第28話
いつもの公園、いつものブランコ。
そこに座って作戦会議。
もう三年続けているこの関係の名前を、協力者以外に言葉はなかった。
「で、もうすぐ卒業だけど悠太」
「そうだね」
「そうだね、じゃないよ!!結局大河の進路先が分からなかったじゃない!」
いつもの公園、いつもするのは作戦会議。
しかし今日は真奈の愚痴。
誰もいない公園で叫ぶ真奈の声がうるさく、両耳をふさぐ。
怒り狂う真奈を見て予想通りだなと悠太は冷静に眺めた。
「悠太が言ったんでしょ、大河の紙を見ればいいって!!見る機会がなかったじゃないの!!」
憤慨する真奈を横目に悠太はこうなることを予想していた。
真奈が怒ることではなく、進路希望用紙を見ることができないことだ。
普通に考えて、そんな個人情報を学校側が公開するわけない。もちろん進路希望のプリントを教師が「どうぞ見てください」という場所に置くこともない。
こればかりは、本人の口からでないと分からない。
大河が簡単に人に言うとは思わないし、真奈が大河の進路を知ることがないことくらい、悠太は分かっていた。
「どうしてくれんのよ!」
「なんで僕に八つ当たりするの」
「だって!!大河に聞いても結局、お前に関係ないだろって言われて終わったのよ!」
「そうなるだろうね」
「本当になんなの!?」
「って、言いながら結局桜中学にしたの?」
「うっ、な、何よ」
痛いところを突かれたように顔を顰めた。
真奈は悠太に、「大河は桜へ行くかもしれない」と助言をしていた。締め切りギリギリまで悩んだが、最終的に桜中学への進路を決めた。
「っていうか、なんで大河が桜へ行くと思ったのよ」
「最近の大河を見てたら分かるだろ。完全に羽菜ちゃんに惚れてることが」
「….態度は確かに、変わったと思う」
ブランコを軽く漕ぎながら大河と羽菜を思いだす。
悠太の言う通り、最近の大河は羽菜に対して優しくなった。それは、興味がなくなったから優しくなったのではなく、好意が以前より強くなったから。それは真奈も悠太も察していた。
「あの様子だと、羽菜ちゃんと同じ中学に行くだろうね」
「紅葉だったらどうしてくれるのよ」
「その可能性は低いと思う。僕が羽菜ちゃんを好きなことくらい知ってると思うし、自分が紅葉に行って僕と羽菜ちゃんを二人にさせるとは思えないね」
「もしかしたら羽菜ちゃんを諦めて紅葉に行くかもしれないでしょ」
「大河がいつから羽菜ちゃんにちょっかいかけてると思ってんの。ほぼ六年間だよ。諦めるならもっと早く諦めてるよ」
「それは、そうかも」
納得した様子を見せた真奈に、悠太は冷たい視線を送っていた。
もし大河が桜へ行った場合、真奈が必要になる。なんだかんだ、真奈は羽菜と大河の接触をできるだけ阻止しているからだ。桜に大河が来るのなら、真奈もいた方が都合がいい。
そう考えると、真奈には桜へ行ってもらった方が助かる。保険をかけたのだった。
羽菜以外どうなろうが知ったことではない。
真奈が桜へ行き、大河が紅葉へ行ったとしても悠太には関係なかった。大河と羽菜が離れるならばそれでいい。真奈と大河が別の中学で疎遠になったとしても、悠太にはどうでもいいことだった。
「中学でも大河が人気になったらどうしよう」
「顔だけはいいからね。最近は少し大人しくなって一匹狼になってるし。そういうの好きな女子って割といるよね」
「そうなの!!中学でも女子を監視しないと」
「僕も困るなー」
「羽菜ちゃんの弱々しいオーラ好きな男子も割といるよねー」
「あぁ、それも困るけど。ほら、僕この顔でこの性格じゃん。しかも頭まで良いし。僕に惚れた女子が羽菜ちゃんに意地悪したら困るんだよね」
「うっわ」
「そんなことされたら、羽菜ちゃんが僕から離れていくじゃん」
「本当に裏表激しいよね。引くわー」
しかし否定できないのも事実だった。
羽菜が悠太のせいでいじめられたら、羽菜は悠太から離れてしまう。そうすると最近優しさを発揮し始めた大河が慰める可能性もあるわけで。
うっわ、これ最悪じゃないの!?悠太から離れたら次は大河にいくわあの女!!はぁ、中学でも親友ごっこしないと駄目だわ。
ストレスが溜まりそうだ、と溜息を吐いた。
「あーあ、わたしもか弱い女になりたかったわ」
「その顔が駄目なんじゃないの」
「はぁ!?どういうことよ」
「見るからに強そうだし。髪型とか顔とか」
「えっ、そうなの?」
「髪型変えたり、眉毛整えるくらいしたら?」
「もしかして、わたしってブス?」
「ブスではないけど、意志の強さが顔に出てる。それと、大河に挑むような言い方はやめた方がいいよ。って、これいつか言わなかったっけ」
「言い方については言われたけど」
「じゃあ顔と髪と言動。改善したら?ギャンギャン言ってるとき、大河すごく嫌そうな顔してるから」
ブランコから立ち上がり、帰る気満々でいる悠太の腕を引く。
「待って、じゃあどうしたらいいの?」
「この話、去年もしたはずだけど。羽菜ちゃんを見習えとは言わないけど、おしとやかにしたら?羽菜ちゃんを丸ごと真似するよりは、少しくらい羽菜ちゃんに性格を寄せてみるといいよ」
何度か言われた悠太の言葉。今まで改善することがなかったのは、どうしても本人を前にすると素が出てしまうから。猫を被ることができなかった。
「僕みたいにやれとは言わないけど、猫被るのって大事だよ」
「ありのままを好きになってもらいたいじゃない!」
「あぁ、黒木さんってそっちの人間か」
「そっち...?」
真奈の腕を自身から引き離し、口角を上げて言った。
「僕はね、なんとしても僕を好きになってほしいから。そのためなら死ぬまで優しい僕を続けるよ。ありのままを出して嫌われるよりはずっといい」
その台詞が、真奈の胸に刺さった。
さっさと帰っていく悠太の後ろ姿を見、初めて尊敬の念を抱いた。
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