第22話

 恋愛の相談をして、悠太が空から教わったことは大きく三つある。


 一つ目は、大河の放置。本人曰く、「好きな子がいじめられて助けるのは当然だけど、悠太のパターンは放置の方が上手くいくね。だってその大河って子も羽菜ちゃんが好きなんでしょ?でも羽菜ちゃんからしたらいじめてくる男なんて嫌いに決まってんじゃん。そのまま放置してた方が、大河に対しての好感度なんてマイナスだよ。自爆してくれてライバル減るとかラッキーじゃん」とのこと。


 二つ目は、とにかく優しくする。本人曰く、「小学生なんて男の優しさを理解できないだろうから、理解させるようにどんな小さなことでも優しくすること。他の男との違いを見せつけるわけだね。悠太は他の男と違って優しいね、と思わせること」とのこと。


 三つ目は、恋愛を意識させること。本人曰く、「ただの優しい男になるのが一番駄目だから、なんとしてでも恋愛というワードを持たせて意識させること。そしたら、他の男子と違って優しい悠太を意識していく、って感じかな。さっきも言ったけど、優しいだけの男にはなるなよ」とのこと。


 悠太は以前から空に対し憧れを持っていたが、恋愛について教えてくれる空には説得力しかなく、本当に凄い人だと尊敬の念を抱いた。


 実際にその言葉通りに進め、たまに両親の許可をとって空の家へ行きアドバイスを求めることもあった。


 羽菜に対し、恋愛を意識させることができたのはとても大きいと思っている。


 恋愛初心者向けの本だと言ってすすめた本が正解だったようだ。

 あれは空ではなく悠太が意識させるためにつくった作戦だった。一緒に図書館へ行くまでの誘導はスムーズにいき、歓喜した。


 悠太にすすめられて羽菜が読んだ本は、悠太が読んで鼻で笑った本だった。

 こんなものは恋愛とは言わない、その感想しかなかった。けれど恋愛が分からない羽菜にはこれが恋愛だと錯覚するのではないかと思った。

 「優しくされると嬉しい」「いつも感謝の気持ちを持っている」「話しているととても楽しい」これらが恋愛だと書いてあり、何も知らない羽菜は騙されるに違いないと、すすめたのだ。

 それが見事大当たり。以前より、羽菜が自分を見る目に熱があると気づいた。


「ちょろかったな」


 そう笑ったのも束の間、まさか羽菜が大河に感謝する日がこようとは思わなかった。

 このままでは、もしかしてという嫌な想像をしてしまう。

 空は放置でいいと言っていたが、どうしても気になってしまう。


 自分がひねくれている自覚はあった。頭が良いため、他人との思考の差も理解していた。

 だから、同じく頭の良い空に憧れ、思考も似ているのだと思っていた。


 空は恋愛に対して計算しかない。いかにして相手を自分のモノにするか。それが大事だと言っていたし、悠太もそう思う。恋愛とは計算なくして成り立たない。

 他人のことよりも、好きな人を自分のモノにすることが大事。何を犠牲にしても手に入れたい。

 その感情が強かった。

 ただそれは決して表に出してはいけないものであると知っている。そんなことをしてしまえば、羽菜は悠太を嫌うだろう。


 そんなとき、真奈の言葉を思い出した。協力しようというものだった。

 悠太は真奈に対して若干の嫌悪を感じていた。

 理由は薄くだが、分かっている。同族嫌悪だ。


 羽菜のような純粋さとは真逆の、自己中心的なものの考え方。

 大好きな大河の視界に入るため、嫌いな女子と毎日一緒にいるような女子。なんとしてでも手に入れる姿勢が自分と似ている。


 しかし、ここでまた空の言葉を思い出した。

「小学生の繋がりって割と緩いんだよね。小学校卒業して中学生になったら、それまでの関係が切れること多いし。聞いてる限り、大河と羽菜ちゃんの関係なんてすぐ切れそう。それこそ、大河と違う中学に二人で入学して仲良くしてたら、新規の男なんて入る隙間ないし上手くいく可能性大だね。まあ焦って付き合うことはないと思うけどね。俺もじっくり時間かけたし」

 焦る必要はないと言っていた。大河が目障りなのは事実だし、中学では当然空の言う通り羽菜と離れてほしいと思っている。


 真奈と協力するか。それともしばらく様子見するか。

 真奈が信用できる人間だとは思えないし、協力するなら自分のこの性格を暴露しなければ話ができない。

 そうなると、リスクを抱えることになる。真奈が羽菜にこのことを暴露しないとも限らない。

 こちらだけうまくいき、あちらは失敗した場合、真奈は嫉妬で羽菜に囁くかもしれない。そういう女だと知っている。


 大河と羽菜は一センチ程の進展があった。

 たかが一センチされど一センチ。この差が後に大きく響く可能性もある。


 どうしたものかと頭を抱えた。

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