第27話
進路希望用紙を担任に提出した羽菜は、真奈の相談を受けていた。
「うーん、本当に中学どこに行こうかな」
休憩時間に真奈が唸っているのを聞いて、羽菜は意外に思っていた。
真奈には行きたい中学が決まっているのだと思っていたからだ。
「四つの内私立は二つでしょ。私立は頭良い人が行くんだから、わたしは残りの二つになるわけで」
「さ、桜中学は!?」
「あー、羽菜ちゃんが行くところだっけ」
「うん!どうかな、一緒に通わない?」
「噂だと、桜中学って頭良い中学らしいよ。羽菜ちゃん噂とか聞かないの?」
「き、聞くけど…」
「桜中学を出た人って皆良い高校に行ってるんだよ。テストとかも難しいらしいし、そうなると紅葉中学の方が良い気がする」
真奈が行きたいと思っている中学は羽菜と違う。
羽菜は真奈と同じ中学へ行きたいと思っていたが、桜中学は真奈の言う通り、そういった噂があるし両親も言っていた。
羽菜と真奈では学力に差があり、羽菜が「難しくて八十点だった」と話したときは「わたしなんて四十点だよ」と真奈は答えていた。学力では倍も差があり、桜中学には羽菜のような成績の生徒が行く。
それを羽菜は知っているだけに、行こうよ行こうよとは言えない。
「うーん、紅葉にしようか、でも桜にしようか悩むな」
「真奈ちゃん、どうして桜と悩んでるの?」
紅葉と断言しないことが気になった。
「それはね、羽菜ちゃんと中学一緒がいいなって思ってるからだよ」
嘘だった。
真奈はまだ大河の行く中学を把握していないため、紅葉と断言ができないだけだった。
それを馬鹿正直に羽菜に伝えるわけにはいかず、都合の良い理由が羽菜と通いたいからだった。
「ま、真奈ちゃん!」
羽菜は真奈の言葉を聞いて泣きそうになった。
今までこんな風に言ってくれる友達はいなかったし、桜中学へ行く友達も少ない。
恐らくクラスの子のほとんどが紅葉中学へ行く。羽菜が把握しているところでは、私立へ行くのが三人、桜へ行くのが羽菜を含めて二人、他の子は皆紅葉だった。
「でもわたしの頭じゃ桜は厳しいし、どうしようかなって」
「行こうよ桜中学!大丈夫だよ、勉強なんて私が教えるよ!」
「ありがとう羽菜ちゃん」
もしかしたら真奈と一緒に桜中学へ行けるかもしれないという期待があり、羽菜は踊りだしたい程嬉しかった。
進路希望については、一週間の猶予がある。
その間になんとしても真奈に桜へ行くと言わせたい。
「そういえば、悠太も桜なんだよね」
「悠太くん?そうだよ、私立に行くと思ってたからすごくびっくりしたよ」
「ほら、私立ちょっと遠いからさ。桜の方が悠太の家から近いんだよ」
「うん、悠太くんも言ってた」
桜へ行くのが自分一人ではないことに安堵したのを思い出す。
一人は心細いため、悠太が行くと知った時はうれし涙さえ流れた。
「あ、大河はどうなの?」
「大河くん?」
「羽菜ちゃん席隣じゃん。どこに行くとか聞いてないの?意地悪大河とは中学違うといいけど」
「私から聞けないし、大河くんも自分から言わないし、分からないなぁ」
「そっかー」
羽菜は少し、大河の進路が気になっていた。
きっと紅葉だろうという予想はしていた。
大河の学力を考えれば、桜や私立なんて考えられなかった。
でも、羽菜の中で少し、ほんの少しだけ、一緒の中学だったらいいなという願望もあった。
今まで散々いじめてきた大河だったが、最近は暴言だけで暴力はしてこない。以前より優しさを感じることが増えた。
中学が一緒だと、もしかしたら話す機会があるかもしれない。
中学が別々になってしまうと、もう大河には会えない気がした。遊ぶような関係ではないし、大河と羽菜の関係は学校が同じでクラスも同じだからこそ成り立っているといえる。
まだ大河との関係を続けたいと思っていた。
それを真奈に話すのは、変な気がした。
真奈は自分をいつも気にかけてくれて、大河にいじめられているといつも助けてくれた。中学のことだって、自分に酷い態度をとる大河とは別だといいねと言ったり。何かしら気遣ってくれていた。
そんな真奈に、大河と同じ中学がいいなとは言えなかった。
今まで真奈がしてくれた優しさを踏みにじるような気がした。
「中学かぁ、桜か紅葉か、悩むなー」
究極の選択のように唸って考え込む真奈に、羽菜は「桜に行こう!」と強くすすめた。
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