第44話
羽菜が四人で遊びたいと言った翌日、悠太は真奈に話を持って行った。真奈は四人で遊ぶことに抵抗があったが、大河に尋ねたところ「どっちでもいい」と言われたため断る理由がなく、悠太の話に頷いた。それからは悠太が予定を立て、隣街にできた大型ショッピングセンターへ行くことになった。大河は午前中に用事があるため現地集合になった。
羽菜は四人で遊んだことはなかったと記憶している。そのため、今日四人で遊べるというのはとても楽しみだった。
場所はどこでもよかったが、ショッピングというと誰が何を好んで買うのか、趣味嗜好が分かるため色々な発見がありそうだと、前夜は想像を膨らませながら服選びに時間をかけた。
当日になり、現地集合はあるが悠太と羽菜は二人で待ち合わせの場所へ行った。
午後一時半の待ち合わせで、二人が到着したのは一時十五分だった。
「ちょっと早かったね」
「遅いより早い方がいいよ」
行き交う人を眺め、真奈と大河はまだかと羽菜は辺りをきょろきょろ見回す。
二人が到着して数分後、真奈の姿を羽菜が捉えた。
「あ、真奈ちゃんだ」
羽菜の視線の先には、白いワイドパンツに白ブラウスを仕舞い、茶色い小さな鞄を肩にかけている真奈がいた。
私服の真奈を見たのは久々だったため悠太は少し感心した。
羽菜が着ているのは薄紫のワンピース。程よいフリルが女の子らしさを強調している。真奈はパンツスタイルだが、ブラウスの大きな襟にレースがついている。
羽菜には似合わないであろうスタイルで、しかしながら清楚さをアピールできている。頑張っているな、と悠太は感心した。
「真奈ちゃん、私服可愛いね。そのブラウスどこで買ったの?」
真奈が着用しているブラウスが好みであったため、尋ねた。
「これはDUで買ったの」
「最近DU可愛い服いっぱいあるよね!今日一緒に見ようよ!」
「うん、いいよ」
女子同士の会話が弾む中、悠太はこちらへ歩いてくる大河の姿を発見した。
「あ、大河」
そう言うと、真奈は勢いよく振り返り眠そうな大河を足元から頭まで凝視する。
緩い黒シャツに白パンツという無地で統一している悠太とは異なり、柄シャツに黒パンツという恰好で登場した大河を見て、羽菜と真奈は「性格は服に出るものなんだ」とひっそり思った。
「じゃあ行こうか」
「悠太くん、私お洋服見たいな」
「その後カフェにでも行きましょ」
「俺はなんでもいい」
「一階から見て回ろうね」
久しぶりに四人揃ったが、気まずさはなかった。そのことに羽菜は安堵し、人混みをかき分けて入口を潜り抜ける。
休日ということもあり人は多く、またカップルが大半であった。
真奈と羽菜は着ている服こそ系統は違うが、清楚な衣服を選ぶところは似通っていた。
「真奈ちゃん、あの店可愛い!」
「本当ね。悠太、あの店入るわよ」
「いいよ、じゃあ僕と大河は…」
「何言ってんの、折角四人で遊んでるんだから四人で入ればいいじゃない」
「俺もかよ」
「嫌なの?」
真奈が口をへの字にして聞くと、大河は「しゃあねえな」と呟いた。
羽菜はその光景に空いた口が塞がらず、悠太を盗み見る。
悠太はさほど驚いた様子がなく、大河の豹変ぶりに驚いているのは自分のみと気づいて口を閉じた。
あからさまに反応すると真奈の想いを暴露してしまうことになり、慌てて何もなかったかのように店の中へ入った。
全体的に服は白く、店内に男の姿はあまりない。
真奈と羽菜はきゃっきゃと好みの服を探し出す。
中学生には値段が高く、一着買うことすら悩んでしまうが、そもそも羽菜は買うことが目的ではなく真奈と楽しみたかったのと、今後買う服の参考にしようと思っているだけである。真奈も同様に、今後の参考になればと思っているだけだった。
「人形が着てそうだな」
「黒木と羽菜ちゃんが着てそうだよね」
「店内に中学生、俺ら以外いねえけどな」
「それにしても意外だな、大河がこういう店に入るの」
盛り上がっている女子二人の会話についていけず、ただ二人の後を追うだけの大河と悠太。
大河と話す機会がなくなった悠太は、ここぞとばかりに聞く。
「そうか?」
「誰がこんな店に入るか、って拒否するもんだと思ったよ」
「あぁ、思ってるけどよ。女子の買い物長いし、面倒だしな」
「ふうん。気に障ったら悪いんだけど、もしかして黒木と付き合ってるの?」
「はぁ?んなわけねえだろ」
付き合ってないだろう、とは思っていた。ただ、羽菜しか見ていなかった男が急に真奈にも目を向けるようになった。真奈が上手いことやったのだと思うが、それにしても変わり身が早い。
「まあ、嫌いじゃないけどよ」
嫌いじゃないなら早く好きになれよ、と心の中で毒を吐く。
「二人とも何してんの」
「次のお店行こう」
さっさと店を後にする女子二人に呆れながらも後ろをついていく。
悠太はちらっと大河の横顔を盗み見るが、視線の先は真奈か羽菜か、区別がつかなかった。
今更大河と羽菜がどうこうなるとは思えないが、思い通りにいかないのが恋というもの。いつまた大河が羽菜に近寄ってくるのか分からない。
警戒を怠って良いことはない。
悠太は目の前を歩く女子二人の後ろ姿を見て、どう見ても羽菜の方が華奢で可愛く、羽菜より真奈を好きになる要素がない。大河の心境がどうなっているのか、知りたい気もするがどうでもいいとも思う。
結局、羽菜に自分を選ばせたらいいだけだと思い、女子二人が入った店に大河と共に足を踏み入れた。
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