第24話
羽菜は少しずつだが悠太を意識していた。絵梨のときだって、手伝うと言ってくれたり味方になってくれたりと、臆病者の羽菜にはすごく有難かった。男子にこういうことをされたことは今までなかったので、悠太は他の男子とは違い、そこが羽菜にとって新しかった。
しかし、悠太は皆に優しい。誰にでも平等に接するし、よく人を助けている。だから女子にも人気があるのだと思っている。
そしてもうひとつ、気になるのは大河だ。もしかして、大河は優しいのではないかと思い始めた。絵梨のときは、関係ないはずなのに助言をしてくれ、見事それは的中した。いつもなら助けるようなことはしないだろうし、相手は羽菜だ。余計に助けたくないだろうに、助けてくれた。本人にそのつもりがなくとも、結果的に羽菜は救われた。
ただの気まぐれであんなことをするとは思えないし、羽菜のことが嫌いなら、口を挟むこともなかっただろう。
そうして、大河は実は優しいのでは、とプラスに考えるようになった。
よくよく思い返すと、あれは大河なりの優しさだったのかもしれないと思うことがでてきた。
羽菜が外で遊んでいたとき。友達とはしゃいで遊んでいると息苦しくなり、休んでいたときだ。大河が羽菜を蹴り、外で遊ぶなということを言っていた。あれは、羽菜の身体を思ってのことだったのか。
と、考えて頭を振った。やっぱり優しくない。それに、理不尽な八つ当たりもたくさんあった。大河が優しいという結論はなかったことにした。
それでも、頭の片隅にくらいは置いておくことにした。もしかしたら、もしかしたらという小さな可能性を否定しきれないからだった。
大河に対しての好感度は以前より少しだけ上がった。
今までマイナスだった大河がゼロになった感じだ。ゼロより少し下かもしれないが、羽菜は今まで感じたことのない気持ちだった。
悠太のことは好きなのだが、悠太はそもそもプラスからのスタートだった。人気者の悠太と話して楽しい。プラスからまたプラスされた。
大河はマイナスからのゼロだ。
羽菜は悠太の優しさ、悠太への好意よりも大河の方も気になっていた。
何度か頭を振って否定してみるが、やはり大河に助けてもらったという事実がある。嫌いだったはずなのに、何故か気になっている。恋愛なのかそうでないのか、まだ分からないが、その分からない感情が気になっていた。
「羽菜ちゃん、どうかした?」
悠太との帰り道、羽菜はぼんやりと大河のことを考えていたため、悠太の話を右から左に流していた。
心配そうにのぞき込む悠太にはっとして、慌てて笑顔をつくる。
「大丈夫だよ、ちょっと考え事してただけ」
「ふうん。もしかして大河のこと?」
「えっ」
図星だったため目を見開いて阿保のように口を開けた。
嘘が吐けない羽菜を見て苦笑し、羽菜から視線を外して前を見た。
あと少しで羽菜との別れ道。話したいことは早く話そうと、悠太は回りくどい言い方を避けた。
「大河が助けてくれたから、驚いてるんでしょ?」
「う、うん」
「いつもぶっきらぼうだから、たまに優しいところを見ると皆驚いてるよ。普段の大河からは想像できないって」
「やっぱり」
「いつも優しかったら皆びっくりしないんだけど、いつも不愛想だから。女子は皆驚くんだよ」
「そうなんだ」
羽菜はその話を聞いて、自分だけではなかったのだと安心した。
皆こういう気持ちになるんだ。いつも意地悪ばかりしてくるから、余計にかっこよく見えたんだ。
そう思って羽菜は呆気にとられた。
そうか、私は大河くんがかっこいいと思ってたんだ。あのとき助けてもらって、嬉しかったのと、かっこいいなって気持ちがあったんだ。大河くんが初めてかっこよく見えたんだ。ヒーローみたいだ、って思ったんだ。
まさか自分がそんな風に思う日がくるなんて夢にも思っていなかった。
悠太は、言う言葉を間違えたかと内心舌打ちをした。
羽菜の横顔を見れば、大河への好感度が上がったことなんて丸わかりだった。
それでも、大河を悪く言えば自分の株が下がる。大河を持ち上げれば大河の株が上がる。
最善の選択ができなかったが、嫌われることだけは避けたかった。
「じゃあ、また明日ね、悠太くん」
「うん、気をつけてね」
分かれ道で互いに手を振った。
羽菜の後ろ姿を見送り、来た道を戻る。羽菜と途中で通りがかった公園に入ると、公園の奥にあるブランコで一人遊んでいる真奈を発見した。
真奈が悠太に気付くと不貞腐れた顔をして睨みつけた。協力はしたいが、どうも悠太の思うツボになっている。羽菜を途中まで送る間、自分はこの公園で一人寂しくブランコを漕いでいたのだから。
悠太はそんな真奈を無視し、隣のブランコに座った。
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