第41話
悠太から助言を受け、まずは髪型を見直した。
鏡を見ると、確かに羽菜とそっくりな印象を抱いてしまう。まったく同じ髪型ではないが、何がそう思わせるのか。
強気な印象を持たれず、尚且つ羽菜の真似と言われないような髪型にしたい。
そう考えた真奈はまず前髪を切った。以前より数センチ切り、真ん中を梳く。
最近周囲で徐々に見る機会が増えてきているシースルーを意識した。
後ろは自分で切ることができないが、ヘアアイロンでストレートにした。
前髪を薄くすると、眉毛が露わになる。
眉毛を整えるときは眉尻を上へ上へと意識していた。そのため、勝気な印象があったと思う。
今回は大人しい、大和撫子系女子を目指さなくてはならない。
今までの眉毛に手を加え、できるだけ平行にした。かといって、全く上げない眉毛は気持ちが悪いのでほんの少し上げる。
数分後鏡を見ると、羽菜の真似ではなかった。髪型と眉毛を変えただけで大きく印象が変わったため、真奈は安堵した。
羽菜の真似ではないが、雰囲気は近い。以前よりは「儚げ」という言葉も似合う。
今の自分の姿に満足したため、唇にリップを塗り、ビューラーで睫毛を上げようとして止めた。睫毛をいじると儚さがなくなりそうだったため、リップだけで我慢した。
制服も、スカートは折らずにそのまま着用。入学して購入した学校指定のセーターとベストを並べる。
もうセーターを着る季節ではないが少し寒い。学校の女子はセーターを着用している。理由は単純に、可愛いから。袖を長くし、異性が守りたくなるような可愛い自分に近づけるから。
しかしそんなあざとさは不要。
色は黒と白の二種類。今までは黒を着用していたが、今日からは白にしよう。
白いベストを着用し、全身鏡で自分の姿を確認する。
今までこういったスタイルは自分の性格に合わず遠ざけていたが、意外に似合っている。
鏡に映る自分はまるで優等生だ。
家を出てから学校に着くまでの間、通りすがりの者たちからの視線を感じた。
普段から視線を感じるが、今日はまた違った視線を送られているのだろう。
今の姿は自分でも納得のいく清楚さがあり、思わず振り返って見てしまう程だ。
校門を抜け、下駄箱で靴を履き替えていると大河も靴を履き替えるところだった。
実際に大河を前にすると、本当に自分は大丈夫なのかと不安になる。
そもそもこの見た目を許容してくれるのか。
羽菜のことが好きだから、やはり羽菜に似せた方がよかったのではないか。
今の自分は、雰囲気は羽菜に似ている気もするが、系統は少し違う気がする。
羽菜のように病弱でひ弱な感じはしない。ただただ清楚、優等生、そういう言葉が似合う。昨日までの自分よりは弱そうに見えるが、どうだろうか。
それに、急に見た目をこんなに変えて、変に思わないだろうか。
もしかしたら陰で、頑張って羽菜に寄せていると悪口を叩かれていることを気にしての行動だと思われないだろうか。悪口を気にするような女だと、思われないだろうか。
考え始めるとなかなか声をかけることができない。
大河はまだ寝起きなのか真奈に気付くことはなく、上履きを履くとそのまま真奈の横を通り過ぎた。
この機会を逃したら、次はいつ二人になれるのか。
大河と一緒にいる時はいつも羽菜か悠太もいる。
二人になることなんて過去に一度もなかった。この機会を逃して次はいつ二人になれるの。
そう思うと行動は早かった。
大河の袖をくいっと引っ張ると、大河は振り返った。
「おはよ」
「…はよ」
真奈を見て一瞬目を大きくさせた。
もう少し、踏み込んでみようか。もう少しだけ。
「ど、どうかな。イメチェンしてみたんだけど」
髪の毛を触り、大河に問う。
良い返事を期待していたわけではない。ただ良いリアクションをとってくれないかと期待した。
いつも無の表情か煩わしそうに真奈を見ていただけで、先程のように目を見開く反応をとってくれたことはなかった。
ドキドキと胸を高鳴らせながら返事を待つ。
「いんじゃね?」
ぼそっと呟いた後、真奈に背を向けて廊下を歩いて行った。
過去一で嬉しい出来事だった。
余韻に浸り、先程の台詞を頭の中で何度もリピートする。
いんじゃね?ってことは可愛いと同じことなのでは、といき過ぎた解釈までしてしまうほどに嬉しさで胸がいっぱいだった。
あの大河が、あの大河が「いんじゃね?」って。絶対「普通」とか「別に」で終わると思っていた会話が何万歩か追い越しての「いんじゃね?」って。まあ多少、口角ぐらい上げてくれるかな、じっと見つめて言ってくれるかな、とか思ってたけどもう最高。
何この幸せ。何この喜び。
嬉しさのあまり涙が出そうになるが、なんとかひっこめる。
今日はもうこれ以上望まない。
今日は羽菜に優しくできそう。
にやけそうな顔を両手で抑え、大河の数歩後ろを歩き教室へ向かった。
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