第17話
ある日の国語の授業で、事件が起きた。
その日の朝、羽菜はホームルームが始まる前に国語の宿題を確かに提出したはずだった。
ホームルーム前に提出し、ホームルームが終わると先生が回収して、国語の授業のときに返却される。たまにあるパターンだった。
朝一番に登校した羽菜は黒板に「国語の宿題を前に出してください」と書かれてあるのを見て、ファイルから宿題のプリントを出したのだ。
羽菜は間違いなく提出したはずだったのに、何故か国語の授業になると羽菜のプリントは返却されなかった。それどころか、提出していない人の名前として挙げられていた。
「先生、私ちゃんと出しました」
「え、そうなの?おかしいな」
そう言って先生はもう一度机の上を探したり、プリントの束を捲ったりして羽菜の宿題を探した。それでも見つからず、羽菜は困惑した。
「もしかしたら、水野さんのプリントを間違えて持ってる人がいるかもしれないから、皆確かめてくれる?」
先生がそう言って確かめるように促すと、クラスメイトはファイルを漁ったりプリントが重なっていないかなどを確かめた。
しかし、誰一人羽菜のプリントを持っていなかった。
このままでは国語の授業が進まないということで授業が始まったが、羽菜は宿題が出せていないことに焦った。今まで宿題を出さなかったことがなく、初めて未提出になり泣きそうだった。
授業が終わると給食の時間になり、羽菜は教室の隅にある先生のデスクに行き、話をした。
「じゃあ、水野さんは間違いなく提出したんだよね」
「はい。朝一番に来たので、そのときに出しました」
「うーん、だって宿題を持ってデスクに移動しただけだし、職員室には持って行ってないし」
羽菜をデスクに呼ぶ前に探したが、見つからなかったため羽菜との話し合いになった。
出したのに出してない事実が不安になり、泣きそうになっている羽菜を見て解決しなければと先生は思った。
「水野さんは優秀だから、今までずっと宿題はやってたし出してたよね」
「はい」
「水野さんが出したっていうんだから出したんだろうけど...こっちのミスかもしれないし、提出済みにしてあげたいんだけど」
実際に提出されていないのに提出したことにするなど、到底できなかった。
そうすると他の生徒に示しがつかないし、羽菜が批難されることは考えずともわかる。
「大丈夫?」
先生は悩み、羽菜は俯き、言葉がなかったところへ悠太がやってきた。
国語の授業のときに羽菜の未提出問題が分かり、授業中も気にかけていた。
羽菜の背中に手をあて、ゆっくりと上下に動かす。羽菜が泣きそうに見えたため、とった行動だった。
「佐藤くん。うーん、プリントが見当たらないんだよね。水野さんは出したみたいだけど」
「出しました。絶対に出しました」
言い切る羽菜に、困ったなぁと頭を掻く先生を見て悠太は少し考えた。
お母さんに何て言おう、と羽菜は母のことを考えた。
羽菜の成績が良いことを母はよく褒めてくれる。提出物はいつも忘れない、宿題も毎回きちんとこなす。成績はいつも「よくできた」の欄に丸がされ、先生がコメントを書く欄にも提出物がきちんとしているとあった。忘れ物や未提出など、羽菜の中にはなく、今まで経験したことのないものだった。それ故に今回のことは落ち込んだ。
「羽菜ちゃん、本当に出したの?」
悠太は羽菜にそう問うと、羽菜は頭を強く殴られたような気がした。
まさか悠太が自分のことを疑うとは思っていなかったからだ。自分が出していないのに「出した」と言う人間だとでも思っているのか。じわりと視界が歪んだ。
「あ、疑ってるとかじゃないよ。そのときの状況がよく分からないとさ。一番最初にプリントを置いたなら、重しがなかったわけだよね。そうすると、風で飛ばされたかもしれないよ」
そう言われて二人は気づき、「確かに、ありえる」と言った先生の顔を見ながら羽菜は思い出す。
「羽菜ちゃんが教室に入ってきたときのことから話してよ」
悠太はなんだか自分が警察や探偵のようだと内心苦笑した。
「朝、八時ちょっと前くらいに教室に入ったの。誰もいなかったから、電気をつけて、自分の机にランドセルを置いて座って。ランドセルから教科書とか全部出して机の中に入れて、その後に黒板の文字に気付いてファイルからプリントを出したの」
既に涙は引っ込み、朝のことを懸命に思い出す。自分の宿題が見つかる手がかりが、何かあるのでは、と細かいことまで話し、それを悠太と先生は黙って聞いていた。
「宿題を出そうと思ったんだけど、最後に確認しようと思って一回プリントを見てた。そしたら、絵梨ちゃんが教室に入って来て、おはようって言って、その後絵梨ちゃんが席についたの。そしたら絵梨ちゃんが私の席に来て、話をして、その後プリントを出してくれたの」
悠太はきょとんとして言った。
「じゃあ、羽菜ちゃんはそのプリントが提出されたかされてないかを知らないってこと?」
悠太のその言葉を聞いて羽菜もきょとんとして言った。
「絵梨ちゃんが出してくれるって言って持っていったから、出してくれたよ?」
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