第2話

 放課後、いつものように羽菜は真奈と学校を出た。

 羽菜は友達が少ないわけではなかったが、真奈は中でも一番仲が良かった。いつも一緒にいるし、何より強気な真奈は大河を怒ってくれることもあり、頼りにしていた。姉がいたらこんな感じだろうかと、考えることもあった。


「本当に大河は駄目なんだから」


 真奈ちゃんも大河くんのこと嫌いなのかな。


 羽菜はそう思っていた。真奈は羽菜と違い、健康的な色をして、体育では活躍している。女子の皆と仲良くて、とても憧れる。


「羽菜ちゃんも、嫌なら嫌って言うんだよ」

「うん」

「嫌だって言わないから大河が意地悪してくるの」

「今度からそうする」


 怖くて真奈ちゃんのように強くは言い返せないけど、やっぱりちゃんと嫌って言わなきゃだめだよね。


 学校を出て十五分ほど歩いたころ、公園を通りがかった。羽菜が友達とたまに遊んでいる大きな公園だ。その公園から楽しそうな声が聞こえ、ちらっと見る。

 そこには羽菜の嫌いな大河と、その友達が楽しそうに遊んでいた。

 羽菜はうげっと顔を顰め、こちらに気付かれないように俯きその場を早く去ろうとした。


「あー!!大河!」


 しかし真奈は違った。大河を見つけるなり声を上げ、羽菜の手を握り公園へ入った。

 学校帰りに寄り道をすることはあまりなく、また両親に寄り道をしたと伝えると、軽く咎められるため、羽菜は真っ直ぐ家に帰りたかった。


「大河、あんたどういうつもりなの?」

「何が」


 真奈が大河に詰め寄ったため、大河とその友達は遊ぶことを中断した。邪魔が入ったことで大河は眉間にしわを寄せた。


「何がじゃないよ。今日も羽菜ちゃんに意地悪したでしょ。そういうのもうやめな」

「うるせーな」


 もう聞き飽きたとでも言わんばかりに大河は耳に手を当てた。


「おい女子、邪魔すんなよ」

「あんたとは喋ってない」


 大河と遊んでいた友達は真奈に近づき、肩を押した。しかし真奈も負けじと手を払い、睨みをきかせた。

 羽菜はおろおろするばかりで、発言もできない。


「黒木に関係ないだろ。俺、黒木に何もしてないし」

「そういう問題じゃないでしょ。羽菜ちゃんはわたしの友達なんだから」

「はあ?」


 実際、大河は理解ができなかった。自分がちょっかいをかけているのは羽菜であり、真奈ではない。その真奈に文句を言われる筋合いがなかった。


「ま、真奈ちゃん、もういいから」


 真奈の袖をくいっと引き、もう帰ろうと伝える。


「よくない、だってこれからずっと大河に意地悪されるかもしれないんだよ」

「だーかーらー、お前に関係ないだろ」

「ある!!羽菜ちゃんは友達だもん!」

「あー、うるせえ。なんで女子ってこんなにうるさいんだよ」


 そう言って羽菜を盗み見た。


 水野はうるさくないのに、何でこいつとか他の女子はうるさいんだ。


 だが、それを言うとまた別のことで責められそうで、言わなかった。

 羽菜が文句を言ってくるならまだしも、真奈に言われても面白くもなんともないので、とにかく早く真奈を追い払いたかった。


「おい大河、早く遊ぼうぜ」

「おう」


 大河の友達が痺れを切らし、ボールを大河に渡した。

 大河もこれ以上遊びの邪魔をされたくなかったし、羽菜は喋らないし、真奈との言い合いも面倒になっていた。


 友達と他の遊べる場所まで走って行った大河を見て、真奈は追いかけようとした。


「ま、真奈ちゃん、もういいから」

「でも、また羽菜ちゃんがいじめられるかもしれないんだよ」

「今日はもういいよ」

「うーん、そっか」


 あのまま追いかけて言い合いをされても、羽菜は肩身が狭く、また何もせず立っているだけになりそうだった。

 自分のためだとは分かっているが、真奈の執拗に追いかける姿は、あまり嬉しいとは思わなかった。


「真奈ちゃん、いつもありがとうね」

「ううん、だって友達だもん」


 真奈ちゃんは本当に良い子だなぁ。いつも私のためにしてくれるし、私も真奈ちゃんのようになりたいなぁ。そうしたら大河くんに言い返せるし、知らない子ともすぐに仲良くなることができる。


 公園を出て、歩道を歩きながら真奈と手を繋いだ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る