第12話
明日は悠太くんと図書館だ。
そう思うと学校へ行くのもいつもより楽しくなってくる。
友達と図書館へ行ったことなんてないし、初めてのことだったので気分も上がっていた。
悠太からすすめられた本は一冊なんとか読み終えた。読めない漢字は親に聞いたり漢字辞典を引いたりと、なんとか頑張って読んだ。内容はなんとなく把握したが、漢字が読めないことがネックだった。
昼休みになり、悠太にすすめられた二冊目、紙ひこうきを読んでいた。一冊目よりは読みやすく、分かる漢字も多い。けれども読めない漢字もいくつかあり、その度に辞書を引いて調べていた。
真奈は他の女子と縄跳びをしに外へ行き、悠太も今日は友達とボール遊びをするようで男子数人と校庭へ出た。
羽菜は静かに一人で読書をしていると、いきなり頭を叩かれた。
「いたっ」と声を出し、誰がやったのか予想はついていたが、案の定嫌いな男が横に立っていた。
「クソがり勉」
大河が手に持っていたのは黒板消しだった。
通りでいつもより衝撃が少ないと感じたわけだ。
羽菜は大河が持っている黒板消しに気付くと急いで頭についたチョークの粉を払った。
大河は日直で、黒板を綺麗にしていた。黒板消しについた粉を落とす前に羽菜の頭を叩いたのだった。
「お前、最近悠太と仲良くしすぎ」
「い、いいじゃん」
「調子乗りすぎ」
もう一度羽菜の頭を黒板消しで叩いた。叩いた瞬間、ポフっという音とともに粉が舞った。
泣きそうになりながら必死に頭についた粉をもう一度払う。
「もうっ、なんなの?」
キッと大河を睨みつける羽菜に、大河はぴくっと反応した。
「お前、悠太のこと好きなんだろ」
「えっ」
「ブスが悠太を好きとかマジキモイ」
おえぇっと顔を歪めて心底気持ち悪い、とリアクションをとった大河に羽菜は固まる。
そんな羽菜に気付かず、大河は続けた。
「悠太はお前みたいなのと全然釣り合ってねえから。悠太のこと好きになっても無駄だぜ、悠太はお前なんて全然好きじゃねえから」
仁王立ちして言った。
大河にまでそう言われ、羽菜は本当にこれが恋なのかどうかについて、肯定に傾いた。
あの大河にまで言われてしまい、自分は悠太に恋をしているのではないかと思い始めた。
黙り込む羽菜に苛つき、机を蹴った。羽菜は我に返って大河を見上げる。
大河は気をよくしてまた言い続ける。
「ブスが恋愛とか気持ち悪いだろ。悠太が可哀想」
大河ですら恋愛を知っているというのに、自分は知らない。それを実感して唇を噛みしめた。
なんでこんな男子が恋愛のことを知ってて、私は知らないんだろう。私は大河くんより頭良いし、大河くんはいつもテストの点数悪いのに。
一人だけ無知なことに悔しくなった。
「おいブス、聞いてんのか」
げしげしと机を蹴り、羽菜の机は徐々に定位置からずれてきた。
そこへタイミングよく縄跳びに飽きた真奈が戻って来て、大河の頭を叩いた。
「んな!?」
「いい加減にしなよ!」
「うるせえブス!」
「ブスって何よブスって!」
羽菜が教室の入り口を見てみると、真奈が一緒に縄跳びをしていた女子たちが戻ってきたところだった。
大河に強く当たり、羽菜を守る真奈は女子から見ると憧れる姿だ。
「ふんっ、ブスがスカートなんて穿きやがって」
「わたしに言ってんの!?」
「お前以外に誰がいるんだブス」
「ははーん、あんたもスカート穿きたいんでしょ。素直にそう言いなさいよ」
「バッカ!ブスは脳みそまでブスだな!」
真奈が現れたことによりターゲットが羽菜から真奈に変わった。
大河の暴言にも言い返すことのできる真奈はやはり憧れだと再認識する。
羽菜は居た堪れなくなり、視線を泳がせていると悠太も校庭から戻ってきたようで、扉の前からじっとこちらを見ていた。
羽菜は自分のために真奈が守ってくれている、それを悠太に見られていることが恥ずかしくなった。
言い返すこともできず、ただ友達に守ってもらうだけの姿は、きっと惨めに映っているに違いない。穴があったら入りたかった。
俯いて涙を堪え、自分は本当に弱いと実感する。
身体のことだけではなく、精神的にも弱い。だから大河にもいじめられるし、真奈には守ってもらい、悠太は優しくしてくれるのだろう。そう思うと惨めになり、羞恥で顔を上げることができなかった。
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