第25話

「そんなに羽菜ちゃんが好きなの?」

「そんなに大河が好きなの?」


 質問に質問で返され、真奈は一層ムッとした。

 真奈は何故あんな女子が二人の男に好かれているのか分からなかった。儚げなところがあるとは思うが、あんなのはただの鬱陶しい女子にしか見えない。ウジウジして、臆病で、すぐ泣くところが嫌いだ。どうしてあんなのが好かれるのか。


 ランドセルを地面に置き、他には誰もいない公園での会議。

 真奈としては悠太が嫌いなわけではないが、普段の悠太ではない、協力をしようと言ってきたときの悠太はあまり好きではない。つまり今の悠太だ。


「協力って、どうするの?」

「互いに別の中学へ行くことが目標かな」

「はぁ?めっちゃ先の話じゃん。今だよ、今」


 悠太の提案が気に食わず、大きな声で反対した。


「もし今付き合ったとして、いつまで付き合うの?高校生?その後は?」

「先のことなんて分かんないし」

「僕は、小学生のうちは付き合わない方がいいと思う」

「えー!そんなことしてたら他のやつにとられるじゃん!」

「それは自分次第だろ。考えてみろよ、新しい学校で慣れるには彼氏彼女は要らない。新しい友達を作りたいのに、昼や放課後や休みを恋人に使うとどうなる?友達はできないし揶揄われるし、嫌だろ」

「それは、そうだけど」

「だったら、まずは恋人になるより同じ中学に行くことが大事だ。そっちとこっちは、別の中学が良い」


 それには真奈も賛成だった。

 大河と羽菜が同じ中学ならば、自分もまた羽菜と一緒に居なければならない。それは苦痛だし、何より大河と羽菜の距離が縮まるのが一番嫌だった。

 中学まで羽菜の傍には居たくなかったし、大河の傍にいてほしくなかった。


「でも、どうやるの?」


 大河と羽菜が、意図せずとも同じ中学に行くかもしれない。

 そうなったらどうするのだ、と心配そうに悠太に聞く。


「六年生のときに、どこの中学に行くか紙に書いて提出するんだ。だからそのとき、大河の行く中学をこっそり見ればいい」

「できるの?」

「無理そうなら、大河にどこの中学に行くか聞くしかないね」

「それなら、悠太が聞いてよね。わたしじゃ教えてくれないだろうし」

「いいけど、僕にだって教えるか分からないよ。僕に言った後に、変えるかもしれないし。一番良いのは、大河が提出した紙を見て、黒木さんも書くこと」

「….できれば、やってみる」


 本当にそんなことが可能なのかと思ったが、色々と理由をつければ大丈夫だろうと、大雑把に考えていた。先生からも信頼は厚く、クラスメイトからも人気である真奈には、それができると自負していた。


「中学の話は分かった。でも、あの二人の距離感は何?何があったの?」


 真奈の本題はこれだった。

 悠太は話すのが面倒だったが、これも協力のため仕方ない。あの宿題についての話をした。

 絵梨のことは伏せて話し、「この先の信用に関わるから、誰がやったかは言わないし、この話は人に言わないでね」と釘を刺した。


 真奈は話を聞いて頭を抱えた。


 そんなことがあったの。でも、何で大河は羽菜ちゃんに助言したんだろう。今までだったら絶対にしなかったし、そんなことしたら羽菜ちゃんが大河のこと好きになるじゃん。最悪、本当に最悪。羽菜ちゃんには悠太がいるんだから、大河にまで手を出さないでよ。本当に、なんなの。


「悠太は羽菜ちゃんのこと好きでも、わたしは嫌い。静かですよ、か弱い女子ですよ、っていう感じが無理」

「僕も大河のこと好きじゃない。羽菜ちゃんのこといじめるならそれを貫いてくれないと困る。今回みたいに、急に違う態度なんてとるなよ」


 互いの好きな人が嫌い。

 自分の好きな人をとるかもしれないから嫌い。


 一度吐いてしまうと、悪口はとまらない。その上、一層の嫌悪感が襲う。

 しかし、好きな人の悪口はあまり聞きたくないため、互いに睨みつけ合いながらの悪口合戦。それでも喧嘩にならないのは、互いの心中を察しているから。同じ気持ちであるため、喧嘩に発展することはなかった。


「はぁ、卒業まで我慢か」

「それまでに異性の友達ナンバーワンの座を持ってないとね」

「大河、わたしのこと興味なさそうだし」

「好きな子にちょっかいかけてるのに、黒木さんが反応したら面白くないからね。羽菜ちゃんのフンはやめて、一人で声かけに行かないと」

「うっさい。分かってんのよ」


 悠太は真奈と会話をするとき笑顔を見せない。終始無表情か、嫌そうに顔を顰めるだけ。

 真奈もそれは分かっているし、悠太も自覚はあった。


 自分に冷たい態度をとる悠太を好きにはなれないが、アドバイスは的確であるため、必要なのも事実だった。


 悠太がランドセルを背負い立ち上がると、解散の合図だと悟り真奈もランドセルを背負ってスカートについた土を払った。


 互いに帰る方向は違うため、悠太は右へ、真奈は左へ歩き別れの挨拶はなかった。

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