第31話

 ついに学力テストの順位が公開された。


 教室では担任が生徒一人すつに順位の結果が書かれたプリントを配布している。

 四人は各々持つ感情をおさえ、結果を目にした。


 悠太は当然の如く全教科で一位をとり、また総合でも一位を獲得した。

 疑っていなかったため、ざっと目を通してすぐにファイルへ納めた。


 羽菜は残念ながら総合三位になり、ショックを受けたが、二位と比べると一つしか違わないのでよしとした。そして気になる二位の名前を記憶し、教科ごとの順位をチェックした。

 五十位以内の人の名前もプリントで分かるようになっており、廊下に貼りだすだけでなくプリントとしても配布されることに驚いた。


 真奈は順位を見てまず最初に安堵した。最下位ではないことに。しかし、油断は禁物だ。何せ最後から七番目なのだから。


 大河は順位を見て眉を寄せた。もう少し上だと思っていたからだ。結果は十二位。十位以内に入るだろうという予想が外れ、舌打ちをした後プリントを机の中に突っ込んだ。


 大河の順位を見て、羽菜と真奈は目玉が飛び出そうだった。


 な、なんで大河くんの順位が十二?確かに六年生のとき授業を受けてたけど、十二?何かの間違いじゃなくて、本当に十二なの?授業中ずっと寝てるかそっぽ向いてた大河くんが、桜中学で十二位?


 大河が十二ってどういうこと?なんで?わたしは最後から七番目なのに十二ってどういうこと?今でさえ大河に振り向いてもらえてないのに、勉強でこんなに先を行かれたら、わたし、置いてけぼりじゃん。どんどん離れて行ってしまう。なんとかしないと。


 羽菜は勉強のイメージがない大河が徐々に近づいていると、危機感を持った。勉強面では悠太にしか負けたことがないのに、全然知らない人間に抜かれ、後ろからは勉強に関心のなかった大河が追いかけて来る。もっと勉強しないといけない、と少し燃えた。


 しかし真奈は、やる気満々の羽菜とは逆に、泣きそうな気持ちだった。

 大河の視界に自分はいつ入るのだろう。この学力テストで一層視界に入れなくなった気がした。


 昼休みになると、教室の席という席はとられ、隅の四つの席を確保した三人は大河も呼び、前の席に悠太と大河、悠太の後ろに羽菜、大河の後ろに真奈という形で昼ごはんを食べる。


「お前ら固まるのかよ」

「あら、友達はいるわよ。でもほら、大河も分かるでしょ。女子が悠太狙いなの」

「あー」


 悠太と同じ小学校出身、更には仲の良い羽菜と真奈に近づこうとする女子は少なくなかった。既に入学式で真奈は察し、深く話せるような友達はできそうにないと確信していた。

 大河もそれを理解し、教室にいる女子をざっと見るが、ちらちらとこちらを伺っているのが分かった。ただ、その中には自分に向けられた視線があることにも気づいた。


「悠太と大河は中学でも人気かぁ。大河は急に頭良くなってるし」

「なんだよ」


 大河はパンをかじりながら、ジト目で睨む真奈を視界に入れた。

 中学生になった大河と見つめ合って普通に話すということがなんだか恥ずかしく、ふいっと顔を背けた真奈は、見つからないように深呼吸した。

 そして、今のは印象が悪かったと後悔した。

 以前、悠太に見た目や言動を指摘された。見た目に関しては改善し、羽菜とまったく同じではないが似せたつもりだ。言動は、強気な発言を大河の前では控えること、できるだけおしとやかにすること。これらに気をつけようとしている。

 しかし既に顔を背けてしまい、肩を落とした。


「大河、何時の間に勉強してたんだ?」

「なんでもいいだろ」

「そうだ、部活は入るのか?」

「誰が入るかよ、めんどくせえ」

「そう言うと思った。サッカー部にもしかしたら入るかなとも思ってたんだけど」

「ふん、歳が少ししか違わねえ奴に指図されたくねえ」


 真奈はそれを聞いて無所属に決めた。

 悠太の言った通り、真奈もサッカー部に入るのかもしれないと思っていた。しかし、大河の性格上、部活でサッカーをすることよりも先輩にへこへこすることが嫌だったようだ。

 真奈は先輩にへりくだる大河を想像して、似合わないなと思った。


「僕ら四人とも部活やらないの、なんだか仲良しみたいだね」

「気持ち悪いこと言うな」

「それと、僕ら四人すごく見られてるの、知ってた?」

「あ?ほぼ悠太にだろ」

「僕のもあるし大河と黒木、羽菜ちゃん皆にあるの。目立ってるね」


 悠太にそう言われ、各々教室にいる人たちをちらっと見る。

 大河は男を見てなるほどなと納得した。確かに、男の視線は悠太と自分ではなく真奈と羽菜に注がれていた。

 真奈は当然理解していた。自分と羽菜が抜き出て可愛いことは入学して周りの女子を見た時点で気づいたし、大河と悠太に関しては言わずもがな。

 羽菜に至っては、大河と悠太に注がれる視線にしか気づかない。自分への視線があっても、それは女子から向けられた、羨望の眼差しや嫉妬の類だと思っている。


 真奈と大河、悠太は穏やかに学校生活が送れそうにないと予想した。

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