第14話

 黒木真奈は素直な性格だった。嫌なことは嫌だと言う性格は、男子に疎まれていたものの女子からは好かれていた。

 嫌いな人間は特にいなかったが、誰か一人を挙げるとすれば水野羽菜が好きではなかった。

 身体が弱い羽菜のことを好きにはなれず、他の子と違い扱いにくかった。そして性格がなよなよしていたため、真奈はよくイライラすることが多かった。

 最初こそ羽菜には近づかなかった。好きではない人間に近づく程器用ではなかったし、そんな必要がなかったからだ。


 そんな真奈に好きな人ができた。その相手はいつも外で楽しく遊び、男子の先頭にいる大河だった。無邪気に遊ぶ大河が気になり、いつしか目で追っていた。気づいたら惚れていた。


 しかし大河は羽菜のことが好きなようだった。いじめているように見えるが、好きな子ほどいじめたいというものだろう、ということは真奈には分かった。

 羽菜は儚くか弱い印象があり、その姿が大河を惚れさせた原因だということも分かっていた。自分とは正反対の羽菜。どうやったって羽菜のような女子にはなれない。


 好きではなかった羽菜が、嫌いになった瞬間だった。


「羽菜ちゃんはずるい。何もできないくせに大河と喋ってるんだもん」


 母親の前で羽菜の悪口を何度言ったか分からない。それくらい嫌いだった。

 しかしあるとき、母が言った。


「羽菜ちゃんはなりたくてそうなったんじゃないのよ。健康なあんたが助けてあげるくらいしなさい」


 その言葉を聞いて、最初は「なんでわたしがそんなことするの。羽菜ちゃんなんて放っておけばいいの」と言い返したが、よく考えてみると、とても良い案だと思った。


 羽菜ちゃんの隣にいれば、大河と話せるかも。


 そう考えた翌日から、羽菜の隣をキープすることにした。そうしたら、大河と関わる機会が一気に増えた。

 羽菜を守るフリをして大河と話し、ときには触ることもできた。

 真奈にとって羽菜は都合がよかった。大河に好かれている羽菜は嫌いだが、大河と関わる機会を与えてくれる羽菜は好きだった。


 しかし羽菜を好きになることはできなかった。話せば話す程やっぱり嫌いだと再認識する。とろいし、弱気だし、真奈の嫌いなタイプだった。それでも真奈は我慢して羽菜の隣にいた。大河と少しでも一緒にいたかったからだ。


「羽菜ちゃんに何してるの!」


 何度口にしたか分からない。しかしとても良い言葉だった。

 羽菜を守っている自分を見て。とても良い人でしょう。女子の中で一番話しているのは自分でしょう。そういう気持ちが膨らんでいく中、もっと良い情報が入ってきた。


 悠太は、羽菜のことが好き。


 なんでまた羽菜なんだ、とも思ったがチャンスだとも思った。これで二人がくっ付けば、大河も諦めるだろうし、大河と付き合えるかも。


 悠太と羽菜に猛プッシュした。


 二人が本の話題で仲良くなっていると知ると、大河には絶対できないことだと思い気分がよかった。二人には二人の世界がある。その中に大河は入れない。


 二人が図書館に行くと知り、真奈も足を運んだ。

 二人がどうなっているのか知りたかったからだ。

 羽菜にはバレてしまい、そういうところも嫌いだと思ったが顔には出さなかった。


 二人が本を読んでいる姿は他の人間が入る隙間もなく、とても良い雰囲気だった。


 羽菜は大河のことが嫌いみたいだし、悠太は羽菜のことが好き。好条件がそろっているのだから、大河が自分を好きになるのも時間の問題だと思った。


「ただいまー」


 図書館から家に帰ると母親はじろじろと見てきた。


「あんた本なんか読むの?」

「まあね」


 そうだ、悠太と協力すればいいのかもしれない。悠太とわたしが協力すれば、お互い良いことばかりだし、明日にでも言ってみようかな。


 悠太は自分と似ていると思う。


 好きな人を手に入れたいところとか。


 きっと協力してくれるに違いない。


 やっと進展する、と思うと楽しくなり、鼻歌まじりに宿題をした。

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