第18話
羽菜がそう言うと先生は「取り敢えず小山さん呼ぼうか」と言い、絵梨をデスクの方へ呼んだ。
絵梨は何の用だか分からないようで、きょとんとしていた。
「小山さん、水野さんの宿題を出したって本当?」
「はい、出しましたけど」
「水野さんの宿題が一番早かった?」
「はい」
羽菜は確かに絵梨に渡した。絵梨が自分の席に戻るついでに出してくると言ってくれたので、それに甘えることにしたのだ。あのとき自分で出していたらよかったのだろうか。
「それじゃあ佐藤くんの言う通り、風でどこかに飛んでいったのかなぁ。でも見つけないと、水野さんは提出してないことになるし」
「羽菜ちゃんの宿題風に飛ばされたの?」
絵梨が羽菜に聞くが、羽菜にもよく分からないので、首を傾げることしかできなかった。
「ふうん、まあでも羽菜ちゃんいつもちゃんと出してるから、出したことにしていいんじゃないですか?」
「いやそれはだめなんだよ、そんなことしたら皆にもそうしないといけないでしょ」
「えー、先生ケチ。なら、提出できてないならもうそのままでいいじゃん。羽菜ちゃんいつも出してるから、一回くらい出してなくてもどうってことないでしょ」
絵梨はあまり特定の人と一緒にいるような女子ではなかった。あっちのグループへ行ったり、こっちのグループへ行ったりして、一番仲の良い友達というのはいなかった。
そのため、羽菜のことは好きでも嫌いでもなかったし、羽菜も絵梨とそこまで仲が良いわけでもないので、好きでも嫌いでもなかった。
それでも、「一回くらい出してなくてもどうってことないでしょ」という言葉は、羽菜にとって良い言葉ではなかった。一回くらい、という考えがなかった。だが、自分のプリントが見つからないし、先生も困っている様子を見て申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
「小山さん、それはないんじゃない?」
反論したのは悠太だった。
「羽菜ちゃんのプリントを出したのは小山さんでしょ?なのに未提出のままでいいって、酷いと思うよ」
「はー?っていうか悠太に関係ある?」
「ないね。でも小山さんにはあるでしょ?羽菜ちゃんのプリント出したの、小山さんなんだから」
「そうかもしれないけど、でも見つからないんじゃどうしようもないじゃん」
「羽菜ちゃんの宿題を最後に触ったのは小山さんで、その行方を知ってる可能性があるのは小山さんなんだけど」
「行方って何。もしかしてあたしが失くしたってこと?」
「そんなことは言ってないけど、でも全く関係ないことはないよね」
絵梨と言いあう悠太は、意外だった。
いつも穏やかなイメージがあり、優しい悠太が女子相手に言い合うなんて羽菜は見たことがなかった。
話すときには微笑んでくれるし、女子にも人気のある悠太が表情を無くして女子に反論している。それが自分のためだと思うと、羽菜は心がぽかぽかした。
嬉しいと思っていいのかどうか分からないが、それでも羽菜は嬉しいと感じた。
「はいはい、待ってね。もう給食だから、この話は放課後にしましょう。誰が失くしたというよりかは、水野さんのプリントを見つけようね。佐藤くんは当事者ではないから、水野さんと小山さん、放課後残ってくれる?」
「はい」
「え、なんであたしまで」
絵梨は嫌そうに顔を顰めた。羽菜は罪悪感でいっぱいだった。
「最後に触ったのが小山さんだからね。三人で探そう」
「僕も放課後暇なので手伝いますよ」
「あ、そう?取り敢えずデスクを中心に探して、後は教室全体を探そうと思ってるから。じゃあまた放課後ここに集まってね」
三人がそれぞれ返事をし、席に戻った。
羽菜は悠太と絵梨を巻き込んでしまったことを申し訳なく思っていた。
もしかしたら今回のことで悠太に嫌われるかもしれないと、少し不安になった。
迷惑をかけた羽菜を、うざいと思ったのではないかと。
けれど、先程は絵梨と言い合いをして羽菜の味方をしてくれた。それを考えると、うざいとまでは思われていないのでは、と良い方向へ考えた。
「羽菜ちゃん、どうだった?」
真奈が様子を伺うように尋ねたので、羽菜は「放課後は残ることになった」とだけ伝えた。すると「そっか、じゃあ先に帰るね」と言って席へ戻って行った。
そういえば、結局真奈ちゃんは何で泣いてたんだろうか。でも今更聞けないし、いじめられて泣いてることしかできない私に、相談なんてしないよね。
すごく寂しく、本当に友達だろうかと悩んだが、それよりも放課後宿題が見つかるといいな、という気持ちの方が勝った。
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