第30話
学力テストが終わり、羽菜と真奈、悠太は学校からの帰り道にあった公園に寄り、ベンチに座った。
悠太は疲れ切った顔をしており、羽菜はとても心配だった。
学校にいる間ずっと女子に囲まれ、拒めない悠太は笑顔で対応していた。羽菜はそれを遠目で見て可哀想だなと思うだけで、何もできなかった。
「悠太凄かったね」
「本当だよ。悠太くん、大丈夫?」
「うん、大丈夫だよ」
笑ってみせたが、内心苛ついていた。
自分の顔が良いことは理解していたし、それによって起こるであろうことも想像していた。しかし、やはり疲れるものは疲れる。悠太は顔に出さないが、真奈や羽菜は疲れているだろうと察していた。
「学力テスト、どうだった?やっぱり小学校のころとは違って難しい問題が結構あったね」
羽菜は学力テストを思い出して唸った。
基礎問題も多く出題されたが、間違えることなく解けた。基礎は簡単だったがやはり応用問題が難しかった。何度も鉛筆を止めて考え、基礎問題を見直す時間がなかった。
「そうだね、どの教科も後半は難しいものが多かったと思うよ」
難しいものが多かったと悠太は言ったが、難しかったとは言わない。さすが、難なく解けたんだなぁと羽菜は感心した。
「わたしは全滅―!もう全然分かんない!!」
真奈は基礎問題も解けないものが多く、早くも桜中学に来たことを少しだけ後悔し始めていた。大河と同じクラスは有難いが、学力の面でついていけるのか不安しかなかった。
学力テストの結果は、五十位まで名前が貼りだされる。そして自分の順位は各々配布され、教科ごとの順位、総合順位を知ることになる。真奈は自分が最下位なのではないかと思い始めた。
「大丈夫だよ真奈ちゃん。授業はこれからだもん」
「でも、授業についていけなかったらどうしよう」
「私も教える!」
「羽菜ちゃん、部活はなにかやるつもりなの?」
悠太にそう聞かれ、羽菜は「入らない」と答えた。
羽菜は学校に残って部活をするよりは家に帰って勉強をしたり、友達と遊ぶ方が好きだと思った。
「二人は部活動するの?」
「わたしは考え中」
「僕は入らないよ」
真奈はまだ大河がどこの部活を選んだのか分からないため、返答できなかった。
悠太はたった今、羽菜が入らないと言ったので自分も入らない道を選んだ。
「そっかー。じゃあ悠太くんとはたくさん遊べるね!」
「そうだね。一緒に遊んだり勉強したりしたいな」
「うん!真奈ちゃん、部活決めたら教えてね」
「もちろん」
悠太とはこれからもたくさん遊べる。真奈が部活に所属することになったら、真奈と遊ぶのは難しくなる。真奈とも遊びたい羽菜は、無所属を願った。
「それにしても、悠太くんすごくモテてたね。女の子たちがすごく寄ってきてて、びっくりした」
「本当よね。わたしと羽菜ちゃんを無視して悠太に話しかけてたのはすごく嫌な感じだったわ」
棘のある言い方をする真奈に、直球だなぁと思う羽菜だったが、嫌な感じというのは否定できないものがあった。
まあでも仕方ないよね。悠太くん綺麗だし、悠太くんと喋ってみたい気持ちはわかるかも。でもなぁ、私たち三人でいたのにあからさまに悠太くん一人に寄ってるのを見ると、なんだか寂しいし、ちょっとだけ嫌だったなぁ。
何かどう嫌だったのか、羽菜自身よくわからなかった。
「大河、勉強大丈夫かな」
なんとなく悠太が漏らした言葉に、羽菜と真奈は大きく頷いた。
「大河くん、勉強得意じゃないのに」
「そうよ。わたしより大河の方が危ないわよ」
「でも大河くん、小学校の最後らへんは授業ちゃんと聞いてたよね」
「あー、なんかね。桜行くって決めたからじゃない?わたしも桜行こうと思ったときちょっと勉強したし」
羽菜は以前、大河に「がり勉」と言われたことを思い出した。
自分でがり勉だと思ったことはないが、皆より勉強している自覚はあった。ただ、がり勉というと、あまり良い響きではない。勉強しているだけなのに大河に馬鹿にされたことを思い出し、小学校六年生のときの大河も「がり勉」だったと本人に言いたい気持ちがあった。当然、言えるような勇気はない。
「学力テストの結果によっては、黒木は部活やってる場合じゃないってことだよね」
「….そうね」
「悠太くんはきっと一位だね。大河くんの順位は、知りようがないけど」
「確かに。大河全然見せてくれ無さそうだし。わたしより上かな、下かな」
「僕と羽菜ちゃんは五十位以内に入ってるといいな」
「わ、私頑張ったから、多分入ってると思う!」
小学生のときは悠太といつもセットにされ、クラスで一番と二番扱いをされていた。しかし、今回もそうとは限らない。羽菜より頭の良い子がいれば、その子と悠太がセットになる。羽菜はその座を死守したかった。
欲をいえば、二位に入りたい。
悠太が一位で自分が二位。それが理想だった。
真奈は最下位を回避したいと願い。
羽菜は二位になりたいと願い。
悠太は願わずとも自分は一位であるという自信しかなかった
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