういう部分もあった。基本的に良い子で誰にでも優しく友達想いなのだが、無自覚で人を下に見ていることがある。本人は無自覚な上、下に見られている人も「羽菜ちゃんは優しくて良い子」という認識があるため全く気にしていない。


「羽菜ちゃんが気になるなら、今度四人でどこか遊びに行く?」

「えっ」

「まあ、黒木と大河が良ければだけどね」

「行きたい!」


 瞳を輝かせて「はい!」と片手をピシリと挙げている羽菜を見て、「じゃあ明日聞いてみるね」と羽菜の頭を撫でる。


「ゆ、悠太くん、前から言ってるけど、そういうのは恋人としかしないって友達が言ってたよ!」

「あれ、でもこの前羽菜ちゃんの家で読んだ少女漫画では、恋人でもない康太くんがヒロインの聖子ちゃんにしてたんだけどな」

「ま、漫画はフィクションなんだよ」

「友達の話もフィクションかもよ」


 悠太にはすべてにおいて勝てないと確信しているため、結局は悠太が満足するまで頭を差し出すことになる。


「もう、何度も言うけどこういうことは女の子にしない方がいいんだよ」

「どうして?」

「だ、だから、女の子は悠太くんのこと好きになっちゃうから」

「好きになっちゃだめなの?」

「だめ、じゃ、ないけど」

「羽菜ちゃんが僕のこと好きになりそうだからってこと?」

「そ、そうじゃなくて、その、他の女の子にこういうことしたら、その子がもしかしたら、その…」

「他の女の子が僕のこと好きになっちゃだめなの?」

「ち、ちが、そうじゃなくて、そ、そうじゃなくて…」


 徐々に声が小さくなり、言い訳ができなくなるまで追い込まれるとぎゅっと制服のスカートを両手で握りしめ、口をぱくぱくさせてなんとか次の言葉を出そうと頭の中を回転させる。

 悠太はその姿を眺め、少しずつ変わっている関係に期待し、思わず片手で口元を覆った。

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